リモコン一つでどうしろと!

朝倉神社

第一章 勇者と魔王の戦いに巻き込まれ

第1話 召喚に応じますか?

(くそ、なんで、最後にエリスが死ぬんだよ!)


 エンドロールの流れるアニメを見ながら、心の中で舌打ちする。

 毎週見ていたアニメシリーズの最終回が終わったところだ。主人公が自分の命を犠牲にして世界を救う。よくあるオチだ。リュウの一番嫌いなパターン。


 ぼさぼさの髪の毛を左手でかきむしる。

 右手は肘を付いて横になっているので、左手だけが自由になっている。


 西江野 竜(にしえの りゅう)。


 竜なんて強そうな名前が、大嫌いだった。

 喧嘩なんかしたことないし、人を叩いたことすらない。決して小柄ではないが、大きくもない。中肉中背。顔つきだって普通だ。

 寝転がったままでも飲みやすいようにペットボトルのコーラにストローをさしている。それを口にくわえてチューチューと吸うと、ポテトチップスの袋に手を突っ込み適当に口に運ぶ。ぱりぱりと小気味いい音を立てて、咀嚼していく。

 お気に入りののり塩味。


 油で汚れた指先をズボンのすそで拭う。

 中学校の緑色のダサいジャージ。部屋着には十分だ。

 20代前半とは思えないぽっこりと出てきたおなかをぼりぼりと掻く。


 毎日、ジュースとスナック菓子を片手にごろごろしてテレビを見ていれば誰でもこうなる。


 スタッフロールもすべて流れ終わったところで、テレビのリモコンを手に取った。

 適当にザッピングしていく。


 ピッ。


「…本日ご紹介しますのは…」


 ピッ。


「…んで、何でショウコなの!ショウコの何がい…」


 ピッ。


「…れでね、刑事さん。私見たんで…」


 ピッ。


「…見てください。こちらの女性、なんと半年前はこんな体型でした。それが、この…」


 ピッ。

 ピッ。

 ピッ。



(つまんねぇ。つまんねぇ。つまんねぇ)


 チャンネルを次々に変えていきながら、リュウは心のなかで悪態を付く。彼はハッピーエンドを好む。というより、なんでアニメやドラマ、作り物の世界でありながら鬱展開なんてのが好まれるのかが理解できない。

 現実がつまらないなら、せめて物語だけでも、楽しくあるべきだとそう思う。


 深夜3時過ぎ。

 多少の眠気はあるが、先ほどのアニメの最終回が消化不良すぎて、このまま寝る気にもなれなかった。

 ケーブル局も含めて、チャンネルを変え続ける。


 ピッ。


「アクセルたまごのショートコント。『佃煮』…』


 ピッ。


「犯人は、岬さん。あなたが電話しているのを見ていたんです。つまり…」


 ピッ。


「………」


(ん?)


 適当にチャンネルを変えていたリュウは音声のない画面に目を向けた。


『あなたに召喚のオファーが来ています。承諾されますか? YES/NO』


(へぇ~。面白そうじゃん。新しいアニメかな?)


 召喚物や異世界転生など、最近はやりのアニメシリーズでも始まったのかと思い期待して待つ。ポテトチップスに手を伸ばす。

 ポリポリ。

 ポリポリ。

 チューチュー。


 一向に始まる気配がない。


(もしかして、YESを選択するとスタートするのか?)


 最近のテレビはネットに繋がるため、テレビの青や赤のボタンを押すこともあるのだが、その類だろうかとリュウは『YES』にあわせて、決定ボタンを押した。その瞬間。


 テレビからまばゆい光が放たれ、世界は一変した。


(は?)


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