第47話 強ければいいという問題でもない
「あばばばばばばばばーー」
風が口に飛び込んできて、変な雄たけびを上げながら俺たちは海洋上をとんでもないスピードで航行していた。
もちろん、あの鯨のような海洋生物に小舟を引かせてである。
俺の、というよりリモコンの予想通り3日間は雨が続いたので、その間に食料品を調達して、アルバイン大陸への船旅を開始した。
港町まで乗ってきた馬もたいがいだったが、この鯨もどきもめちゃくちゃである。小舟に乗った俺たち三人程度では重さなんて気にしないんだろうけど、時速60キロくらいでずっと泳ぎ続けている。
一週間ぐらい晴れが続く予報なので、そんなに急ぐ必要はないというのに、一日当たり500キロほども進んでいるため、四日もあればアルバイン大陸には到着する予定である。
まあ、こんなとんでもない勇者様ともあと数日の付き合いかと思えば、感慨深いものがある。危険なリビア大陸を何事もなく…何事もなく?通り抜けれたのは大きい。アルバイン大陸にも魔物の被害はあるらしいから、冒険者にでもなって異世界生活を満喫しよう。
いきなり魔王が目の前にいたときは、どうしたことかと思ったけど、あこがれの異世界生活だ。
魔法だった、日に日に進化している。
俺のステータスは相変わらず一般人以下だが…っていうか、エレンが出鱈目過ぎてレベル上げの機会がなかったから仕方がない。
とにかく、いよいよ人間たちの町に入れるのかと思うと、テンションが上がってくる。そんな風に思いをはせていると、鯨もどきが左に急旋回した。
反動で俺たちの小舟は右側に強烈なGがかかり、必死に船の端っこをつかんで耐えつつ前方を見ると…。
「あほか!!」
バカみたいな大きさのイカがいた。ファンタジー世界定番の海の魔物クラーケンだろうね。だろうけど、デカすぎないですか?
海から顔を出している部分だけで、20~30階建てのマンションくらいあるんですけど?
「あわわわわ」
とさすがにルミエも怯えていて、俺の手をきゅっと握りしめる。柔らかい小さなを安心させるように俺は握り返す。
もちろん、心臓バクバクですけどね!
「それで、エレンさん?大丈夫なんでしょうね」
「さすがにあの大きさは初めてだけど、まあ見てなさい」
おー、クラーケン倒したことあるらしい。なんとも、力強いお言葉である。なんか、もう、どんな化け物が出てきてもエレンのチートプレイに任せておけば安心、安全である。
エレンの顔つきが変わる。
集中したまなざしでクラーケンを見上げ、魔法を練り上げていくのがわかる。そうしながらも、クラーケンの足が船に伸びてくると剣で払いのける。
時間にして1分くらいだろうか、エレンが魔法を使うのにそれだけの時間を費やしたのは初めてだ。
「ライトニング!!」
エレンがそう叫ぶと同時に、彼女の左手から稲妻が迸る。雷鳴を轟かせて、クラーケンに白光が突き刺さり、巨体が明滅する。
海面に顔を出していたクラーケンの巨体が力を失い大きな津波を引き起こしながら、海中にその身を沈める。
小舟を転覆させようとする波をエレンが両断して、船は無事に海上に漂い続ける。
エレンの自然災害クラスの雷はクラーケンにとどまらず、近くを泳いでいた魚をも屠っていたらしい。プカリプカリと魚たちが仰向けになって海面に浮かび上がってくる。
当然、俺たちの船を曳く鯨もどきも…。
「おまえ、やっぱりバカだろ」
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