第8話 微妙に違うじゃねえか!
「待て待て待て!勇者も魔王様も一旦待ってくれ」
慌ててリュウが声をかけると、二人は一瞬動きを止めた。余裕なのだろう、魔王は特に気にした様子もない。だが、味方のはずの勇者はぎろりと鋭い視線でリュウを一睨み。
「なに?」
「何じゃねえよ。ふざけるな!死ぬって言われて、はい、そうですねってなるかよ。なんで、あんたが死ぬと俺が死ぬんだ?」
「血の契約よ。召喚したものに術者を殺せないようにするのは当然でしょう。そうでもなければ、自分よりも強力な力を持つものを呼び出すことなど出来るはずないわ。もっとも、貴様に殺されるとは思えないけど」
フンと鼻で笑われるが、リュウとしてはたまったものではない。勝手に召喚された上に、そのな制約まで課せられているのは割に合わない。
「召喚のときにそんな注意事項を聞かされた覚えはないんだが…?」
「言わなくても分かるでしょう。召喚術の常識よ」
「どこの常識だっての!…くそっ」
(どうすりゃいいんだよ!!)
「あんたも勝てないことは分かるだろ。ちなみ俺の筋力は12だ。魔王様が無防備でも傷一つ付けられない自信がある。かといってあんただって、仲間と一緒に戦っても駄目だったんだろ。諦めろ。な?それから魔王様。勇者なんて取るに足らない人間をわざわざ殺す必要は無いでしょう」
「諦めろ!ふざけたことを!私の肩には人類の未来が掛かっているのだぞ!」
「かかっ。こいつが取るに足らんことは間違いないが、我にも殺すだけの理由がある」
魔王の眼光は鋭い。だが、話を聞くだけの余裕を見せてくることに、リュウは僅かな希望を抱く。
「とりあえず、勇者は黙ってろ」
「な!」
「それで、魔王様。殺す理由とは?」
「こやつ等が我が元へ現れたそれが理由だ」
「どういうことです?確かに人の家に土足で入り込んできたんだ。しかも、武器を向けられたら反撃するのは正しい。正しいが所詮雑魚だ」
「かかっ、まさしく雑魚だな。雑魚がいくら我に楯突こうと構わん。ただ殺すまでだ。だが、貴様はどうやってここまでたどり着いた。我の同胞をどうした?」
「転移魔法で直接来たけど?」
「ん?ならば、我の同胞は無事なのか?」
「当たり前だ、魔王を倒すために力の温存は当たり前だろう。余計な戦闘をしている余裕などないのだ」
「…ちょっと、待て。確認してくる」
一度も動かなかった魔王がどくろの椅子から腰を浮かせる。座っていても大きかったが、立ち上がるとさらにデカい。一歩ずつ階段を下りて近づいてくると、会話をするうちに忘れていた恐怖が改めて体を震わせる。
「待て!」
「いや、待たないで!」
勇者の制止をすかさず止める。魔王の存在を前にしてしまえば、鎧甲冑をフル装備している勇者すら怖くない。魔王に敵わずとも、耐久力7のリュウをデコピン一つで粉砕できるくらいの力はあるはずだが。
「お前はバカか!せっかく離れようとしているのを止めるバカがどこにいる!」
「貴様!」
言葉を詰まらせる勇者の横を魔王は何もせずに通り過ぎると、謁見の間から出て行った。
(助かったのか?いや、少なくともここが魔王城であることは確かなのだ。ここから出るまでは安心できない。だが、どうやって出る?って簡単な方法があるじゃないか)
「転移魔法で街まで逃げよう!」
「無理よ」
「勝てない戦いを挑んでもしょうがないだろ」
「そういう意味ではないわ。城の魔道師達が10人がかりで行った儀式を私一人で再現なんて出来るはずないでしょう。それとも、あなたは魔力が豊富なのかしら」
「安心しろ、魔力は2しかない!」
「使えないわね」
「お前が言うな!手も足も出ないなら、筋力が12でも120000でも一緒なんだよ。」
「ああ、もう。あんたみたいなもののために、ジャスパーは・・・」
「俺のせいじゃないだろ。っていうかさ、魔王ってそんなに悪い奴なの?話も通じるし、別に悪いことしてる気がしないんだけど?」
勇者が兜越しに呆れ顔をしているのがはっきりとわかった。
「魔王はそれだけで悪よ」
「いや、それはおかしいだろ。もっと具体的な話を聞かせてくれ。人間の町を焼き払ったとか、そういうやつを」
「ないわ」
「はあ?ちょ、ちょっと待て!何もしてない魔王っていうか、そうなると魔王と呼ぶのも憚れるな。つまり勇者様ご一行は何もしていない狼頭の男を襲ったのか?」
「何もしていないんじゃない。魔王は存在そのものが悪なのよ」
「被害は?」
「ない」
「あーーもう。お前が殺されても心底どうでもいいが、お前が死んだら俺も死ぬんだよな」
「ええ」
「くそがっ、しょうがない。同じ船に乗っている以上、手を組もう」
「手を組むもなにも…」
「うるせぇ。とにかく魔王への攻撃はなしだ。仲間のことはご愁傷様と思うが、一旦諦めろ。とりあえず、見逃してくれそうな雰囲気なんだ。何もしてない魔王を倒す必要性は全くないと思うが、本気で討伐したいなら、身を引くことも考えろ。死んだら反撃も出来ねえだろが!」
「…分かってるわよ」
すねたような言葉に思わず肩透かしに遭ったような気分になる。だが、少なくと手を出さないと考えてくれたことにホッと一息つく。ここが、魔王城だとすれば安心できる様子は皆無だが。
「よし、それじゃあ、改めて手を組むぞ。俺はリュウ。あんたは?」
「リュウ?ふん。名前だけなら私が召喚したものそのものと同じなのね。私はエレンよ」
「エレンか。よろしくな。ところで、何を呼び出そうとしたんだ?」
「魔王が生まれるより遥か昔、この大陸で暴虐の限りを尽くしたというエンシェントドラゴンよ。時の勇者が仲間を引き連れ、異界に封印したと聞いている」
「ほう…」
(やばそうな奴だな。呼び出したが最後、術者を滅ぼしそうな類な気がするが、そのための血の契約ということか。だが、力が強大すぎて召喚に失敗したということか。…ん?エンシェントドラゴン?エンシェント・・・古代のとかそういう意味だよな。古代のドラゴン。んんん?)
思考が停止する。
愕然として勇者に目を合わせた。
「お前、どうやって呼び出した?いや、召喚相手を何と呼んだ?エンシェントドラゴンに名前はあるのか?」
「は?何を言っているの?ドラゴンに名前なんてあるわけないでしょ。だから、そのまま「古の龍」(イ/ニシエノリュウ)と呼んだわ」
「やっぱり、お前が巻き込んだんじゃねぇか!」
広々とした謁見の間に、空しい叫び声だけが響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます