第37話 大戦の被害者

 鬼達に案内された家は昔の武家屋敷を彷彿とさせるようなつくりをしていて、魔族の村よりも質素ながらもしっかりしていた。鬼達は見た目が人間と近いせいか、靴を履いていて、家の中は土足厳禁だったのには驚いた。


 つまり、ここには靴があるのだ!!!


 念願の靴が出に入る。

 連中に囲まれた時点で密かに気付いていた。

 でも、そういう雰囲気じゃないよね。って空気読みました。俺、偉い。

 若干テンションを上げつつ、鬼達に連れて行かれた先には囲炉裏があり、それを囲むように腰の曲がった老婆が座っていた。人より体の大きい魔族にしては、小柄で人間と良く似ていた。というか、角が見えない。

 鬼達の角も大きいものや小さいものや本数もまちまちだったので、髪の毛に隠れて見えないだけかもしれないが。


「良く来たね。すまないね。足腰が大分弱っちまってて座ったままで」


 そういって、ちょこんとした老婆は立ち上がることなく俺達に柔和な笑顔を見せてくれた。やはり鬼達とは雰囲気がまるで違う。彼女に勧められるまま、俺とエレンは座布団の上に腰を下ろし、案内してきた鬼の一人も同じように座ると、二人の鬼は背後に立っていた。おそらく何かしようとすれば、いつでも、と言うことなのだろう。


「あの、ご老人。失礼を承知でお聞きしますが、人族ですか?」


 使用人のような若い鬼族の娘がお茶を運んでくると、エレンは開口一番にそう訪ねた。俺と同じような感想を覚えていたらしい。老婆はすっと目を細めると、「ええ」と小さく答えた。


「やはり…しかし、どういう…?」


 納得したと言うよりも首を傾げるエレンに老婆は「まあ、まあ」とゆっくりとした所作で落ち着かせるようにする。エレンの話では人族がこの土地に長いこといると気が狂うという話だった。だからこその疑問なのだろう。って、あれ、俺達大丈夫なの?”長くいると”っていうのがどの程度の期間なのかが不明だけど、やばいんじゃね?


「年寄りの話は長くなるけど、聞くかい?」

「ええ、お願いして良いかしら」

「ふふふ、話は人魔大戦まで遡るわ」


 と、いって話し始めた老婆-ジェマの話は長かった。というか、途中で寝た。なので、あとでエレンが要約してくれた話によると、人魔大戦のときに、魔族に連れ去られた人間も多くいたらしい。

 魔王の力によって統率されていた魔族であるが、村で俺を襲った魔族の例もあるように全ての魔族の行動に規律があったわけではない。魔族の一部は人間を陵辱した。

 魔族が残虐な嗜好を持つのは紛れもない事実らしい。人の良さそうな狸の女将さんのようなものもいるが、根底にあるのは暴虐の限りを尽くしたドラゴンの邪気により発生した生物であると言うこと。

 人族を拷問し、悲鳴を上げさせそれに快楽を覚えるものもあったという。それはもちろん、人族の手によって殺された魔族の意趣返しという部分もあるのだろう。そして、一部の魔族は人族の女をレイプした。

 体の大きさが違うがゆえに、行為そのもので肉体を破壊され死するものも多かったと言う。そして、生き残った女性の中に魔族の子を為すものが現れた。

 魔族と人族の子は、父親である魔族の姿を継承することなく、角の生えた人族の姿をしていたそうだ。つまり、この村の物達は、人族でもあり魔族でもあるらしい。


 まあ、いろいろ突っ込みたいところはあるが、要約するとそんな話だった。

 つまり、ジェマというなの老婆もまた魔族に陵辱された人族の一人ということだそうだ。それが、なんで、こんなところで鬼族と一緒にいるのかというと、鬼族は人族に近く、魔族からすれば憎しみの対象でしかなかったそうだ。だが、それを魔王が救ったそうだ。そしてジェマは全ての鬼族の母となった。

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