第28話 魔力13はやっぱりクソ!

 とりあえずはここまで順調だ。

 熱かったけど、うまくいった。

 俺すごい。

 ていうか、熱い。

 熱いけど解放された。

 よし、次は魔法で奴を銃撃する。一時停止する前に指先は鼠の眉間にポイントされている。狙いは完璧。発動さえすれば、確実にやれる位置だ。鮮明なイメージを描き出す。土の弾丸を作り出し、それを音速ではじき出すイメージだ。

 失敗は許されないので、世界が動き出してからの動きを何度も何度もイメージする。

 土の弾丸。

 土の塊よりも石のように硬いものを。

 弾丸を弾く力は魔力に左右される。

 水道の蛇口を一気に最大まで開ける。

 蛇口の出口を指で押さえれば、水は強い力で噴出してくる。そういうイメージで弾丸が飛び出る想像をする。

 イメージが固まった瞬間、再起動をかける。


 弾丸が鼠男の額を弾いた。

 だが、血の一滴どころか傷一つ付かない。

 ほんの僅かに仰け反っただけで、鼠男は俺を睨みつける。さっきまでの飄々とした余裕のある笑みから、怒気を孕んだ残酷な笑みに。

 ぺろりと長い舌が伸び、唇を舐め取った。

 

「貴様っ!!!」


 虎の魔族が吼え、腰溜めに身を屈ませた。臨戦態勢ということだろう。


 ヤバイ!!

 反射的に世界を止める。

 全力の一撃が通じないという事実に驚愕する。シャーモには通じた。だが、それは俺の実力じゃなかったということか?エレンはシャーモなら傷を付けられるかもしれないといった。つまり、そのくらいシャーモが弱く、目の前の鼠は遥か格上ということか。

 だとしたら、もう戦うという選択肢はない。


 逃げ切れるか?

 でも、それしかないだろう。

 いまさら素直に人質になりますっていっても許してくれないと思う。くそっ、調子に乗って攻撃せずに素直に投降すればよかった。そうすりゃ、きっとエレンが助けてくれたはず。

 ああ、もう。そんなこと言ってる場合じゃないな。こうなった以上、自力で逃げるしかない。


 考えろ!考えろ!考えろ!


 手持ちのカードは何だ?

 時間を止めれる魔法のリモコンが一つ。

 無限の思考時間。

 一秒程度のスロー再生。

 威力は小さな魔法。

 こんなところだろう。

 逃げるとしたら、正面の入り口は無理だ。だとしたら背後の窓しかないか。

 再起動と同時に背後に飛び込めば少なくともこの場からは離脱できる。二階なら飛び降りてもどうにか成るはず。


 覚悟を決めると同時に、世界を再起動させその身を反転させる。木枠の窓をぶち壊しながら、外へと転がり出る。

 雨が身を叩き、瓦の屋根を転がる。

 

 …


 一瞬の間を置き、中空に体が踊りだす。


 体がくるんと回転して、地面を視線が捉えて気がついた。


 遠っ!!

 俺の知る二階じゃねぇ!!


 大柄な魔族のサイズにあわせて作られた日本の民家の二倍はある建屋。建屋に入ったときのことを完全に忘れていた。このまま落下すれば痛いじゃすまない。


 どうする!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る