第45話 船を手に入れる

 港町サルーナは大きな町だった。

 いままで通過してきた村との一番の違いは、町を歩く魔族の種類だろう。魚が立って歩いているというと語弊があるが、魚頭で全身をうろこで覆い、手足がヒレのように見える。


 そして、肝心かなめの船はあった。

 ただし外洋を渡るような規模ではなく、いわゆる漁船、むしろ小舟だ。


「で、どうする?」


 傍らにいるエレンとルミエに問いかける。ここで船を調達してアルバイン大陸に渡るというのが計画とも言えない計画だった。

 そもそも、穴のある計画なのだ。


 エレンは魔族にそれほどの技術力があるはずはないと思っていたのだから。それに、それほどの技術があれば人族としては驚異でしかないのだ。船があることを期待しつつも、合ってほしくないという相反する気持ちである。


 しかし、鬼族の隠れ里を見つけたことで、人族の知識が流失しているという事実はあったので、いくらかは期待していた。


「十分じゃないのか」

「って、これで海を渡るのかよ」


 これじゃあ、無理だろという意味で聞いたのに、何が問題なの?とでもいうような口調でエレンに聞き返されて、思わず突っ込みを入れた。


 停泊している船は、エンジン付きはないにしても、帆船ですらない手漕ぎ船だ。10人程度が乗れる大きさはあるものの、穏やかな内海ならともかく、外の荒波だと簡単に転覆してしまいそうな船だ。近海用の漁船だろう。


「さて、どこで交渉をすればいいのかな」


 キョロキョロと周囲を探しどこかへ歩き出す。

 

「マジか?」

「ダメなんですか?」

 

 驚く俺に、不思議そうに小首を傾げるルミエは、麦わら帽子のようなものを目深にかぶせているので視線が合うことはなかった。うっかり、町の人と視線を合わせないようにという対策である。


「魔法で推進力は得るだろうが、ルミエの村からここまでと同じくらいの距離があるんだ」

「でも、数日じゃないですか?」


 ルミエの村からここまでは3日ほどで到着したせいで、感覚がマヒしているのだ。だが、あれは普通ではないのだ。

 それを逐一説明していると、遠くでエレンがいたちっぽい獣人と話し始めていた。小舟を指さしていることから、売買の交渉を始めているのかもしれない。


 俺は慌てて追いかけていく。


「あそこにある船を売ってくれないだろうか?」

「んあ?別にいいけんどよ。どれにする?」


 って、瞬殺で交渉成立かよ!!


「待て待て待て、勝手に話を進めるな。いいか、外海は波が高いんだ。潮の流れも速くなるし、あんな小舟で渡れるわけないだろうが。夜はどうする?外洋わたる前提じゃないから、碇とかないだろ。寝てる間に流されるわ!!それに雨が降ったらどうする。嵐が来たら?食料は?」

「ん?問題ないだろう」


 一気にまくし立てるが、どこ吹く風である。視線を俺からイタチ人に戻すと、交渉の続きを再開する。


「連れが済まない。あれを売ってほしいんだけど、いくらになる?」


 と、あっさり交渉はまとまり俺たちは船を手に入れた。

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