第3章 オッサンはゲームシナリオから逃れたい
第22話 起死回生の一手?
マズい。マズいマズいマズい。
部屋でアリスの魔力の一端を見たからか、グレイスが無言のままアリスを見つめ、無表情で朝食を食べている。
グレイスもいずれは聖騎士になる程の才能を持っているのだから、先程の魔力から闇の力をしっかり感知したのだろう。
……そもそも、暗黒魔法ではないか? とも言われてしまったし。
一先ず機転を利かせて話を中断させ、この食事の場へと来る事が出来たのだが、はっきり言ってほんの僅かな時間稼ぎにしかならないだろう。
根本的な解決が出来るのであれば是非に行いたい所ではあるが、一先ずアリスが疑惑の目で見られる事だけでも何とかしたい。
どうすれば、この状況を脱する事が出来るのだろうか。
そんな事を考えていると、
「ねぇ、ウィルー! ウィルってばー!」
正面に座っていたエミリーが声を掛けてきた。
「ん? どうしたんだい、エミリー」
「ねぇ、ウィルはおなかいたいのー? だいじょーぶー?」
「え? いやいや、俺は全然元気だけど?」
「でもー、さっきから、ぜんぜんたべてないよー?」
しまった。グレイスとアリスの事で頭がいっぱいで、言われてみれば、目の前に置かれたパンを一口も食べていない。
トイレへ……とか言って、この場から俺が居なくなった途端に、グレイスがアリスに変な事を聞いてしまうかもしれないし……どうやって誤魔化そうか。
「えっとだな、それは……そう、どうやったら、もっともーっと美味しく食べられるかを考えていたんだ」
「ん? ジェシカのごはん、おいしーよ?」
「あぁ、もちろん。ジェシカが作ってくれたご飯は凄く美味しいよ。ただ、たまには甘いデザートとかも食べたいなって思ってさ。……あ、もちろんお金を掛けずにね」
……って、俺は何を言っているんだーっ!
エミリーの疑問をどうやって誤魔化そうかと慌てて考えた結果、ついつい日本を前提とした話をしてしまった。
ここは日本ではないし、更に貧しい(実際は資金が無限にあるけれど)孤児院だというのに、デザートだなんて。
しかも、つい先日アリスの誕生日パーティを行ったばかりだ。
なので、俺の話した事は、ある意味凄く酷い事なので、どうやってフォローしようかと考えていると、
「そう言えば……冒険者ギルドでキラービー退治の依頼があったよ。ついでにハチミツが取れるんじゃないかな?」
リアムが意外な工法を出してくれた。
おそらく、冒険者として生きて行くために、ちょくちょくギルドへ顔を出しているのだろう。
しかし、ハチミツか。日本だと簡単に買えるけど、こっちの世界では中々手に入らないのではないだろうか。
回復アイテムとしても優秀なので、モンスターを倒してドロップアイテムとしてゲットしても売らずに持っておくし、養蜂家なんてのもおそらく居ないのではないだろうか。
なので店にも売っていないと思うけど、俺はデバッグコマンドで幾らでも生み出せる……って、待てよ。
「それだっ! 皆、待って居てくれ! 俺と冒険者であるグレイスとでハチミツを取ってきて、皆に好きなだけ食べさせてあげるよ!」
「やったー! ウィル、がんばってー! エミリー、ハチミツって、たべたことないから、たべたーい!」
「おぅ、任せとけっ! ちゃちゃっとキラービーを倒して、ハチミチを持ち帰って来よう! ……という訳で、グレイス。キラービー退治だ!」
渡りに船と言わんばかりにリアムの話に乗っかり、当然のようにグレイスを参加させる。
もちろんハチミツが欲しい訳でも、依頼の報酬が欲しい訳でも無いし、グレイスのレベル上げをするつもりでも無い。
グレイスを教会から離し、アリスが魔王である事に気付かれないようにするためだ。
冒険者ギルドの依頼となれば、正義感の強いグレイスは断らないだろうし、子供たちもハチミツが食べられて嬉しいし、俺はアリスを守る事が出来る。
おぉ、一石三鳥の手じゃないか。
完璧だと思いながら、急いで食事を済ませると、グレイスが支度を終えるのを待って、冒険者ギルドへと出発する。
……アリスが少し悲しそうに俺を見ていたのが気になるが、これもアリスを守る為なんだ。
もちろん教会には帰ってくるし、アリスから離れたりなんてしないからな。
その頃には、グレイスもアリスの魔法の事なんて忘れているだろうし。
ただ、
「ウィルさん……いえ、何でもないです。そういう不器用な所が、貴方の魅力なのかもしれませんね。一先ず今は、モンスターに困っている人達を助けてあげましょう。アリスの事は、その後で」
何故かグレイスからは、温かい目で微笑みかけられてしまった。
あれ? 俺の考えでは、グレイスがアリスの事を忘れ、目の前のモンスター退治で頭がいっぱいなると思ったのに。何故だ?
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