第25話 情報収集

 翌朝。

 アリスたちと一緒に朝食を済ませると、


「じゃあ、行ってくるね」

「ウィル……あんまり、無理しないでね」

「もちろん。じゃあ、行ってくるから」


 教会を出て、暫く歩いた所で路地裏へ。

 すぐさまテレポートで宿へ移動すると、


「おはよう、グレイス。よく眠れたかい?」

「おはよう、ウィル。よく眠れたわよ。朝食は済ませた?」

「あぁ、大丈夫だ」


 グレイスとも朝の挨拶を済ませ、乗合馬車へ。

 暫く馬車に揺られていると、荷台の揺れが次第に激しくなってきた。

 しかも、結構な角度に傾いている。山を登っているのは分かるが……これ、大丈夫か?


「これは……かなり酷い……」

「喋らない方が良いぞ。舌を噛む」

「そうね。そうす……」


 グレイスが突然黙り、涙目になった。

 言ってる傍から、舌を噛んでしまったのだろう。

 小声で回復魔法を使用し、グレイスを治してあげる。

 暫く、歩いた方がマシじゃないか? という荒れた道を進んでいると、急に平らな場所に出た。


「着いたぞ。ここがコルティーナ村だ」


 御者のオジサンに礼を言い、ぷらぷらと周囲を見渡しながら村を歩いてみる。

 山の斜面が畑になっていて、作物が陽の光を浴びるように考えられているようだ。

 それと、村の中で自給自足を目指しているのか、反対側の山の斜面には、牛が放牧されている。

 まぁ要は、凄くのどかで小さな村だ。

 とはいえ、小さいながらも食堂を兼ねた宿があって、薬屋もあって、最低限の施設はあるらしい。


「……って、冒険者ギルドはどこにあるんだ?」

「ホントだ。一周したはずなのに、それらしき物はどこにもなかったわね」

「依頼で来たのに、ギルドが無いってどうすりゃ良いんだよ」


 ゲームシナリオとは関係ない所だから、バグというか、おかしな事になっているのか?

 嫌な予感がしながらもう一周周り、それでも見つからないので、その辺に居た通行人に聞いてみると、


「冒険者ギルド? 目の前にあるじゃろ」

「え? どこですか?」

「だから、そこじゃよ。目の前にある緑色の屋根のお店じゃ」

「……思いっきり、薬屋って書いてますけど」

「じゃから、その薬屋が冒険者ギルドなんじゃよ」


 斜め上の答えが帰ってきた。

 この薬屋が冒険者ギルドだと!? 嘘だろ!? ……と思いながら、とりあえず入ってみる。


「いらっしゃいませー」


 綺麗なお姉さんに出迎えられながら店内を見渡してみると、カウンターの内側の棚には、様々な薬草やポーションの瓶が置かれていて、どこからどう見ても薬屋にしか見えない。


「あの、念のための質問なんですが……ここって、冒険者ギルドでは無いですよね?」

「はい。冒険者ギルドでもありますよ」

「やっぱそうですよね……って、冒険者ギルドでもある? どういう意味ですか!?」

「そのままの意味で、ご覧の通りメインは薬屋なんですけど、村にギルドが無いのはマズいそうで、冒険者ギルドの出張所として簡易な業務のみ対応しています」

「そ、そういうシステムなんですね」


 まさかのギルド出張所ときた。

 しかも、薬屋と兼業だなんて、こんなの気付く訳……って、何だか同じ様な事で、ハマったような気がするな。

 目的地に着いたものの、冒険者ギルドが見つからずに、同じ場所を何度もグルグル回り、挙句の果てにゲームデザイナーとケンカになったような気がする。

 アレはどこのギルドの事だっけ?


「あの、それより何か御用ではないのですか?」

「あ、そうそう。俺たちはキラービー討伐の依頼を受けてきたんですよ」

「まぁ。それは、ありがとうございます。えっと、冒険者証を拝見させてもらっても良いですか?」


 俺は冒険者証を作成していないので、グレイスに出してもらうと、


「えっと、グレイスさん……は、失礼ながらFランクって書いてあるのですが」


 お姉さんが困惑した表情を浮かべる。

 あー、しまった。こういうパターンだと説明が面倒だな。

 一先ず、冒険者ではないけれど、そこそこ強い俺が一緒なのでCランクの依頼も受けられた……という、物凄く怪しい説明を行い、


「分かりました。では、依頼内容の説明を行いますね」


 話が通ってしまった。

 こんな怪しい説明、俺なら絶対に信じないが……まぁ彼女はギルド職員が本業ではないし、機会的に手続きを行うだけなのだろう。

 何かあった時に責任を取らされるとしたら、そもそも俺たちが依頼を受ける事を承諾したアネイスの街のギルド職員だろうし。


「この村から、更に山を登った辺りですかね。山の中でキラービーの群れの目撃情報がありました。何でも、数十匹は居る大群だったそうです」

「数十匹!? おいおい、それが本当ならクイーンが居るって事になるんだが」

「クイーン……ですか?」

「って、冒険者ギルド職員なのに……って、知らないのか」


 このお姉さんは本業が薬屋さんだし、何の事ですか? とでも言いたげな表情を浮かべている。

 ちなみに、グレイスもクイーン? と小声で呟いているので、二人とも知らないらしい。


 クイーンビー――通称クイーンは、その名の通りキラービーの女王蜂だ。

 クイーンは大きな巣を作り、際限なくキラービーを生み出すのと、巣から離れる時は通常のキラービーよりも強力なキラービー・ナイツと行動を共にする。

 はっきり言って、キラービーが十数匹ならCランク案件だが、クイーンの居ると思われる、数十匹の群れだと話が全然違ってくるのだ。


「……って、待てよ。すみません。この村がある山の名前って何ですか?」

「この山ですか? ポマガノン山ですが」


 そういう事かっ!

 俺たちは南から馬車で来たけれど、ここ……本来のゲームシナリオだと、クイーンビーを倒す為に北側から登って来る山だっ!

 クイーンビーは、確かレベル三十台の後半で倒す中ボスのはずだから、レイモンの時みたいにクイーンのレベルが下がっていてくれると助かるのだが。

 状況を理解していない二人に、クイーンの強さを説明し、どうやって討伐するか策を練る事にした。

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