第24話 見知らぬ街
グレイスと依頼内容の話をして抱きつかれた後、一先ず話題を変えようとして、貴族の暮らしについて聞いてみた。
公爵って何をしているのか、グレイスの実家はどの辺りにあるのか、幼い頃はどのような暮らしをしていたのか……と、興味本位で聞いてみただけなのだが、何故かグレイスが熱く語ってくる。
語る……というか、むしろ俺に貴族の暮らしや仕来たり、暗黙のルールなどを教え込ませようとしているのではないか? というくらいの熱の入れようだった。
乗合馬車の中では、景色を見るか雑談をするかの二択しかないので聞いただけなのだが……まぁ時間を潰せたから良しとしよう。
……内容は殆ど覚えてないけど。
そんな状態で丸一日を過ごし、一先ず今日の乗合馬車の終点であるヴェルノの街へと到着した。
「さて。じゃあ、先ずは夕食と今日の宿探しだな」
途中の休憩地点で、乗合馬車向けに出ていた屋台の軽食を食べたが、正直これがイマイチ美味しくなかったので、夕食はまともな物が食べたい。
幸いグレイスしか居ないので、俺が大金を持っている理由なんて、いくらでも作れる。
それにグレイスも公爵令嬢で、金銭感覚が庶民とは違うため、
「じゃあ、この一番高いコースを二人分」
「あと、このデザートもお願いします」
「あ、追加でこっちの料理も」
街で見つけた、ちょっと高そうなお店に直行し、値段を気にせず注文する。
日本ではやった事が無い――というか、俺の給料では出来なかった注文の仕方だが、少しくらいは美味しい思いをしても良いよね?
……孤児院には、ハチミツを入手してくるって言って出発しておいて、それよりも遥かに高そうな料理を食べちゃってるんだけどさ。
料金はメチャクチャ高かったが、それに見合った味を楽しみ、いよいよ今晩の宿探しだ。
実はこのヴェルノの街、ゲームのシナリオには登場しない街なので、来た事もなければ、乗合馬車に乗る時まで、名前すら聞いた事がない街だったりする。
なので、食事処はすぐに見つかったものの、宿がどこにあるか分からず、グレイスと二人で夕暮れの街をあても無くさまよっていると、
「ウィルさん。あれではないでしょうか。ピンク色の字でホテルって書いてますよ」
「あー、うん。そうだね。確かに書いてるね」
グレイスが明らかにいかがわしいというか、宿泊も出来るけど、ご休憩用な宿を見つけてしまった。
というか、知らず知らずのうちに、俺たちがそういう場所に迷い込んでしまったのだろう。
だけど、もう少しゲームらしい健全な街には出来なかったのだろうか。
いやまぁ、だからこそゲームには出て来ない街なのかもしれないけどさ。
「グレイス。何となくだけど、あっちにもっと良い宿がありそうな気がするんだ。行ってみよう」
「……わかりました。こちらも、ピンクや紫の色で可愛らしい宿なのですが……」
食い下がるグレイスを、やや強引に連れて行き、まともな……結構お高そうな宿へと到着した。
「すみません。二名宿泊で」
「畏まりました。二人部屋を一部屋で宜しいでしょうか」
「いや、一人部屋を二つでお願いします」
受付の人に至極まっとうな事を伝えたのだが、何故か受付の人どころかグレイスにまで驚かれてしまった。
いや、そりゃ男女別々の部屋に泊まるだろ? 俺、間違ってないよな? というか高そうなこの宿も、そういう宿だったのか!?
「じゃあ、明日一階にある食堂で待ち合わせな。おやすみ」
「え!? ウィルさん……お、おやすみなさい」
何故か不満そうなグレイスはさておき、割り当てられた部屋へと入ると、
「デバッグコマンド……テレポート。設定、教会の庭」
すぐさま教会へと戻る。
建物の中へ入ると、丁度子供たちが食事を終え、後片付けを済ませた所で、
「あー! ウィルーっ! 遅いよー!」
「ごめん、ごめん。ただいま、アリス」
「おかえり! ……あれ? グレイスは?」
「あぁ、グレイスは今日行った場所が家に近いらしくてさ。今晩は家に帰るってさ」
「そうなんだ。……えっと、グレイスには悪いけど、その、何て言うか……やっぱり何でも無いっ!」
何だろう。
アリスは何でもハッキリ言うタイプだと思っていたのだが、何だか珍しいな。
一先ず魔王化に影響がなければ良いのだが。
そんな事を考えていると、
「ウィルー! おふろー! おーふーろー!」
「あぁ、はいはい。じゃあ、お風呂へ行こうか」
エミリーたち幼女組から、お風呂に入れろとねだられ、いつものように一緒に入る。
……普段通りなら、ここでアリスも入ってくるんだけど、何故か今日は来ないな。
まぁ日本で十二歳なら、流石に父親と一緒に風呂へ入ったりはしないだろうし、今までが本当にタイミングが合ってしまっていただけかもしれない。
お風呂でエミリーたちに、ハチミツは少しだけ待ってくれと謝り、自分の部屋でいつも通りに就寝する事にした。
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