第23話 馬車に揺られて小旅行

 グレイスを連れて、冒険者ギルドへ。

 壁に貼られている依頼書の紙を眺め、キラービー討伐を探していると、


「ウィルさん。これではないでしょうか」


 グレイスがリアムの言っていたであろう依頼を見つけてくれた。


「どれどれ……キラービー退治。Cランク。報酬……うん、確かにこれだな」

「そうですが、場所が少し遠くないですか? 日帰りで行ける場所ではないですよ」


 グレイスに言われて見てみると、キラービーの目撃地点がコルティーナ村と書かれている。

 これは、この街から北東へ馬車で一日半くらいかかる場所にある村だ。

 なので、今すぐ出発した所で、村に到着するのが夕方で、そこから情報収集して、キラービーを探して、倒して、戻って来て……うん、最速でも三泊四日だな。状況によっては、もう少し伸びるかもしれない。

 つまり、それだけの間、グレイスをアリスから離せるという事だ。


「よし。じゃあ、この依頼を受けよう。場所が遠かろうと、皆がハチミツを食べたいだろうし、それに何より困っている人達が居るんだ。だから、助けてあげないとな」

「わかりました。では、この依頼を受けましょう」


 キラービー退治の依頼書を壁から外し、ギルドの受付嬢の所へ持って行く。

 最初は、グレイスのランクが低すぎるからと拒絶されてしまったのだが、俺が一緒である事を話すと態度が一変し、あっという間に受理されてしまった。


「いやー、英雄ウィルさんが御一緒でしたら、早く言って下さいよー。そんなの全然オーケーですよ。何でしたら、Cランクとは言わず、BランクやAランクの依頼を受けませんか?」

「こちらの都合で、この依頼が受けたいんだ。すまないが、手続きを頼む」

「わかりました。では、正式に依頼するという事で、詳細な情報をお話ししますね」


 ギルド職員の話によると、目撃地点と同じコルティーナ村という、山の中にある村から依頼されている。

 この街からは離れているが、相当困っているので国中に広く依頼を出しており、村までの移動費や滞在費も出してくれるそうだ。


「って、Cランクの依頼で移動費や滞在費まで出す……って、おかしくないか? Bランク以上なら、そういう依頼もあったりするが……」

「場所が場所だけに、冒険者が来てくれないからではないでしょうか」

「まぁ確かに、山の中にある村だなんて、中々人は寄らなさそうだけどな」

「村からの依頼なので、詳しい事はコルティーナ村の村長さんに聞いていただければ良いかと思います。あと、細かい事は資料として、こちらに纏めておきましたので」


 いや、纏めておきましたので……って、説明しなくて良いのか?

 日本だったら、重要説明事項みたいな感じで、絶対に説明しないといけない事柄とかがあると思うんだけどな。

 まぁ言っても仕方が無いので、後で読むけどさ。

 言っとくけど、勝手に英雄だから問題無いだろうって思っているかもしれないけれど、ステータスは凄くても、中身は普通のオッサンなんだからな?

 ギルド職員からやけに上機嫌――おそらく、ギルドの問題児グレイスに保護者が付いたのと、その保護者が英雄と呼ばれる人物なので、高難度の依頼も対応して貰えると思っている――で送り出され、グレイスと共に乗合馬車へ。

 遠すぎてコルティーナ村直通の乗合馬車が無いので、先ずは東にある大きな街、ヴェルノ行きの乗合馬車へ乗る事にした。

 ヴェルノの街までも、乗合馬車で一日近く掛かるため、今日は移動だけで終わってしまうが……だが、むしろそれが良い。

 何事もなく一日が終わる……なんて幸せな日々だ。

 ビバ、スローライフ! ビバ、平穏な日々!

 カタカタと街道を行く乗合馬車の荷台に揺られながら、ぼんやりとそんな事を考えていると、


「ウィルさん。キラービーって、どういう魔物なんですか?」


 ただ馬車に揺られているのが暇だからか、グレイスがそんな事を聞いてきた。

 というか、グレイスは討伐対象の魔物の事を知ってから、依頼を受けるようにしような。

 まぁ今回は俺について行くだけというスタンスなのかもしれないが。


「キラービーっていうのは、その名の通り大きな蜂のモンスターなんだけど、そのお尻の針に、いろんな毒を持っているんだ」

「蜂……という事は、空を飛ぶの?」

「もちろん。スピードもあるし、ゴブリンよりは強いかもしれないけれど、毒針さえ気を付ければ大した事はないよ」

「あの、私はウィルさんと違って、遠距離攻撃出来そうな武器が無いんだけど……弓矢とかを買った方が良いかしら?」


 あの、ゴブリンを攻撃しようとして岩に剣が刺さるグレイスが弓矢……これ、俺に矢が刺さるパターンでは!?


「いや、大丈夫だ。キラービーは俺が倒すし、グレイスの事は絶対に護るから、無理に攻撃しなくて良いよ」

「ウィルさん……はいっ! よろしくお願いしますっ!」


 俺の身を案じて防御に専念して欲しいと伝えたら、何故かグレイスが抱きついて来た。

 ……どうして抱きついて来たのかは分からないが、一先ず乗合馬車で他のお客さんも居るし、こんな場所で抱きつくのはやめような。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る