第12話 ポンコツ剣士グレイス
同じ穴へ落ちたグレイスを再び引っ張り上げると、
「さぁ、今度こそゴブリンを倒すわよっ!」
全く懲りた様子も無く、再び同じ方向へ進もうとする。
「いやもう、さっきのゴブリンは俺が倒したから」
「まぁ! 何て素晴らしいの!? 私を片手で軽々持ち上げられる力を持ちながら、攻撃魔法まで使えるなんて」
「いや、ゴブリンを倒したのは魔法じゃなくて、ただの投石……」
「私と一緒に憎きゴブリンを殲滅しに行きましょう!」
いやいや、何で勝手に話を進めてるの?
俺は一言も一緒にゴブリンを倒すとかって言ってないよね?
というか、殲滅しに行こう……って、どんな誘い方だよ!
しかし、この少女が俺の知っているグレイスだとすると、
「さぁ、いざ行かん! ゴブリン共のボスの許へっ!」
やっぱりか。
俺の意志とか関係無しに、手を掴んで引っ張り出した。
ステータス的には、逆に俺が引っ張って帰る事も出来るが、そんな事をしたら、また一人でこの洞窟にやってきてしまうだろう。
仕方が無い。ゴブリンくらいなら大した事がなさそうだし、俺も付き合うか。
暫く洞窟の中を右へ左へと歩いていると、突然何かに気付いたかのようにグレイスが振り向く。
「そう言えば、私は神聖魔法で視界を確保しているが、貴方も同じ魔法が使えるのか?」
「え? あ、あぁ。似たような物だ」
危ない危ない。
デバッグコマンドで視界を確保しているのをすっかり忘れていた。
普通に考えたら、洞窟内部に松明だとか、カンテラだとかを持って来るよな。
神聖魔法に視界を確保する魔法があるみたいだし、俺もその魔法を使っている事にしておこう。
事実として神聖魔法のスキルもあるし、何とかなるだろ。
「なるほど。神聖魔法まで使えるとは、さぞかし名のある……っと、ゴブリンだな。ここは私が行こう」
そう言って、俺の返事を待たずに、グレイスが見つけたゴブリンに向かって行く。
「はぁぁぁっ! やぁっ!」
――ゴスッ
グレイスの気が乗った一撃がゴブリンの……傍にあった岩を斬り、そこで剣が止まる。
渾身の一撃を思いっきり空振りした上に、岩に剣が挟まって抜けなくなっているんだが。
しかも、ゴブリンに哀れな者を見るような、蔑んだ目を向けられてしまっている。
「お、おい! そこのゴブリン……待て! 動くなっ! 今すぐ倒すから、逃げるなっ! こ、この剣さえ抜ければ……いや、だから、待つのだっ!」
グレイスが一生懸命に岩から剣を抜こうとしているのだが、ゴブリンが呆れながらどこかへ立ち去ろうとしている。
グレイスには悪いが、仲間を呼ばれると面倒だから、とりあえず倒しておくか。
一先ずダッシュでゴブリンに近づき、その身体を短剣で一突きにする。
「す、すまない」
「いや、これくらい構わないんだが、それよりもグレイス……狭い洞窟の中では、長い剣は使い難いんじゃないか?」
と、遠まわしに言ってみたが、要はグレイスの器用さが低過ぎるんだ。
剣じゃなくて盾を持てば、今すぐ冒険者のランクがグングン上昇するだけのポテンシャルを秘めているのだが、
「確かに長い剣は洞窟では不利かもしれない。だが、私は十年間この剣を振り続け、ようやく剣技を習得したんだ。だから私は、この相棒とも言える愛剣でゴブリンを倒したいんだ」
残念ながらグレイスは剣に拘りがあるらしい。
だが気持ちは分からなくもないが、残念ながら本人の素質と性格や志向が一致していないパターンだ。
日本にだって居るだろ? コイツ、絶対に○○の才能があるのに、××しかやりたがらない……とか。
事実として、十年掛けて剣技を習得したって言っているけれど、それでもスキルのランクは最低のGランクだからな。
壁役として方向性を変えた方が絶対に良い。
俺が保証するが、とはいえ見ず知らずの俺の意見には聞く耳を持たないだろう。
「グレイス。盾は持たないのか?」
「盾か。確かに前衛で盾を持つ者は多いけど、私からすれば盾など不要。攻撃こそが最大の防御よっ!」
うん。一応言ってみたけど、こりゃダメだね。
解決に時間が掛かる奴だ。
だけど、まだある程度攻撃も出来るっていうなら、話は判るけど、グレイスの場合はそもそも攻撃が成功していないんだよな。
さっきだって、俺がゴブリンを倒していなければ、そのまま攻撃されていたかもしれないし、仲間を呼ばれていたかもしれない。
……って、結構話し込んだけど、未だ岩に刺さった剣が抜けないのかよ。
そう言えば、器用さの低さにばかり目が向いていたけれど、グレイスはそもそも筋力も低かったな。
「グレイス。ちょっと、その剣を借りるぞ」
「え? 何をする気だ?」
「いや……大した事じゃない」
「凄いっ! そんな簡単に剣を抜くなんて……」
これで、自分には剣が向いていないと気付いてくれ……ないか。
愛剣が手に戻ったグレイスが、嬉しそうに洞窟を奥へと進みだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます