第13話 VSゴブリン・ロード

 グレイスがゴブリンを殲滅させると意気込んでいるので、デバッグコマンドで生成した真銀の短剣を渡そうとしてみる。

 が、予想通り断られてしまった。


「グレイス。一応、もう一度だけ忠告しておくが、屋外ならともかく洞窟の中で長剣は不利だ。さっきと同じ事になりかねないからな?」

「大丈夫だ! 私程のレベルになれば、狭い場所でも問題無く剣を振るう事が出来るのだ!」

「いや、剣を振るう事は出来るだろうよ。ただ、それに結果が伴ってないんだってば!」

「問題無い! 人間、やろうと思えば何でも出来るんだ!」


 いや、根性論かよ!

 気持ちだけでモンスターが倒せるのなら、とっくに世の中からモンスターが居なくなってるよっ!

 というか事実として、さっき何とかなって無かっただろうがっ!

 まともに相手をすると頭が痛くなってしまうグレイスは、早く自信の剣の腕がポンコツだと気付いて、盾に専念してもらいたい。

 そうすれば、公爵令嬢の名に恥じない活躍が出来るかさ。

 ……というか公爵令嬢ならば、そもそも冒険者や騎士にならないし、剣なんて触った事も無いというのが普通なのだろが。


「む! あっちにゴブリンの気配が!」

「任せろ」

「あっ! こっちにゴブリンが居そうな気がする!」

「はいはい」

「そっちにゴブリンが」

「ほい」


 洞窟を歩いている間に手頃な石を拾っておき、グレイスが気付いた瞬間に投石で倒す。

 そんな事を何度か繰り返していると、


「……何だか、さっきから私が一切剣を振るっていない気がするんだが」

「気のせいだ。事実、着実にゴブリンは減っているぞ」

「……そ、そうかもしれないが、何か腑に落ちないというか……むむっ! 何やら強そうな魔物の気配がある! あれは私が倒すからな! 手出し無用だぞ!」


 グレイスが自分の手でゴブリンを倒したいと言ってきた。

 はぁ……面倒臭いが、ここで言う通りにさせておかないと、後々もっと面倒な事になるからな。

 とりあえず、やばくなるまで好きにさせておくか。

 一先ず静観する事に決めて様子を見ていると、


「現れたな! 我が名はグレイス=ベネット。ゴブリンよ! 正義の剣を受けるが良い!」


 グレイスが名乗りを上げて剣を構える。

 ……もしかして、今までゴブリン相手に、毎回これをやっていたのだろうか。

 ゴブリンに人間の言葉が通じるとは思えない上に、結構恥ずかしいんだけど。

 とりあえず、一匹倒して満足してもらおうと思っていると、


「ワガナハ、ロード。ごぶりんヲミチビクモノナリ」


 ゴブリンが喋った!?

 いや、というかロードって言ったよな!?

 つまりゴブリン・ロード……って、中盤のボスじゃないかっ!

 慌ててデバッグコマンドでステータスを確認すると、


『ロード ???歳 男

 ゴブリン・ロード Lv23

 STR:133(A)

 VIT:115(B)

 AGI:107(C)

 MAG: 41(F)

 MEN: 62(E)

 DEX:136(A)

 スキル:眷族召喚(B)、眷族創生(B)』


 普通に強いよ!

 俺はともかく、グレイスが勝てる相手じゃないっての!

 もちろん、本来遭遇するべき中盤で戦うなら、程良い相手なのだろうが、レベル7しかないグレイスが戦うべき相手では無い事は確かだ。


「グレイス、下がれっ! そいつは普通のゴブリンとは違うんだっ!」

「ダメよっ! 次のゴブリンは私が倒すって決めたんだからっ!」

「普通のゴブリンならそれでも良いよ! だがな、そのゴブリンはロー……」


――ギンッ!


 グレイスを説得する前に、短剣を持ったゴブリン・ロードが切りかかってきて、防いだ俺の短剣とぶつかり、鈍い音が響き渡る。


「なっ……速い!?」

「わかったら下がれ! ゴブリン・ロードだ! おそらく、ここのゴブリンの群れの長だ!」


 そこまで言って、ようやくグレイスが後ろへ下がる。

 よし。グレイスを護りながらだと苦しかったが、一対一ならステータスやスキルを考えれば、負けるはずはない。

 神聖魔法で自身の防御力を上げ、後は怪我だけしないように倒そうと思った所で、


「さもん」


 ゴブリン・ロードが何かを呟くと、一回り大きなゴブリンが周囲に八匹程現れる。


「こ、これは……ゴブリン・ナイトだとっ!? くっ……しかも、囲まれている!?」

「グレイス! これを使えっ! とにかく身を守れっ!」

「これは……しかし……」

「そんな事言ってる場合かっ! お前は盾を使う才能があるんだ! とにかく俺がロードを倒すまで、自分の身を護り切れっ!」


 くそっ! さっきステータスを見た時、眷族召喚ってスキルがあったのに、何も警戒していなかった。

 自らの迂闊さを呪いつつ、


「プロテクション」


 こっそりグレイスに防御魔法を掛ける。

 元々生命力が高い上に、神聖魔法で防御力を強化し、さらに真銀の盾を渡した。

 今は盾なんて……と思っているかもしれないが、グレイスに盾を扱う才能があるのは間違いない。

 だから、これでグレイスに問題は無いはず!

 ……とはいえ、ゴブリンの上位種八匹は流石に多い気がしたので、投石連打で半分まで減らす。

 ここまでやれば、グレイスも自分の身は自分で護れるよな? 大丈夫だよな?

 一先ずグレイスの才能を信じて、俺はゴブリン・ロードに集中する事にした。

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