第36話 グレイスへのお願い
オークロードはオーク平原の奥、ハイオークの森と呼ばれるどこかに居る。
どこか……というのは、クイーンビーなどと違って、オークロードは巣や家を作らずに、勝手気ままに気分で寝ぐらを決めるので、平原よりも遥かに広く、見通しの悪い森の中を探さないといけない。
しかも、既に日が落ちているので、探すのは更に困難だ……普通なら。
実はこのクソ仕様も、俺がこっそりと裏攻略法を仕込んであるので、ある事をすれば簡単にオークロードの寝ぐらへと行ける。行けるのだが、それにはグレイスの協力が必要だったりする。
「こほん。グレイス……少しお願いしたい事があるんだが」
「は、はいっ! だ、旦那様のお願いは、ちゃんと理解しています。そうですよね。そろそろ限界なんですよね。わ、私もそういう気持ちだったので、そろそろ宿へ……」
「いや、流石に拐われた女性を放置しちゃダメだろ。そうじゃなくて、オークロードを倒す為に、グレイスにして欲しい事があるんだ」
「むー。確かに拐われた女性は助けないといけませんね。けど、旦那様と……うぅ、が、我慢します」
「疲れているのに、すまない。女性を助け出したら、しっかり寝よう」
「えぇ。沢山寝ましょう」
若干、グレイスと話が噛み合っていない気がするが、まぁいいや。時間も無いし、話を進めよう。
「グレイス。この先の森のどこかに、オーク・ジェネラルっていう、大きなオークが出現するんだ」
「オーク・ジェネラル? って、何ですか?」
「オークロードの配下で、もの凄く任務に忠実な強いオークだ。それなりにレアで数も少ないのだが、一体しかいないオークロードに比べれば遥かに多い。それで、このオーク・ジェネラルを探して欲しいんだ」
「そのオーク・ジェネラルを倒すのですね?」
「いや、捕まって欲しいんだ」
オーク・ジェネラルは、オークロードから金髪で前衛の女性を拐うように指示されている。
だから、オーク・ジェネラルに金髪前衛のグレイスが捕まれば、そのままオークロードの寝ぐらへ運ばれるので、その後をついて行けば、オークロードと戦えるという訳だ。
「だ、旦那様っ!? ど、どういう事なのでしょうか!? わ、私をオークに差し出すのですか!? 捨てられてしまうのですか!?」
「俺がグレイスを捨てたりする訳ないだろ。そうじゃなくて、オーク・ジェネラルには謎の生態があって、ある言葉を口にすると、絶対に襲ってこないんだ」
「そうなのですか? ……ちなみに、その言葉とは?」
「……くっ、殺せ……だ」
「くっ、殺せ?」
「あぁ。金髪の前衛職の女性が、その言葉を言えば、オーク・ジェネラルからは絶対に襲われない」
うん。この裏設定を作ったのは俺なので、反省はしている。
ただ、三日連続徹夜していた、無茶なテンションで頑張っていた時に作った設定なので、どうか許して欲しい。
……あの時の俺は、本当に疲れてたんだよ。
「すぐ近くに俺が隠れているし、グレイスには防御魔法もかける。絶対に俺がグレイスを守ってみせるから、俺を信じてくれないか」
「だ、大丈夫です! 旦那様の事は絶対的に信じていますし、私を守ってくださると言ってくれているのです。私は旦那様の為なら、何でもしますし、どんなプレイだって大丈夫ですっ!」
プレイ? よく分からない言葉もあったけど、先ずは平原を抜けて森へ。
グレイスを背負って歩いているうちに、すっかり日が暮れてしまったので、
「ビュー・クリア」
「ビュー・クリア」
グレイスが使った視界確保の魔法と同じ言葉を発して、すぐさまデバッグコマンドで暗闇の中でも見えるようにする。
そのまま暫く歩いていると、
「旦那様。東に魔物が居ます。ただ、そんなに強くは無さそう」
不意にグレイスが魔物の存在を検知した。
「ふむ。一先ず、グレイスが感じる魔物の確認をしておこうか」
グレイスの言う通り、東に向かって行くと、オーク・ウォーリアがいた。
一先ず、俺が一刀両断で倒し、
「グレイス。弱いと感じる魔物は回避しよう。グレイスが強いと感じる魔物が居たら、教えて欲しい」
「畏まりましたー!」
再び森の中を歩いて行く。
「旦那様。北東に、何かがいます。ちょっぴり強い感じです」
「わかった……が、俺の耳に息を吐きかけながら話すのは止めような」
「はーい」
いまいち、グレイスに緊張感が欠けていると思いながら、示された先を見に行くと、ハイ・オークが三体居た。
なるほど。ハイ・オークが相手でも、今のグレイスからすると、「ちょっぴり強い」なのか。
ゴブリン相手に苦戦していた事を考えると、本当に急成長だな。
三体まとめて斬り捨て、
「グレイス。ちょっぴり強い……も回避で良いよ」
「はーいっ!」
いや、何で楽しそうなんだ?
人命救助なんだってば。
再び森の中を歩き、
「旦那様……居ました。かなり強い魔物です」
グレイスの指し示す先へ行くと、先程のハイ・オークよりも一回り大きい、オーク・ジェネラルが居た。
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