第4章 オッサンはゲームシナリオを逸脱する!?

第35話 緊急クエスト

 グレイスの想定外の急成長――守りだけでなく、攻撃まで出来る――を褒めながら、オーク平原からスッチーオの街へと戻る。

 ただ、生命力がかなり高いグレイスだが、丸一日オーク平原を駆けまわってオークを狩り続けていたので、流石に疲れたのか、抱っこを要求してきた。

 エミリーみたいな幼女を抱っこするのではなく、流石に金髪JKを抱っこは出来ないので、おんぶで勘弁してもらったのだが……やばい。

 何がやばいって、背中にグレイスの大きな胸がずっと押し付けられていて、俺の手が柔らかい太ももに食い込んでいる。

 いや、俺に密着するのをいとわないくらいに疲れているという事なのだろう。

 現に、おんぶしてからずっと、


「……はぁはぁ……はぁはぁ」


 と、俺の首筋にグレイスの荒い息が吹き掛かっている。

 グレイスは疲労困憊なだけなのに、変な事を考えるんじゃないっ!

 オッサンが金髪JKに手を出す訳にはいかないと、気合で理性に頑張ってもらい、ようやく街の入口へと着いた。

 グレイスはまだ疲れているようなので、先ずは宿で休ませようとしたのだが、何か街の様子がおかしい。

 通りに人が殆ど居らず、所々建物の壁が壊れている。そう思った所で、


――緊急クエスト! 緊急クエスト! 動ける全冒険者は必ず冒険者ギルドへ集まるように! 繰り返す! 緊急クエスト……


 どこかで聞いた事のあるアナウンスが聞こえて来た。


「旦那様。今のは?」

「あぁ。そのままの意味で、緊急クエストって言って、街の近くで魔物のスタンピードが発生したとか、七魔将クラスのとてつもない魔物が現れたとかっていう、街が危険だから、冒険者全員で街を守れっていう強制イベ――こほん、強制招集だよ」


 これは、ゲーム前半では発生しないが、中盤以降に時々発生する強制イベントだ。

 まぁ要は強制バトルなのだが、大体は準備時間が貰える。……ゲームだと。

 疲労が著しいグレイスを、一時的にパーティから外して宿に寝かせて来る事が出来れば良いのだが。


「仕方が無い。一先ず冒険者ギルドへ行って、話だけでも聞こうか。グレイス、それまで少し我慢出来る?」

「わ、私は我慢しますけど、それより旦那様の方が大丈夫なのですか?」

「んー……まぁ少しくらいなら」


 いつも早く寝てる事にして、教会へ帰っているから、グレイスは俺の睡眠時間を心配してくれているみたいだ。

 ブラックな環境で働いていたから、睡眠時間は全然平気なんだけど、早く帰らないとアリスが寝ずに待っている可能性があるからな。

 とにかく早く強制イベントを終わらせて、教会へ帰らないと。

 グレイスをおんぶしたままギルドへ移動し、中に入ると大勢の冒険者たちが居た。

 ざっと見た感じだと、二十人程だろうか。

 緊急クエストで、街の冒険者が集まっているにしては少ないな。


「冒険者の皆様。お集まりいただき、ありがとうございます。街に居られた方はご存知かと思いますが、先程オークロードが街に攻めて来ました。幸い、死者は出ておりませんが、十数人の女性が拐われており、緊急を要する事態です。既に、一部の冒険者の方々は拐われた女性たちを助けるため、オークロード討伐に向かっています」


 なるほど。冒険者が少ないと思ったら、俺たちは後発だったのか。

 しかし、オークロードが街に攻めて来るイベントなんてあったか?

 ……あ、あれだ。プレイヤーがクエストを全く進めない、特殊な条件でのみ発生する……って、リアムが未だに孤児院から旅立ってないからな。そりゃ、発生するか。


「冒険者の皆様にお願いしたい事は二つです。一つは、拐われた女性を助ける事。もう一つは、何故か金髪の前衛職の女性だけが拐われているので、気を付けて欲しいという事です」


 ギルド職員がそう言った途端に、皆の視線が俺に……というか、おんぶされたグレイスに注がれる。


「な、何? 何なの!? いくら私が可愛くても、私は既に旦那様のものなんだからっ!」

「いや、そういう話じゃなくて、グレイスが金髪の前衛女性っていう条件に当てはまっているからだよ」

「あ! そ、そういう事……し、失礼しました」


 恥ずかしいからか、グレイスが俺の首筋に隠れるようにして、顔を押し付ける。

 く、首にグレイスの口が当たってる!

 なんてトコに隠れようとしてるんだよっ!

 というか、口を背中に着けた状態で、はぁはぁするのは、くすぐったいから止めて欲しいんだが。


「えー、とにかくですね。オークロードはかなり凶悪な魔物ですが、皆様の力を合わせ、どうか女性たちを救って欲しいのです。可能であれば討伐もお願いしたいですが、最優先は人命救助でお願いします」


 それから、一部の冒険者たちから報酬の質問などがあったみたいだが、急ぐ必要がある事と、俺たちは報酬が無くても構わないので、先にギルドを発つ事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る