第28話 VSクイーン

 穴へと近づいて行くと、中から時折羽音が聞こえ、奥底で何かが蠢いている様にも見える。


「あ、あの、ウィルさん。穴の中には凄い数のキラービーが居ると思うんですけど……まさか、ここに入るんですか?」

「いやいや、そんな気持ちの悪い事はしないよ。という訳で、これを使うんだ」


 そう言って、鞄から取り出す振りをして、今度は正真正銘のマジックアイテム――爆炎石をアイテムインベントリから取り出した。

 これは、魔法が得意ではないリアムが、強力な魔法攻撃を使用可能にする為の消耗品で、ゲーム後半では店で買えたりする。

 一度使用したら無くなってしまう高額商品ではあるが、今の俺はデバッグコマンドで使い放題なので、先ずは三つ取り出し、それぞれに魔力を込めると穴の中へと放り込む。


「ウィルさん。今投げ入れたのは何ですか?」

「とある攻撃用のマジックアイテムだよ。でも、それよりグレイス。危ないから少し下がって」


 俺の言葉でグレイスが後ろに下がった直後、穴の中から爆発音が響く。

 爆炎石による広範囲への強力な魔法攻撃で、クイーンの巣は大混乱しているらしく、唸るようにして羽音が聞こえてくる。


「ふむ。あれだけでは足りないみたいだから、もう一回いってみよう」

「も、物凄い轟音が響いていましたけど……」

「いくら広範囲へ攻撃出来るって言っても、やっぱり数が多いと攻撃が届いていない奴とか居るよねー」


 グレイスが何か言いたげだけど、キラービーたちが外に出て来たらやっかいなので、すぐさま四つの爆炎石を投げ込む。

 すると、再び爆発音が響き、地面が少し震えた。


「あ、随分と静かになりましたね。倒したのでしょうか」

「いや、周りのキラービー・ナイツまでだな。クイーンビーは、こんなに弱くないよ」

「そ、そうなんですね……って、あれ? 何だか、急に気配が増えましたね。羽音も聞こえてきましたし」

「クイーンビーがキラービー・ナイツの群れを召喚したんだろう。じゃあ、もう一回いくか」


 先程よりも更に一つ多くし、今度は一気に五個の爆炎石を投げ入れた。

 すると、爆発音の後にすぐさま静かになるが、穴の中から何かが近づいてくる気配がする。


「あの、ウィルさん。何か迫って来ていませんか?」

「あぁ、クイーンビーだろ。巣の中だと、どれだけ眷族を召喚した所で、すぐさま燃やされるって事に気付いて、巣から出ようとしているんだろ」

「え!? それってマズくないですか!? 私たち、結局遠距離武器を何も用意していませんよ!?」

「いや、大丈夫だよ。何故かっていうとさ……」


――ザンッ


「もう倒したから」


 穴から出て来た直後のクイーンビーの胴体を、準備していた真銀の剣で一刀両断し、更に念押しで頭と尻尾を斬る。

 で、この斬り落とした尻尾から、討伐の証拠としてクイーンビーの針を取り、胴体から羽を斬り取って、依頼完了だ。


「というわけで、キラービー討伐からクイーンビー討伐へと代わってしまったけれど、依頼は完了だ」

「あの、ウィルさん。一応、聞きますけど、ハチミツは?」

「あー、そう言えば、そうだったな。元はハチミツが目的だったけど、巣の中で思いっきり爆炎石使いまくったしな。まぁダメだろうな」


 むしろ、クイーンビーの巣なんて、燃やしておかないと、卵が残っていて大量にキラービーが発生したりして困る。

 ハチミツは何か適当な理由をつけて入手した事にして、デバッグコマンドで生み出せばいいだろう。


「残念。私もハチミツ食べたかったのに」

「ん? 公爵令嬢のグレイスですら、ハチミツを食べた事がないのか?」

「食べた事が無い訳じゃないけど、そんなに頻繁に食べる物でも無いし、何より甘い物が食べたかったから」

「そうか。この村には、そういうのは無いだろうから、昨日一泊したヴェルノの街でまた何か甘い物を探してみるか?」

「うん、ウィルさんが良いなら、そうしよっ!」

「あぁ、俺は構わないぞ。……じゃあ、そういう訳で、一先ず村へ戻ろうか」


 こっそりデバッグコマンドを使用し、天気を晴れに戻して歩きだすと、突然グレイスが大きな声を上げる。


「あぁーっ! ウィルさんの手際が凄過ぎて感心しっぱなしだったけど……私、今回の依頼で何もしてないですっ!」

「あ……。えっと、その、なんて言うか、も、もう一つ依頼を受けよう。何かしらあるだろうし」

「でしたら、モンスター討伐系でっ! ……まさか山登りしただけで終わるなんて、思わなかったです」


 若干拗ね気味なグレイスに謝りつつ、俺たちは村へ戻る事にした。

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