第27話 クイーンの巣
「こっちだ」
「そこの小川を渡ったら左へ曲がるぞ」
「そうそう、この大きな岩のすぐ先だ」
クイーンビーを倒す為、グレイスを連れて山を登り、途中からは道なき道を進んで行く。
「あの、ウィルさん。どこへ向かっているんですか?」
「ん? あぁ、クイーンの巣だよ」
「巣……ですか?」
「あぁ。普通のキラービーは樹の枝に巣を作るんだけど、クイーンビーの場合はクイーン自身が大きい事と、沢山のキラービー・ナイツを住まわせるから、樹の枝に巣を作ると折れてしまうんだ。だから、それなりに大きな樹の根元に穴を掘って巣を作るんだ」
そう、これが俺の作ったクイーンビーの裏攻略の為の設定だ。
元々の仕様ではクイーンビーやキラービーに巣なんて無かったんだけど、巣に居る時だと、クイーンが空を飛ぶ事なく倒せるという仕様にしておいた。
ただ、この結果、女王蜂でもない普通のキラービーが巣を作るっていう、虫に詳しい人には怒られそうな設定になってしまったが。
「えっと、クイーンが巣に居る時に倒すっていう事ですよね? つまり、クイーンが巣に戻って来るまで待つという事ですか?」
「そういう事だ。だけど、心配しなくて良いよ。すぐに戻って来るから」
不思議そうにしているグレイスを連れて少し歩くと、目的地――クイーンビーの巣に到着した。
「これがクイーンの巣だよ」
俺とグレイスが手を繋いで大きく開いても、一周出来ない程の太く大きな樹の根元に、人が潜れるくらいの大きな穴が空いている。
ちらっと中を覗いてみたけれど、かなり穴が深く、光りの届く範囲では全てが見渡せない程だ。
「お、思っていたよりも大きいです。まさかクイーンビーって、人間くらいの大きさなんですか?」
「そうだな。それくらいの大きさはあるかな。でも、簡単に倒せるから大丈夫だよ」
「そ、そうなんですか? 流石ウィルさんです」
「あぁ、任せとけ……だけど、先ずは準備が必要だから、村の道具屋で買った物を身に着けようか」
そう言って、鞄から購入したレインコート――雨合羽を取り出すと、袖を通す。
「……あの、ウィルさんの事なので、ちゃんと意味があるのでしょうけど、どうして雨合羽を着るんですか?」
「え? だって、濡れると風邪を引くし、ずっと雨に打たれていると、体力も減ってしまうからね」
「いえ、そういう意味ではなくて、えっと……今は雲一つ無い物凄く良いお天気なんですけど」
「うん。だから、今からこのマジックアイテムを使って雨を降らせる。すると、クイーンビーたちが巣に戻って来るって訳さ」
小首を傾げるグレイスに、鞄から取り出した振りをして、アイテムインベントリから取り出した、両手で包み込める程の小さなオーブを見せる。
ちなみに、このマジックアイテムの正体は、デバッグコマンドで作り出した、ただの綺麗なガラス球だ。
そのガラス球を、如何にも意味ありげに適当な茂みに投げつけ、
『デバッグコマンド……天候操作。対象、ポマガノン山。設定、雨』
こっそり天気を雨に変える。
すると、ものの数秒で快晴だった空に黒い雲が集まりだし、ポツポツと雨が降りだした。
「す、凄いです。こんなマジックアイテムがあったんですね。天候を操作するなんて、凄く高価なマジックアイテムなんですよね?」
「え? えーっと、そうだな。昔、悪魔を倒した時に幾つか入手しただけで、店に売っているのは見た事がないかな」
「そうなんですね。そんな高価なアイテムを惜しげも無く使うなんて」
何だか凄く驚かれているけれど、実際はただのガラスだし、そのガラス球すらデバッグコマンドで作りだしたから無料だし。
というか、使うタイミングが難しいだけで、そもそも資金も無限にあるんだけどさ。
「それよりグレイス。クイーンビーたちが帰ってくるから、隠れるぞ。そうだな……あの、大きな岩の陰に隠れよう」
「は、はいっ!」
グレイスと共に慌てて岩の陰に移動すると、少しして大きな羽音が聞こえて来た。
岩から少しだけ顔を出してチラっと見てみると、人間の子供くらいの大きさのキラービー・ナイツの大群がわらわらわらわらと集まっており、彼らの巣である大きな穴へと吸い込まれるようにして消えて行く。
直接確認は出来なかったが、既にクイーンビーが穴の中に入った後なのだろう。
暫くうるさいくらいに羽音が響き渡り、キラービーたちが穴の中へとめどなく入って行くというのに、その羽音が止むまで数分を要した。
もしかしたら、七魔将レイモンの時とは逆で、ゲームシナリオで戦った時よりも、むしろクイーンが強くなっているのかもしれない。
とはいえ、これだけの規模になっている大群だ。
いずれ村を襲う可能性だってあるし、ここで殲滅させてもらうが。
「よし、グレイス。準備はいいか? これからクイーンビーを討伐するぞ?」
「はい! 大丈夫ですっ!」
俺とグレイスは隠れていた岩の影から飛び出し、クイーンの巣――大きな穴へと近づいた。
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