第29話 子供に好かれるウィル

 グレイスと共に村へ戻り、クイーンビーを倒した事を冒険者ギルドの出張所のお姉さんに報告し終えると、あっという間に日が暮れてしまった。

 既にヴェルノの街行きの最終乗合馬車が出てしまった後なので、今日は村に一泊し、明日の朝一の馬車で街へ行こうと思っていたのだが、


「……は? ど、どういう事だ?」

「すみません。ですから、今うちの宿が改装中でして、お客様をお泊め出来るような状態ではないんです」


 村に一つしか無い宿屋が開いていないという、まさかの事態に陥ってしまった。

 マジかよ。最悪、テントで寝泊まりしても良いんだが、今この状態でテントを鞄から取りだしたら流石に不自然過ぎる。

 わざわざテント持って山登りしてたのか? って話になるしさ。

 まてよ。最悪クイーンビーの巣に辿り着けず、野宿する事も想定していたという言い訳をすれば……いや、それにしてもだ。そもそも鞄にテントなんて入らないっての!

 あ……だったら、今から道具屋でテントを買うとか。

 それだ! よし、そうしよう。


「申し訳ない。うちの店、テントとかは扱ってないんだ」


 いや、ここは思いっきり山の中の村だよな!?

 アウトドア感全開な場所なのに、アウトドアグッズを置いて無いって、どういう事なんだ!?

 そりゃあ、キャンプしに行く人は普通家からテント持ってくるけど、忘れて来た人の為に、キャンプ場でも売ってたりするよね!?

 まぁ日本の話だし、そもそもここはキャプ場では無いんだけどさ。

 ……しまった! 良く考えたら、グレイスを店の外で待たせておいて、店で買った事にしてデバッグコマンドで作れば良かったんだ!

 いや、それはそれで道具屋の店主から変な目で見られるけどさ。


「うぃ、ウィルさん。どうしましょう」

「そ、そうだな……どうしようか」


 特に良い案も浮かばず、グレイスと途方に暮れていると、


「あら? ウィルさんにグレイスさんじゃないですか。こんな所で、家に帰れない迷子みたいな顔をされて、一体どうされたんですか?」


 先程いろいろ手続きをしてもらった、冒険者ギルド兼薬屋さんのお姉さんが話しかけて来た。


「え? 村で唯一の宿屋が改装中で泊まる所が無い? なんだ、そんな事でしたら、うちへ来ますか?」

「えっ!? 良いのですか!?」

「もちろん! うち、実は臨時の宿屋も兼ねてますので」

「冒険者ギルドと薬屋に咥えて、宿屋までっ!? 商魂逞しいなっ!」

「あはは、冗談ですよ。あ、でも、家にお泊めするのは本当ですから。お店は冒険者ギルドの資料などがあるので、規則でお泊めする事が出来ないので、家で良ければ」

「是非、お願いします!」


 良かった。本当に良かった。

 グレイスと共に、お姉さんに感謝しまくりながらついて行くと、そこそこ大きな家に着く。


「ただいまー!」

「お姉ちゃん、おかえりー! ……ん? あれ? お姉ちゃん、この人は……あ! まさか、お姉ちゃんに彼氏が!? それでお父さんに挨拶!? お姉ちゃん、結婚するの!?」

「いやいや、よく見て。後ろに、そのお兄さんの恋人さんが居るでしょ。この二人は、モンスターの脅威から村を守ってくれた、冒険者さんよ」


 待った。グレイスは俺なんかの恋人ではなくて……ほら、グレイスが顔を真っ赤にして怒っているじゃないか。

 冒険者ギルドのお姉さんの家に泊めてもらう事になったら、中学生くらいの妹さんが現れ出迎えられた。

 その直後、


「お姉ちゃーん!」

「おねーちゃん、おかえりー」


 さらに小さな小学生くらいの女の子が2人出てきた。


「騒がしくてごめんなさいね。うち、四人姉妹なの」

「いえいえ、全然大丈夫ですよ。こちらも似たようなものですし」


 しかし、4人子供が居て、全員女の子っていうのも凄いな。お父さんの肩身が狭そうだ。

 そんな事を考えていると、夕食を出してくれた時に、お父さんが嬉しそうに話しかけてくる。

 まぁ普段から可愛い女の子に囲まれている生活は、羨まくもあるけれど、大変だろうとは思う。

 とりあえず、お酒を勧められたので、俺はそんなに飲めないけど、少しくらいは付き合おう。泊めてもらう訳だしね。


「ウィルおにーちゃーん! はやくー!」


 お父さんの晩酌に付き合いつつ、孤児院で慣れているので、一番下の娘さんと遊んでいると、いつの間にか物凄く懐かれていた。

 何故か一緒にお風呂へ入り、寝かしつけまで俺がする事になって……って、飲めないお酒のせいか、孤児院の事をすっかり忘れてたっ!

 ベッドに腰掛け、俺の指を小さな手で握る娘ちゃんの胸をトントンと優しく叩いていると、すぅすぅと静かな寝息が聞こえてきたので、慌てて教会へ。

 流石に子供たちは皆寝ていると思っていたのだが、


「ウィルー! 遅いよぉー」

「アリス!? 起きて待っていてくれたのか?」

「だって、ウィルが帰って来なかったら嫌だもん」


 眠たそうにしているアリスが、食堂で一人待っていた。

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