第14話 金髪JKのお願い

「ハッ!」


 ゴブリン・ロードに斬りつけると、手にした鉄製の盾で防がれ、その直後に短剣が振り下ろされる。

 前の戦いで作っておいた盾はグレイスに渡しているので、一先ず短剣で防ぐと、急いで新たな盾を作り出す。

 だが、その前にゴブリン・ロードが左手の盾で俺を弾き飛ばす。

 ……くっそ。ステータスは俺の方が上でも、戦い方はゴブリン・ロードの方が上だ。

 いやまぁ、ずっとプログラミングばかりしていたし、この前の七魔将との戦いだって魔法で倒したから、当然っちゃあ当然なんだけどさ。

 一先ず俺も盾を手にしたので、大きな盾に身を隠しながらゴブリン・ロードにぶつかっていく。

 筋力も敏捷性も俺の方が勝っているので、ゴブリン・ロードが弾かれ、後ろへ数歩下がった所で、


「精霊魔法――ディグ!」


 穴を掘る魔法でゴブリン・ロードを落下させる。

 足元が土じゃないと使えないが、逆に言えば足元が土なら物凄く使えて便利……などと思っていたら、穴の中からゴブリン・ロードが飛び出してきた。


「敏捷性は低いくせに、器用な事をっ!」


 まだ宙に浮いているゴブリン・ロードを盾を使って穴の中に叩き落とす。

 だが、その直後にはゴブリン・ロードが再び跳躍してくる……が、俺はそれを再び落下させる。

 それでもまた跳躍してきて、叩き落として……というのを十数回繰り返していると、流石に動かなくなった。

 まだ息はあるようなので、早く止めをさそうと思った所で、


「わひゃぁぁぁっ! 無理無理無理無理っ!」


 グレイスが悲鳴と共に俺へ抱きついてきた。


「お、おい! グレイス、何を……」

「ゴブリンの上位種を四匹も同時に相手するなんて無理よっ! 少しは助けなさいよっ!」


 いや、俺はその上位種の親玉と戦っているんだが。

 グレイスを見てみると、かすり傷一つ負っていないし、盾で全て上手く防いでいるようだ。


「グレイス、落ち着け。相手はゴブリン・ナイトだ。ゴブリンの上位種とはいえ、今のグレイスならダメージを受ける事は無い。だから、冷静に敵の攻撃を……」

「無理よっ! 敵が多すぎるのっ!」

「……はぁ。じゃあ、ちょっとだけだぞ」


 グレイスに抱きつかれ、動きにくい状態ではあるが、ゴブリン・ナイトくらいなら十分に瞬殺出来る。

 グレイスを追って迫ってきたゴブリンたちを短剣で切り捨て、二匹まで減らした。


「ほら、これなら平気だろ?」

「も、もう一声!」

「いや、二匹しか居ないんだが」

「あ、あと一匹倒してくれたら頑張るから! ね、お願い!」


 いや、ゴブリンを殲滅させるんじゃなかったのかよ!

 どうして急に可愛さを使って俺に倒してもらおうとしているんだよ。

 ……いやまぁ、そうは言いながらも、俺だって男だし、金髪JKから可愛くお願いされたら、断れる訳が無いから倒しちゃうんだけどさ。

 中身はオッサンなのに……いや、オッサンだからか? 女の子に甘いなぁと思いながらゴブリン・ナイトを一体倒し、残り一体にすると、


「はっはっは。我が名はグレイス! 魔を滅する者だ!」


 突然、強気になったな!

 ツッコミたい事がいろいろあるが、とりあえず先ずは一つ。


「って、だから、どうして盾を捨てるんだっ!」

「攻撃は最大の防御っ! この剣で敵を討つっ!」

「いや、さっきまで思いっきり盾を構えてたろっ!」

「過去は過去。私は未来に向かって生きるのよっ!」

「何の話だよっ!」


 だからグレイスに剣は向いて無いんだってば。

 とりあえず、防御魔法も使っているし、ゴブリン・ナイトくらいなら大ケガをする事も無いだろうし、小さなケガなら俺が魔法で治せる。

 なので、一先ず好きにさせておいて、俺はゴブリン・ロードに止めをさそうと穴の中を覗く。

 すると、倒れて動かないゴブリン・ロードに、


「さもん」


 再び眷属召喚スキルを使用されてしまった。


「うわぁぁぁんっ! 助けてぇー!」

「さっきの威勢の良さはどこに行ったんだよっ!」

「そんな事言わずに、助けてよぉーっ!」

「いや、だから抱きつくのは止めろって!」


 グレイスのポンコツぶりに頭を抱えそうになりながらも、先にゴブリン・ロードを倒す事にした。

 ストレングス・クエストだと、ボスを倒せば召喚された眷属も一緒に消えるからな。

 一度目はグレイスの為にとゴブリン・ナイトの数を減らしてあげたが、流石にもう良いだろう。

 俺に抱きついているグレイスを、左手でしっかり抱き締めると、


「な、何!? ま、まさか、この数に囲まれて諦めちゃったの!? だから最期に可愛い私を抱きしめて……って、きゃぁぁぁっ!」


 グレイスの意味不明な言葉を無視して、ゴブリン・ロードが倒れている穴の中へと飛び降り、そのまま短剣で止めをさす。

 すると、ゴブリン・ロードが消え、不意に身体が軽くなる。

 おそらくレベルが上がったのだろう。


「な……何となく強くなった気がする。これも日頃の修行の賜物かしら」


 いや、グレイスは殆ど何もしてないだろっ!

 一般的なRPGなんかと同じく、ストレングス・クエストでもパーティ内で経験値を分け合う仕様だけど……いや、いいんだよ? グレイスも強くなって欲しいし。

 けど、何故か少しイラっとしてしまった。

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