第47話 スローライフ?

 サミュエルを倒した瞬間、奴が放とうとしてた魔法が、同じ暗黒魔法の使い手であるアリスに吸い寄せられた?

 いや、魔王の力か。闇属性の攻撃は吸収する仕様だし。

 だが、これが今のアリスに無害かというと、そうではない筈だ。

 ステータスの低いアリスが即死級のダメージを負うか、闇を取り込んで魔王化が進むか。

 どちらにしても、最悪だ。


「アリスッ!」


 七魔将クラスの攻撃なので、既に結晶石の結界を突破し、闇色の何かがアリスに触れている。

 一刻の猶予も無いので、デバッグコマンドでステータスを生命力と精神力――魔法防御に振り、アリスの元へ――闇色の中へと飛び込む。

 アリスを魔王化させない事を第一に考えていたけれど、だからと言って、アリスを亡き者にして良いかというと、それは違う。

 俺は世界も、アリスも救うんだっ!


「ウィルッ!?」

「アリス! しっかり捕まってろ!」


 アリスを抱きかかえると、闇から出ようとしたが、アリスの位置に合わせて闇も移動してくる。

 やはりアリスの魔王の力が、自ら闇の力を取り込んでいるのか。

 しかも、魔法防御が高い今の俺でも、かなり体力が削られていく。

 ステータスを敏捷性に極振りして、高速で逃げるという手を考えたが、それをしようとステータスを変更した時点で、俺が死んでしまう。

 この状況を打破するのに最も良いのは瞬間移動だが、あれは俺しか移動出来ないのは確認済みだ。

 だが……待てよ。前から疑問に思っていたが、俺の服とか持ち物は一緒に移動出来る。

 だったら……これで、いけるハズっ!


「アリスッ! よく聞いてくれ。今からアリスを助けるが、その為にはアリスが俺のものにならないといけないんだ! アリス……俺のものに、なるんだっ!」

「う、うん。私はウィルのものだよっ!」

「よしっ! アリスは俺のものだっ! ……頼むぞ! デバッグコマンド……テレポート。設定、ウィルの部屋っ!」


 一瞬で視界が見慣れた俺の部屋に変わる。

 そして、俺の腕の中には、


「ウィルッ! 凄い! もう痛くないよっ! どうやったの!?」


 笑顔を浮かべたアリスが居た。


「良かった……良く、耐えたね」

「うん。あのね、きっとこれのおかげだと思う」


 そう言って、アリスが左腕を差し出すと、淡く光る腕輪……俺が誕生日プレゼントとしてあげた、装備しているだけで、防御魔法が展開される天使の腕輪が身に着けられていた。

 なるほど。この防御魔法は使用者の魔力に応じて効果が高まるから、666も魔力があるアリスからすれば、最強の防御になるな。


「アリス。グレイスとリアムの様子を見に行こう」


 テレポートの事は、数回だけ使えるマジックアイテムの効果だと説明し、アリスを抱きかかえて小屋の入り口へ。

 小屋の中に入ると、


「どうしてっ! 旦那様っ! 旦那様ぁぁぁっ!」

「そんな……アリスが……」


 先程までアリスが蹲っていた場所でグレイスが泣き伏せ、リアムが呆然と座り込んでいる。

 あー、これは早く教えてあげないと、大変な事になるやつだ。


「あのさ。グレイスもリアムも、アリスはちゃんと助けたし、俺も無事だから」

「ウィルに助けてもらったよー!」


 俺とアリスの声が届いたのか、ゆっくりと二人が振り向き、


「旦那様ぁぁぁっ!」

「アリス! アリスーっ!」


グレイスが俺に、リアムがアリスに走り寄る!


「って、グレイス! 抱き付くのはまだしも、何を……し、舌っ!?」

「あぁっ! 今、ウィルとグレイスがチューしてたっ! じゃあ私もっ!」

「旦那様ぁぁぁっ! 良かった! 本当に良かったですぅぅぅっ!」

「アリスには、まだ、早いってば」


 リアムがアリスを止めてくれたものの、そのせいでグレイスがどんどん激しくなって……って、子供たちに見せられないような事までしようとするなっ!


「旦那様は私の旦那様なんです!」

「私はウィルのものになったんだもん」

「……旦那様。アレはどういう意味なんでしょうか。私という、可愛い可愛い妻が居るのにっ!」


 グレイスとアリスに迫られ、リアムに呆れられるものの、一先ずアリスの誤解を解き、守る事が出来た。

 まだまだトラブルが起こりそうな気もするけれど、これからも俺は、アリスの魔王化を回避して、まったりとスローライフを堪能しようと思う。


「旦那様っ!」

「ウィルーッ!」


 ……この修羅場を乗り切る事が出来たらの話だが。

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