挿話4 勇者を導く光の精霊の憂鬱
「……遅い! いくらなんでも遅すぎるっ!」
女神様から、光の勇者が必ずここへ来るから待機するようにって言われたけど、いつまで経っても来ない。
女神様の話によると、光の勇者も闇の魔王も、どちらも輩出している危うい血筋の少年らしいんだけど……まだ子供だから道に迷っているのかな?
「ちょっとだけ……ちょっとだけ様子を見に行っても良いよね? だって、女神様から一週間もあれば来るはずって言われたのに、もう一ヶ月も経っているしね」
女神様から、光の勇者の持つ魔力の波長は聞いているから、それを辿ってフヨフヨと宙を漂い……って、あれ? 割と近くに居る感じ?
じゃあ、もーすぐ来るのかな?
……いたいた。あの教会に居る少年かな。
ふむふむ。レベル12か。女神様から聞いていた話ではレベル6くらいで来るって話だったけど、し、慎重なのかな。レベルが倍になっているね。
「……って、待って! どうして既に光の剣を手にしているの!? これを手に入れる為に、ボクが導くんだよ!? これだと、ボク要らなくない!?」
既に勇者の導き手を辞めたくなってきたけど、……こっちの少女からは光の素質を感じる。
一緒に居るし、この少女は勇者の仲間なんだろうけど……レベル40!? え? どういう事!?
仲間のレベル高過ぎない!? しかも、まだ若いのに人妻!? どうなっているの!?
……い、一応こっちの男性も見ておこう。
見た目は牧師さんなのかな? だったら回復係って感じなんだろうけど……レベル56はおかしいよね!?
「旦那様ーっ! 今日こそは新しい生命が宿ると良いですねっ!」
いや、さっきの少女は昼間っから何言ってんの!?
勇者の少年が聞こえない振りをしながら赤面してるんだけど!
というか、教会の敷地内に幼い子供たちがいっぱい居て、やたらと男性に懐いているけど……ま、まさか全員この人の子供なのっ!?
「ウィルー。そろそろ私にも、グレイスみたいな事をしてよー!」
いやいやいや、こっちの女の子も何言ってんの!?
この男性は重婚!? それとも愛人!? 何にしても、幼過ぎ……って、この子レベル6しかないのに、このステータスは何!? しかも次期魔王候補ってどういう事!?
どうなってんの!? 勇者の周りがヤバ過ぎなんだけど!
「みんなーっ! そろそろ食事にしましょーっ!」
教会の奥からシスターが現れたけど……良かった。この人は普通だ。
庭で遊んで居た幼い子供たちが、シスターの声を聞いて教会の中へ入って行く。
なるほど。あの男性の子供じゃなくて、ここは孤児院なのか。だったら懐いているのも頷ける。
「ジェシカ、みてー! ウィルのにがおえかいたのー!」
「あら、エミリー。上手に描けたのねー!」
「うん! エミリー、おおきくなったら、ウィルのおよめさんになるのー!」
「まぁ。じゃあ、私とライバ……げふんげふん。お互い頑張りましょうねー。ふふふ……先ずは、あのグレイスお姉ちゃんに勝たないとねー」
いや、このシスターは幼女に何言ってんの!?
能力は普通だけど、思考が普通じゃないよっ!
とりあえず、ここに居るといろんな意味でヤバそうなので、女神様に指示された場所へ帰ろうとした所で、
「で、君はさっきから何をしているんだ?」
さっきの牧師が独り言を言い出した。
皆んな教会の中へ入っているのに、一人で残ってこっちを見て……誰に話し掛けているんだろ。
何かヤバい物でも見えてるとか?
「その金髪に白いワンピース姿は光の精霊だよな? だとしたら、人と喋る事は出来たはずだが……まさか新手の魔物が擬態しているのか?」
え? ちょ、ちょっと待って!
何で、この男性はボクの姿が見えているの!? ボクの姿は女神様の加護を持つ光の勇者にしか見えないハズなのに!
というか、どうしてボクの姿を見て光の精霊だってわかるの!?
まさか、この人も女神様の加護を受けて……
「ふぎゅゎっ!? な、何か!?」
「何だ。喋れるじゃないか。魔物かと思ったぞ?」
いやいやいや、地面からボクが飛んでた場所まで、どれだけ高さがあると思ってんの!? どうして、普通にジャンプしただけで届くの!? というか、離してよっ!
「あ、貴方は何者なの?」
「俺か? 俺は勇者の保護者だ。君は勇者の導き手だろ? ゲームシナリオを進めたくないし、そこには一生行かないぞ?」
「ゲームシナリオ?」
「あー、まぁ気にするな。とりあえず、幾ら待っていても勇者はそこに行かないからな。あと、下着は白の方が良いと思うぞ」
は? この人何を言って……
「ぼ、ボクのパンツを覗いたのっ!?」
「見えただけだ。とりあえず、伝えたからな」
「ば、バカァァァッ!」
うぅ……勇者の導き手なんて、辞めてやるぅぅぅっ!
完
自分が作った世界(ゲーム)に転生したので、俺だけが使える裏コマンドで無双する 向原 行人 @parato
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