第43話 アリスとウィル
蹲るアリスを抱きしめていると、
「ウィル……どうしよう。私、怖いの。教会でね、私が私でなくなってしまうみたいだったの」
アリスが小さくな声で、ポツポツと言葉を紡ぎだす。
「大丈夫だ! 何があっても、俺が絶対にアリスを助ける」
「……ウィルは、あの時みたいに私を助けてくれるの?」
「あぁ、当然だ!」
そう答えながらも、頭の中はハテナマークで埋め尽くされる。
あの時? 一体、いつの事だ!? 俺がウィルとしてこの転生する前の話だろうけど、そもそもアリスはどうやってウィルに出会ったんだ?
アリスは、孤児院に居る子供たちの中で、リアムに次ぐ年齢だが、どういう経緯で孤児院へ来たんだ?
しかし俺の疑問が晴れる事無く、アリスが再び小さな口を開く。
「でも……ウィルは怖くないの?」
「……何がだ?」
「私の魔力。……普通の人に比べて、凄く魔力が高くて、性質が少し違うんでしょ?」
「……暗黒魔法の事か?」
「……うん。ウィルは知っていたんだね」
しまった。暗黒魔法っていう具体的なスキルの名前はマズかったか!?
だけど、確かウィルはアリスの魔法の師匠という設定だったはず。
俺は魔法に詳しくは無いけれど、ウィルはそれくらい知っていてもおかしくない……よな?
「当然だ。俺はアリスの師匠だし、どれだけ一緒に暮らしていると思っているんだ?」
「……でも、リアム――お兄ちゃんですら知らなかった事だよ?」
えっ!? ちょ、ちょっと待ってくれ。リアムとアリスは兄妹なのかよっ!
マジで!? というか、だったらストレングス・クエストの本来のゲームシナリオは、ラストバトルが兄妹の戦いなのかよっ! 最悪じゃねーかっ!
……っと、このクソシナリオの事は置いといて、今はそれを回避する事に専念しなければ。
「アリス。俺は悪魔殺しの英雄だから、いろいろ詳しいんだよ」
「……そうだよね。悪魔に攫われた私たちを助けてくれたもんね」
なるほど。今の言葉から察すると、何らかの理由でアリスとリアムが悪魔に攫われ、俺が悪魔を倒して助けたという事か。
ん? だけど、どうしてこの二人が悪魔に攫われたんだ?
何か重要な疑問が浮かんだ気がしたけれど、アリスが矢継ぎ早に口を開く。
「ねぇ、ウィル。ウィルはあの人と結婚したんでしょ? 教会はどうなるの?」
いやだから、それがそもそもの誤解なんだけど……って、ここでこの話をすると、またウソツキ呼ばわりされてしまうな。
アリスは自身の魔眼――ステータス参照を絶対だと信じているし、事実として俺とグレイスにそれぞれ夫と妻だと表示されてしまっている。
一先ず、この結婚の否定はダメだ。それに、アリスは俺の結婚自体に対して怒っている訳じゃないと思う。
俺が嘘を吐いた(ように見える)事に対して怒った訳だし、今の問いだって、結婚した事が主題じゃない。教会がどうなるか……つまり、孤児院がどうなるかを気にしているんだ!
「……あのさ、アリス。俺が誰と結婚しようと、アリスやリマム。それにエミリーたちも含めて、孤児院に居る子供たちは誰一人として、俺は見捨てたりなんてしないからな。教会や孤児院はもちろん運営を続けるし、そもそも俺はどこにも行かないよ」
「本当? でも、昨日は帰って来なかった」
「昨日は、確かに帰る事が出来ない状況だった。すまない。あれは、本当に冒険者としての仕事だったから、冒険者ギルドに問い合わせてくれても良いし……そうだ。だったら、アリスも一緒に来るか? もちろんリアムが望むなら、リアムも一緒に連れて行こう。元より、リアムは冒険者として生計を立てて行こうとしているみたいだしな」
「それは……私も冒険者になって良いの?」
「あぁ。俺はもちろん、グレイスも凄く強いんだぞ。先輩冒険者として、いろんな事を教えてくれるはずだ」
「うん、知ってる。ウィルも前より更に強くなってるし、あの人も前に来た時と、強さの数値が全然違う」
そうだな。ステータスが見えるアリスは、俺とグレイスのレベルが上がっている事が見えているはずだ。
……うん。今ので俺の推測が正しかったと分かった。アリスは俺とグレイスのレベルが上がっているのを見て、本当に冒険者として活動している事を分かっている。
だから、帰って来なかった事よりも、嘘じゃないけど、嘘を吐いてしまったように見えた事に怒ったんだ。
これにより、アリスに対してどういう方針で話をすれば良いかがある程度見えたと思ったのだが、
「ところで、あの人が――グレイスさんが突然強くなったのは、やっぱり愛の力なの? 愛する人の近くに居る時に、普段よりも凄く強くなるっていう技能があるし……」
技能って、スキルの事だよな? で、愛の力って事は、あの謎スキルのパワーオブラブの事を言っているのか?
というか、俺のステータスよりもアリスの魔眼の方が優秀で、スキルの効果まで見る事が出来るのか。
でも、愛する人の近くに居る時に、普段よりも凄く強くなる……え? グレイスは本当に俺の事が好きなの!?
俺はオッサンだぜ!? で、グレイスは金髪美少女JKで公爵令嬢なんだぞ!?
……って、違う違う違う。今は俺とグレイスの話じゃなくて、アリスの事だろ!
「……そうだね。だけど、技能っていう表示にはなっていないかもしれないけど、俺だってそういう力は持っているからな。アリスやグレイス、ジェシカやエミリーたち……誰かを助けようとする時、俺は凄く強くなるから。だから、アリスの事も絶対に助けるよ。あの悪魔から助けた時みたいに」
「……絶対だよ!? 絶対に私の事を助けてね! 私は弱いから、ちょっとした事で不安に……昏い何かに飲み込まれそうになっちゃうの!」
「大丈夫だ。俺を信じろ、アリス」
小さなアリスをギュッと強く抱きしめ、何とかなったか!? と内心ホッとしかけた所で、
「だ、旦那様っ! 凄く……物凄く強い魔物がっ!」
グレイスの声が響き、アリスの身体がピクンと跳ねた。
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