第44話 七魔将サミュエル

 グレイスの声と共に、小屋の隅に怪しげな気配が生まれた。

 おそらく、俺のデバッグコマンドと同じテレポートの類か、もしくは隠密系の固有スキルなのだろう。

 とてつもなく大きな、黒い闇のオーラが蠢いている。


「旦那様……この闇は……」

「ウソ……どうして!? どうしてまた私たちの所に来るの!? ……悪魔が」


 なるほど。この闇色のオーラは悪魔か……って、悪魔系の敵は殆どゲーム終盤にしか出て来ないんだぞ!?

 グレイスの物凄く強いという表現と併せ、アリスを庇うようにして警戒していると、


「困りますねぇ。我々の邪魔をしないでいただきたい」


 闇の中から低い声が響く。

 この声――様々なアニメやゲームで、数多くの敵役をこなす名声優の声がそのままだったので、先に正体が分かってしまった。


 七魔将サミュエル。

 七魔将の中でも最強であり、ストレングス・クエストの中で、ラスボスである魔王に次いで二番目に強い敵だ。

 ゲームシナリオの中では、レベル70台後半でないと勝てない敵が、どうしてこんな所へ来るんだ!?

 お前は魔王城の中で、魔王と対峙する前に戦う相手だろうが!

 最初に倒した七魔将レイモンみたく、ゲームよりも弱くなっている事を期待しながら、デバッグコマンドでステータスを覗いてみる。


『サミュエル ???歳 男

 七魔将(最古参) Lv71

 STR:255(S)

 VIT:255(S)

 AGI:255(S)

 MAG:255(S)

 MEN:255(S)

 DEX:255(S)

 スキル:暗黒魔法(S)、闇移動(S)、悪魔特性』


 いや、ほんの少しだけ弱くなってるけど……それでもステータスが、昔のデータ容量の少ないゲームの最大値みたいな値になっている。

 何故こいつがここに居るかは分からないが、アリスを守りながら戦って勝つのは厳しい相手だ。

 出来れば戦わずにお引き取り願いたいが……そういう訳にはいかないんだろうな。


「貴様は誰だっ! 何故ここに居るっ!」


 正体は分かっているけれど、知っていると逆に何故知っているのかという話になるので、一応聞いてみると、


「名乗る程の者ではありません。……が、我々にも色々ありましてね。この地域を担当している者が続けて消えてしまったので、私が担当する事になったのですよ」


 ここに居る理由だけは教えてくれた。

 ウィルがゲーム開始前に倒した七魔将の悪魔、そして俺が倒した七魔将レイモンと、続け様に倒されたので、七魔将最強のサミュエルが来た……って、こいつがここに居るのはウィル(俺)が原因かよっ!


「で、あんたが何の担当者なのかは知らないが、どういう用件なんだ? こっちは今、立て込んでいるんだが」

「それは失礼。だが、こちらにも譲れない事情がありましてね。どうでしょう。そちらの幼い少女を私にくれれば、貴方たちは逃がしてあげますが、いかがですか?」

「バカじゃないのか? 誰がお前みたいな奴に、アリスを渡すかよっ!」

「ふむ……なるほど。そちらの少女から凄い闇の力を感じて様子を見て居ましたが、貴方が言葉を発する度に、闇の力が徐々に弱くなっているのですね。……わかりました。とりあえず、貴方には死んでもらいましょう」


 やっぱりそうなるのかっ!

 とはいえ、予想はしていた展開なので、先ずは結界石でアリスを囲む。


「アリス! その結界から出るなよっ!」


 これは通常モンスターには絶対的な効果がある結界だが、強力なボスの攻撃までは防ぐ事が出来ない。

 そして、七魔将サミュエルは間違いなく強力なボスに分類される。

 気休めにしかならないかもしれないが、無いよりはマシだろう。

 続いて真銀の剣を抜いた所で、


「旦那様っ! 危ないっ!」


 突然七魔将サミュエルの姿が消える。


「――ッ!」

「グレイスっ! ……神聖魔法――ヒールッ!」


 いつの間に移動したのか、俺のすぐ後ろに七魔将サミュエルが居て、俺に攻撃を仕掛けてきていたのをグレイスが庇ってくれた。

 生命力が高く、耐闇属性を持つグレイスなので、幸い大きなダメージにはなっていないが、これはやばい。

 ゲームの中では瞬間移動なんて使ってこないのに、新たな攻撃方法が増えている……って、おかしくないか?

 ゲームで戦う時よりもレベルが低いのに、攻撃方法が強力っていうのは変だ。

 ゲームよりもレベルが上がっていて、新たなスキルを身に付けているから、攻撃方法が増えているっていうのなら分かるのだが、その逆だし。


 ……あ! もしかして、さっきステータス画面で見た、闇移動って奴か!?

 こんなスキル、プレイヤー側には無いし、名前的にも瞬間移動攻撃っぽい樹がする。

 で、ゲーム内で戦う時も、七魔将サミュエルはこのスキルを持っているんだけど、使いたくても使えないとか!?

 アリスに魔眼でこのスキルを見て貰えれば確実なんだが、ややこしくなるのでやめておこう。

 じゃあ、ゲーム内で七魔将サミュエルと戦う時と、今との差は何だ?

 ……場所が違う。広さや明るさが違って……って、魔王城は何時に行っても魔法の灯で中は明るい。

 一方、この小屋は暗いのではないだろうか。

 俺はデバッグコマンドで視界が確保出来るから分からないが、照明らしき物なんて無いし……


「あ。こういう事か!?」


 七魔将サミュエルの闇移動スキルを使用不可にするため、デバッグコマンドでとあるアイテムを作り出した。

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