第45話 これまでのツケ

 光源石――その名の通り、込められた魔力量に応じた光を放つだけの石で、攻撃効果などは一切無い。

 だがそれを小屋の四方に投げ置くと、


「むっ!?」


 サミュエルが僅かに動揺した。

 やはり、闇――暗い場所にしか移動出来ないスキルらしい。

 デバッグコマンドの視界確保を解除し、元々小さなランタンが壁にかけられていただけだった部屋が、十分に明るくなった事を確認すると、続けてステータスを変更する。


『ウィル=サンチェス 二十四歳 男

 公爵令嬢の夫 Lv43

 STR:270(S)

 VIT:200(G)

 AGI:300(S)

 MAG: 30(S)

 MEN:180(S)

 DEX:184(S)

 スキル:剣技(S)、神聖魔法(S)、精霊魔法:土(B)』


 全てのステータスが高いサミュエルに対抗するため、魔力を捨て、筋力と敏捷性に振り直す。


「はっ!」


 真銀の剣で斬りつけるが、殆どダメージを与えられていない。

 ……あー、そういえば、悪魔って無属性物理攻撃に耐性があるよな。

 代わりに光属性に弱点がある……って、だからウィルは光属性武器が装備出来ないし、攻撃魔法を習得してないんだって!

 ストレングス・クエストのシナリオが始まる前、どうやってウィルは悪魔を倒して英雄になったんだよ! と、内心ツッコミつつ、


「リアム! この剣を使うんだ! 俺には扱えないが、リアムになら使えるはずだ!」


 俺には装備出来ず、とてつもなく重くなってしまうゲーム内での最強武器、光の剣をアイテムインベントリから取り出して、リアムの側へ落とす。


「なっ!? その剣は……どうして光の剣がこんな所に!? どこに隠し持っていたんだ!?」

「光の剣……?」

「あぁ。その剣なら、こいつを倒せるはずだ!」


 驚くサミュエルを余所に、リアムが光の剣へ手を伸ばし……軽い木剣でも扱うかの様に振ってみせる。

 よし、後は俺がサポートに入って、リアムにサミュエルを倒して貰えばいい。


「行くぞ、リアム!」


 先程までは余裕を見せていたサミュエルだが、光の剣の存在のせいか、動きが格段に変わった。

 たが、敏捷性は俺の方が高いので、チクチクと小さなダメージで牽制し続けていると、大きな隙が出来る。


「今だっ! リアムっ!」

「えっ!? え、えーいっ!」


 えっ!? 遅っ!

 ……って、しまった! 最強の剣を装備出来るリアムだけど、全く戦闘経験を積んで無いっ!

 大きな隙を見せたサミュエルに斬りかかったが、易々と避けられてしまった。

 慌ててデバッグコマンドでリアムのステータスを確認すると、


『リアム=アンリ 十三歳 男

 勇者の末裔 Lv2

 STR:102(A)

 VIT: 81(B)

 AGI: 85(B)

 MAG: 73(C)

 MEN: 96(A)

 DEX: 88(B)

 スキル:女神の加護(S)、剣技(A)、精霊魔法:光(B)』


 弱いっ! というか、アリスよりレベルが低いんだけどっ!

 まぁ、冒険も何もしてないから当然なんだけどさ。

 ……しかし、アリスと兄妹なのに、リアムは勇者の末裔っていうのは、義兄妹とかなのか?

 いや、この話はどうでもいい。

 とにかく、敏捷性も器用さも低いリアムに攻撃を当てさせる方法を考えないと。

 麻痺や睡眠なんかの状態異常が付与出来れば簡単なんだけど、当然ボスキャラなので効かない仕様になっている。しかも、ボスに状態異常が効かない仕様のテストを行ったのは俺自身だからな。

 七魔将に状態異常が効かないのは、身をもって良く知っているから、別の手が必要だ。


「人間の割には良い動きをするではないか」

「そりゃどーも」

「だが、その程度の攻撃で我を倒そうと考えているのなら、数年は掛かるぞ?」


 だろうな。

 小さな……一桁であろうダメージをチクチクとサミュエルに与えながら、心の中で頷いてしまった。

 店売り武器でサミュエルを倒すのは、ほぼ無理。

 今はサミュエルの攻撃を避けているが、いつか俺のスタミナも切れるだろう。

 時折、隙をついてグレイスが攻撃に参加してくれているが、俺の攻撃と同じで、効いているとは思えない。

 やはり、リアムの持つ光の剣で何とか攻撃したいのだが……ゴブリンロードと戦った時の様に、サミュエルを穴に落としてみようか?

 いや、ゴブリンロードは近接攻撃と眷属の召喚しか出来ないから、あの作戦でも何とかなった。

 サミュエル――七魔将クラスのボスは、眷属を呼ばない仕様にしているものの、そもそもが強いし、魔法攻撃も行ってくる。

 今は俺との接近戦に付き合ってくれているが、穴に落とした所で、魔法が飛んでくるし、そもそもゴブリンロードの時みたく、飛んでからタイミングに合わせてリアムが斬ったり出来ないだろう。


「旦那様っ!」


 体勢を崩してしまった俺を庇う様にして、グレイスが飛び込んできた。


「すまない、グレイス。ありがとう」

「いえ。それより、何か手を考えないと……」


 うん、分かってる。それはさっきから必死に考えていて……あー、これならいける……か。

 サミュエルを倒す為、俺は真銀の剣を投げ捨てた。

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