第40話 バグ?

「デバッグコマンド……ステータス。対象、俺」


 未だに時間との勝負が続き、筋力と生命力、敏捷性の三つにステータスを集めると、水中に落ちた檻を壊し、女性たちを救出する。

 纏めて数人引っ張り上げ、治癒魔法を使い、再び水へ潜って引っ張り上げ……


「これで全員だよな!?」

「た、たぶん……」

「わかった! ここから動くなよ! あと、俺が戻ってくるまで、この結界から出ないように!」


 結界石を使って女性たちがオークに襲われないようにすると、


『デバッグコマンド……テレポート。設定、あの樹の根元! 実行!』


 躊躇なくデバッグコマンドを使ってグレイスの元へと戻る。


「くっ、殺せっ! ……うぁぁっ!」

「神聖魔法――ヒールッ!」


 オークロードと、その取り巻きであるオーク・ジェネラルに囲まれたグレイスが、例の言葉で周囲からの攻撃を無効化しながら、オークロードの攻撃にジッと耐えていた。


「だ、旦那様ぁ……」

「グレイス。よく耐えたな。後は……俺がやるっ!」


 結界石でグレイスを囲み、デバッグコマンドでステータスを筋力へ極振りする。


『ウィル=サンチェス 二十四歳 男

 公爵令嬢の夫 Lv42

 STR:876(S)

 VIT: 50(G)

 AGI: 50(S)

 MAG: 20(S)

 MEN: 20(S)

 DEX:100(S)

 スキル:剣技(S)、神聖魔法(S)、精霊魔法:土(B)』


「お前は……お前は絶対に許さんっ!」


 オークロードが振り降ろしてきた棍を、左腕で受け止めると、剣すら手にせず、固めた右拳を思いっきり腹に叩きこむ。

 俺よりも遥かに大きなオークロードが身体をくの字に曲げ……そのまま腹に大穴が空いてしまった。

 その直後、周囲を取り囲んでいたオーク・ジェネラルたちが突然消失する。


「……え!? 生命力が代名詞のオークロードのくせに、一撃で死ぬなよ」


 とんでもない事をやってきたオークロードは、実力の差を見せつけながら、素手で殴り倒すつもりだった。

 だけど、いくらなんでも一発で終わりだなんて……このフラストレーションを、どこにぶつければ良いんだっ!


「旦那様っ! 凄いですっ! 私が攻撃された事に怒って、本気を出してくださったんですね!」

「あー、うん。まぁそうなんだけど……」

「流石、私の旦那様ですっ! 私を護るために駆けつけ、私の為に怒ってくれる……素敵ですっ!」


 何故かグレイスの顔がキラキラと輝いていて、抱きついてきたけど……まぁいいか。

 あの女性陣が居る檻がぶらさがった樹を倒した事が一番の怒りの理由だけど、グレイスを傷付けられた事も事実だし。

 ……ただ、見た限り治癒魔法を使う前から、殆どダメージを受けてないけどね。

 何がきっかけだったかは分からないけれど、グレイスが聖騎士の片鱗を見せ始めて居るのは良い事だ。


「あのオークロードも酷いですよね。オークたちが大量に倒された事で怒ったんだから、関係の無い人たちは解放してあげれば良かったのに」

「ん? どういう事だ?」

「旦那様が女性たちを助けに行った後、オークロードに言われたんです。街を襲ったのは私を倒す為だったのと、特徴が似て居る女性を集めたって」


 あー、あのグレイスの覚醒とも言える、オーク狩りが原因だったのか。

 ……って事は、あの女性たちは完全なとばっちり!? ……まぁ、余計な事は黙っておこう。


「それより早く街へ……というか、宿へ行きましょう。旦那様は、私を助けに来てくれたナイト様ですし、もうキュンキュンというか、ウズウズというか……とにかく早くっ!」

「いや、あの女性たちを放置は出来ないから」

「あ……うぅ。じゃあ、せめて抱っこか、おんぶしてください」


 なんでだよっ! と思いつつも、女性たちを放っておけないし、時間も勿体無いので、グレイスをおんぶして女性たちの元へ。

 ついでに、ステータスも元に戻しておく。


『ウィル=サンチェス 二十四歳 男

 公爵令嬢の夫 Lv43

 STR:200(S)

 VIT:200(G)

 AGI:200(S)

 MAG:200(S)

 MEN:180(S)

 DEX:184(S)

 スキル:剣技(S)、神聖魔法(S)、精霊魔法:土(B)』


 お、オークロードを倒してレベルが上がったのか。

 レベル43って事は、ようやくゲーム中盤くらいだな……って、ゲームシナリオを進める気なんて、これっぽっちも無いんだけどさ。

 ……って、ちょっと待った。

 俺の情報に表示されている、公爵令嬢の夫って何だ!?

 いや、結婚とかしてないし。バグじゃないか。

 まぁステータスなんて、俺しか見れないから良いけどさ。

 ……あ、もしかして助けた女性の中に公爵令嬢が居て、結婚するフラグとか!?

 別に貴族になるっていうのは、どうでも良いんだけど、金髪美少女と結婚出来るのは嬉しい。

 ……も、もしかして、あのお手洗いに連れていって、いろいろ見せて貰ったあの少女かな?

 十代後半か二十歳くらいって感じだし、十八歳以上なら結婚しても良いよね?

 少しだけ……ほんの少しだけ期待しながら女性たちの元へ戻り、街まで護衛しながら戻ったんだけど……何にも無かった。


 くっ……やっぱり、ただのバグだったのか。

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