第41話 ウソツキ

 助けた女性たちと、その家族。それから冒険者ギルドの職員さんたちに物凄く感謝され、相応の報酬を貰い、そのまま乗合馬車で教会に帰って来た。


「ただいま」

「ウィルー! もーっ! どこかへ行ったりしたいって言ったのに……」

「あ、ごめん。昨日は、ちょっと大変な事件に巻き込まれちゃってさ」


 そう言えば、アリスから不安になるから帰ってきてと釘を刺されたばかりだった。

 頬を膨らませるアリスに謝り、


「もう、いいわよ。こうして、ちゃんと帰ってきてくれ……」


 許して貰えたと安堵しかけた所で、突然アリスが固まる。

 どうしたのかと思ったら、


「旦那様。教会へ帰ってくるのは久々ですねっ!」


 俺の後ろに居るグレイスに視線が向いていた。

 って、グレイス! 教会まで普通に歩いて来たのに、どうして突然背後から抱きついてきたんだ? もうおんぶしなくても良いだろ?

 グレイスの謎行動を不思議に思っていると、


「旦那様? ウィル。旦那様って何?」


 アリスから暗い声が発せられた。

 あ、あれ? 言われてみれば、どうして旦那様って呼ばれ始めたんだっけ?

 えっと、確か金髪ドジっ子メイドって話しだっけ?


「アリス。あれは、ただのメイドごっこみたいな感じだよ」

「そうですね、旦那様。お食事にお着替え、お風呂やご就寝時の添い寝まで、私がお世話をしますから」

「へぇー。で、昨日の夜は、ずっと一緒に居たと」


 アリスの表情が暗くなり、何か薄らと闇色のオーラ? みたいなのが見える気がする。

 これはダメな奴だろ! というか、グレイスもアリスをからかい過ぎだっ!


「違う。違うぞ、アリス。俺たちは本当に事件に巻き込まれて、オークロード戦って……」

「嘘よっ! じゃあ、その指に紅く光る指輪は何!? それに、ウィルの状態が夫になっていて、そっちの人が新妻になっているもの!」

「状態って、一体アリスは何を言っているんだ!?」

「私……今まで黙っていたけど、人の状態や能力を見る事が出来るの」

「アリス? 一体何を……」

「私はこの能力を魔眼って呼んでいるんだけど……他人が持っている技能や素質が数値化されたりしていて、文字として知る事が出来るんだ。気持ち悪いよね。でも……その魔眼がね、はっきりとウィルと、その人の関係を示しているのよっ!」


 技能や素質を文字で知る……って、デバッグコマンドのステータスと同じ!?

 アリスの固有スキルなのか!?


『デバッグコマンド……ステータス。対象、アリス』


 急いでデバッグコマンドを使ってアリスを見てみる。


『アリス=アンリ 十二歳 女

 覚醒しかけている魔王の末裔 Lv3

 STR: 66(S)

 VIT: 66(G)

 AGI: 66(S)

 MAG:666(SSS)

 MEN: 66(S)

 DEX: 66(S)

 スキル:魔王化(SSS)、暗黒魔法(SS)、魔眼(S)』


 アリスの言う通り、確かに魔眼というステータスがあるが……それどころじゃない。

 このステータスは一体何だ!? レベル3のステータスなんかじゃないし、素質SSSなんていうのは初めて見た。

 魔王に覚醒しかけている状態で、このステータスなんだろ!?

 万が一覚醒してしまったら……ストレングス・クエストのシナリオ通り、レベル80くらいまで上げないと勝てない。

 というより、俺はそもそもアリスと戦いたくなんかない。


 先ずはアリスの誤解を解くため、俺とグレイスのステータスを確認してみると、


『ウィル=サンチェス 二十四歳 男

 公爵令嬢の夫 Lv43』


『グレイス=ベネット 十六歳 女

 新妻 Lv28 冒険者:D』


 な、何なんだこれは!? いつから、こんな状態だったんだ!?

 俺の公爵令嬢の夫という表記はバグだと思うだが、グレイスの新妻というのは何だ!?

 これじゃあアリスに誤解されても仕方が無い。


「グレイス! アリスの誤解を解きたいんだ。俺たちは夫婦じゃないよな?」

「旦那様ったら。照れ隠しですか? 旦那様からプロポーズしてくださったのに」


 そう言って、グレイスが左手の薬指にはめた戦士の指輪に触れる。

 プロポーズッ!? 違っ! それは、グレイスのステータスを上げる為のアクセサリーであって、俺は結婚を申し込んだ訳じゃないんだ!

 というか、グレイスは以前にアリスの暗黒魔法に勘づいたじゃないかっ!

 今もアリスから闇色のオーラが出まくってるのに……って、まさかグレイス。この数日間で、すっかりあの事を忘れているのか!?

 いや、グレイスがあの事を忘れるようにと、俺がアリスから距離を取らせたんだけど……グレイス! 火に油を注ぐのは止めてくれっ!


「ウソツキのウィルは嫌いっ! 正直にその人と教会を出て行くって言えば良かったのにっ!」

「アリスッ! 違うんだっ! これは誤解で……」

「ウィルのバカァァァッ!」


 アリスの小さな身体から、闇色の何かが教会を埋め尽くすほどに溢れだし……気付いた時には、アリスの姿が消えていた。

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