第39話 怒りのオークロード

「旦那様。先程の女性と、地面で何があったのですか?」


 グレイスが笑顔で尋ねてきたけれど、目が笑っていないので、若干怖い。


「な、何もないぞ? 一体何の話だ?」

「戻ってきてから、凄く嬉しそうです。ニヤけてましたが」

「そんな事は無いよ。グレイスの気のせいだってば」


 そう言って誤魔化し…….切れてないな。

 すっごいジト目で見てくる。


「とりあえず、朝まで何も出来ないし、寝るか」

「――っ! は、はいっ! じゃあ早速…….」

「って、何をしようとしているの!?」


 一先ず朝まで睡眠を取ろうと思ったのだが、毛布を被った所で、突然グレイスが俺の毛布に潜り込んで来た。


「何って、そんなの決まってるじゃないですか! 今晩は旦那様が一緒に寝てくれるって約束でしたし」


 あー、そういう事か。今、思い出したけど、グレイスは毛布を敷かないと眠れないんだっけ。

 だから、俺の毛布に潜り込んで……


「おいおい。助けに来てくれたのは嬉しいんだが、流石にそういう事は街でやってくれないか?」

「そうそう。羨ましいじゃないか。私も混ぜてくれるなら構わないけどねー」

「わ、私、そういうのは初めて何ですけど、混ぜて貰っても良いですか?」


 グレイスの言葉を聞いて、他の金髪女性たちが変な勘違いをしたらしく、数名がゆっくりと近付いてきた。

 というか、二十歳くらいの女性にこんなお誘いを受けるのは嬉しいのだが、流石に場所が場所だし、グレイスをからかっているだけだろう。


「うぅぅ……ダメっ! 旦那様に触れて良いのは、私だけなのっ!」

「はいはい。じゃあ、こんな場所じゃなくて、街に戻ってから思う存分やってくれ」

「わ、私は混ぜてくれるなら、ここででも良いけど……」


 一人笑えない冗談を続けている人が居るけど(冗談だよな?)、からかわれたのが嫌だったのか、グレイスが不機嫌そうにしながら、俺の毛布から出る。

 全く。グレイスは、ただ一枚の毛布で眠れないっていうだけなのに、周りが変にからかうから……。

 拗ねたグレイスに近付き、俺の毛布をかけてやると、


「……だ、旦那様ぁー」

「グレイス。おやすみ」

「うぅぅぅ……」


 何やら凄く悔しそうにしながらも、グレイスが俺にくっつき……そのまま二人で就寝する。


 それから何事も無く朝を迎え、周囲が明るくなった所で、


「――ッ! だ、旦那様っ!」

「あぁ、まさかオークロード自ら来るとはな」


 木の下に、オーク・ジェネラルを複数従えた、更に大きなオーク……オークロードが居た。

 てっきり、オークロードのいる所まで、ぞろぞろ歩いて行くものだと思っていたのだが。


「じゃあ行ってくる」

「え? 私は一緒に連れて行ってくださらないのですか?」

「んー、はっきり言って、オークロードってさ、筋力と生命力だけしか取り柄がやいから、戦っても楽しくないぞ?」

「構わないですよ。私は旦那様の側に居られれば良いですし」

「分かった。じゃあ、一緒に行こう。スピードは遅いけど、攻撃力は高いから、ちゃんと盾を使うんだぞ」


 オークロードと、その取り巻きを一人で倒すつもりだったが、グレイスが希望するので、連れて行く事に。

 相変わらずの敏捷性極振りステータスなので、そのままグレイスを抱きかかえ、昨晩の良い物を見せてくれた――もとい、お花を摘みに行った女性と同様に地面へ降りる。


「ナンダ!? オマエタチ、ドコカラアラワレタ!」

「マテ。キンパツ、チビ、メス、アカイホウセキ……コイツダ!」

「おう……コノメスガ、レイノ……」


 何だ? オーク・ジェネラルたちがグレイスを見て驚いているが、金髪でチ……小柄で、女の子。赤い宝石を身に着けている……と言われれば、確かにグレイスの事だな。オークロードはグレイスを探していたのか?

 子作りがどうとか言っていたし、グレイスはオークにモテモテって事なのか?

 そんな事を考えていると、オークロードが顔を真っ赤に染めて口を開く。


「キサマガ、ワガドウホウヲ……タダデハコロサヌ! ナブリゴロシダ!」


 ん? 我が同胞? 嬲り殺し?

 あれ? モテモテグレイス伝説の始まりじゃないのか?

 オークロードの言葉を不思議に思っていると、唐突にオークロードが手にした巨大な棍で、すぐ側の木を殴る。

 筋力と生命力だけが自慢の豚――オークロードの一撃で、大きな木が簡単に倒れ始め……って、この木には、囚われていた女性たちの檻がぶら下がっているんだぞ!?


「きゃぁぁぁっ!」


 上の方から、女性たちの悲鳴が響く。

 この豚頭っ! なんて事しやがるんだっ!


「グレイス! 少しだけ耐えてくれっ! すぐに戻るっ!」

「だ、旦那様っ!?」


 グレイスに防御魔法をかけると、全速力で檻が落ちて来そうな場所へと走る。

 落下予測位置まだ来ると、大急ぎでデバッグコマンドを使い、魔力極振りにステータスを変え、


「精霊魔法――ディグ!」


 一度の魔法で二十五メートルプールくらいの広さで、深さが十メートルくらいの大きな穴を開ける。

 続いて、またもやデバッグコマンドを使い、十個くらい生み出したアイテム――水龍石に魔力を込め、一気に投げ込む。

 轟音と共に水が溢れ出すと、その直後に水の張ったプールへ檻が落下してきた。

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