第38話 デバッグコマンド
「君は……もしかして、オークロードに攫われた女の子!?」
「そうだよ。って、その声……もしかして、男が捕まったのか?」
「俺は男だが、捕まった訳じゃない。ここに居るグレイスと共に、オークロードを倒しに来たんだ」
意志の強そうな二十歳くらいの女性にそう告げると、
「男っ!? 助けに来てくれたのっ!?」
「えっ!? 捕まった誰かが錯乱しているだけじゃなかったんだ!」
「お願い、助けてっ! 私、まだ死にたくないっ!」
突然周囲から女性の声が複数聞こえて来た。
話を聞いてみると、捕まった女性の中に、この状況が受け入れられず、狂ったようにブツブツ呟いている人が居たそうで、グレイスの叫びもその人だと思われていたようだ。
そして、その呟いていた人が、
「お願いっ! ねぇ、助けてよっ! ここへ自ら来たって事は、高ランクの冒険者なんでしょっ!? ねぇ、お願いっ! お願いだからっ!」
「ちょ、ちょっとアンタ……私に言っても仕方ないだろ。声からして、助けに来てくれた人は向こうでしょ」
全然関係の無い別の金髪女性に掴みかかっていた。
あー、俺とグレイスは視界が確保出来ているけれど、ここに居る女性たちは暗闇の中で何も見えてないのか。
「一先ず、ここに居る全員を必ず助けると約束しよう。だが、今は無理だ。明日の朝、オークロードを倒すまで待ってくれ」
「えぇっ!? だ、旦那様っ!? こ、今晩は宿で……」
「いや、この状況だと無理だろ。俺とグレイスだけなら街まで戻れ無い事もないが、他の女性たちを連れて帰るのは無理だ」
「えぇぇぇーっ! そ、そんなぁーっ!」
デバッグコマンドのテレポートで、俺以外の人間も一緒に連れて行く事が出来るのであれば、今すぐ街へ戻してあげたい所だが、残念ながら他の人と一緒に移動出来るかが分からない。
試してみても良いのだが、成功したらしたで言い訳が大変だし、失敗して俺だけが移動してしまったとしても、結局どうやったのかと質問責めにされる事が目に見えている。
なので、ここに居る女性たちに対して俺が出来る事は、
「皆。空腹や喉の渇きはないか? 食料や飲み物、毛布くらいなら大量に持って来ているんだが」
「旦那様? そんなの持って来ましたっけ?」
「あぁ。こういう事態を想定していてな。この木の下に置いてあるから、希望があれば取ってくる。グレイスも、お腹は空いていないか?」
「……お、お腹は減ってます」
「わかった。他にも食事などが欲しい人は……って、全員か。ちょっとだけ待って居てくれ」
一先ず、鞄の中から取りだす振りをしてデバッグコマンドを使い、十数人になんちゃってサンドイッチを配る。
このまま飲み物を渡しても良いんだけど、流石にこの鞄から大量の荷物が出てくると不自然なので、一旦檻を出ると、五階建てのマンションくらいの高さから、木の枝を使って数秒で地面へ。
既にグレイスを運んだオーク・ジェネラルは居ないので、朝になったら戻ってくるのだろう。
「じゃあ、デバッグコマンド……アイテム生成。対象、毛布……っと」
二十枚くらいの毛布を作ると、それを手にして再び檻へ。
「次は毛布と、あと飲み物だ。ちゃんと全員分あるから安心して欲しい。これ以外で何か欲しい物がある者は言ってくれ」
周囲を見渡すと、かなり顔色の悪い女性が近づいて来た。
「……あ、あの。じ、実は……」
「どうしたんだ? 一通り必要そうな物は持って来ているぞ。薬などもあるから、必要ならば……」
「そ、そうじゃなくて……え、えっと……お、お手洗いに行きたくて……」
……俺に一体どうしろと。
「か、紙ならあるが……」
あ、凄く残念な顔をされてしまった。どうやらトイレットペーパーとかじゃないらしい。
「か、紙は紙で有り難いんですけど、そうじゃなくて、その……出来れば私を地上に……」
「……し、仕方ないな。だが、先に言っておくが、夜で見えていないだろうが、ここは皆が思っている以上に高い場所だ。地上に着くまで、決して暴れないようにな」
「は、はい! しがみ付いてます」
グレイスよりも少しだけ年上に見える少女を抱きかかえると、先程と同じ様に地上へ降りる。
少女を地面に降ろした所で、ふと思う。
今なら、デバッグコマンドのテレポートのテストが出来るな。
『デバッグコマンド……テレポート。設定、スッチーオの街』
少女に触れたままデバッグコマンドを使ってみたが、少女はおらず、俺一人で街の入口に立って居た。
「残念。ダメか」
一先ず少女の自尊心を傷つけないため、五分くらい待ってから再びデバッグコマンドで檻の下へ戻ると、
「ど、どこですかー!? どこへ行ったんですかー!? 冒険者さーんっ!」
青い顔の少女が、キョロキョロしながら俺を探していた。
「すまない。その、用を足している所を見てはいけないと思って離れていたんだ」
「な、何を言っているんですか!? 夜の森ですよ!? 魔物がわんさか居るんですよ!? こんな場所で離れないでくださいよっ! というか、傍に居てくださいっ!」
そう言って、少女が俺の手を掴み、空いている手で下着を下げていく。
「え? ま、まだしてなかったの!?」
「だから、こんな場所で一人で出来る訳ないじゃないですかっ! この体勢で後ろから魔物が出て来たら即死でしょっ! それに、いくら視界確保の魔法を使っていたとしても、この暗さじゃハッキリ見えないから構いません」
いや、俺は視界確保の魔法じゃなくてデバッグコマンドを使っているから、夜でも昼間と同じくらいハッキリくっきり見える訳で……あぁぁぁっ! み、見ちゃダメ……見ちゃダメなんだけど……
「すみません。ありがとうございました」
「あ、いえ。こちらこそ、ありがとうございます」
「はい?」
少女を檻へ戻したら、何故かグレイスにジト目で見られてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます