第11話 新米冒険者救助クエスト
「ジェシカ。ちょっとだけ良いか?」
冒険者ギルドの職員が帰った後、ジェシカにだけ事情を説明し、余裕を持って二日程教会を留守にする事を伝えた。
というのも、俺がダンジョンへ行くという行為が、アリスに変な影響を与えないようにするためだ。
何で魔王化するかが分からないので、昨日の買い物についても、盗賊を倒したと言う事は子供たちの居ない場所でしか店主に話しておらず、子供たちには英雄時代に貯めていたお金があった事を思い出した……と、説明している。
なので、
「じゃあ、皆。俺は牧師の研修に行ってくるから」
子供たちには冒険者ギルドの事を話さず、研修に参加するように呼ばれたと言っておいた。
それから、街を出て朝に貰った地図に従って一時間程歩く。
暫くすると、緩やかな下り坂があり、その下にちょっとした隙間があった。
「ふむ。この新米冒険者が向かった高難易度ダンジョンっていうのは……ここか」
高難度ダンジョンと言っても、ゲームを始めて最初の街の近くにある洞窟だ。
おそらく、この街のギルドからすると高難度だが、ゲーム全体からすると大した事が無いというパターンだろう。
一先ず、デバッグコマンドで視界を確保して、自身に防御魔法を掛ける。
俺のステータスからすれば、こんな所で怪我をしたりする事もないと思うが、備えておくに越したことはない。
隙間の中へ入ると、最初は狭かったが、中は裕に大人が数人並んで歩けるだけの広さがある。
「デバッグコマンド……アイテム生成。対象、真銀の短剣」
狭い場所なので、昨日使った長い剣ではなく、今日は短剣を生成して進んで行くと……居た。
このゲームにおける序盤のモンスターの代表格、ゴブリンだ。
違うゲームでは残虐で、女性に十八禁な事をするモンスターでもあるが、ストレングス・クエストでは基本的に雑魚だ。
まぁ上位種のゴブリンは罠を設置したり、毒を使ったりもするけど、少なくとも目の前に居る奴は普通のゴブリンなので、
「とぉっ」
その辺に落ちていた石を思いっきり投げつけると……あ、一撃で倒せた。
おそらく、こちらが何も照明を持っていないので、見つかっていると思っていなかったのだろう。
その後も、時々現れるゴブリンを投石や短剣で倒して行く。
すると、通路の先に大きな穴が空いていて、その縁に手が掛かっている。
これはもしや、冒険者ギルドの言う要救助者だろうか。
「おい、大丈夫か!?」
「だ、誰か居るのか!? すまない。手を貸して貰えると助かる」
穴の縁にぶら下がっていたのは、金髪碧眼で高校生くらいの少女……おそらく、新米冒険者だという貴族の娘だろう。
俺のステータスが高いのと、少女が小柄だからか、片手でひょいっと引っ張り上げる事が出来た。
「あ、ありがとう」
「いや、気にするな。それより、あんたが……」
って、名前はなんだっけ? もらった資料を流し読みしかしていなかったから、助ける冒険者の名前をド忘れしたな。
「私は、グレイスだ。助けてくれた事に感謝する」
「あ、そうか。そうそう、グレイス……君は冒険者ギルドから救助依頼が出ている。さぁ帰ろう」
「む……依頼という事は、貴方も冒険者か」
「いや、俺は冒険者ではないが、ギルドから頼まれたんだ」
「冒険者じゃない? ……いや、別に冒険者でなくても良いのだが、先程軽々と私を引き上げた所を見ると、かなりレベルが高いのだろう。ならば、手伝ってはくれぬだろうか」
「手伝う? 何を?」
「この洞窟はゴブリンの巣だが、まだゴブリンを全滅させられていない。放っておけば繁殖して増え、近隣の村や街を襲うだろう。放っておくわけにはいかないのだ!」
言いたい事は分からないでもないが、洞窟内に居る全てのゴブリンを倒すつもりなのか?
いや、実力が伴っていて、自分一人で実現可能なのであれば、勝手にやってくれれば構わないのだが、おそらく大したレベルじゃないんだろ?
『デバッグコマンド……ステータス。対象、グレイス』
こっそりデバッグコマンドでステータスを覗いてみる。
『グレイス=ベネット 十六歳 女
公爵令嬢 Lv7 冒険者:F
STR: 68(E)
VIT:122(A)
AGI: 93(C)
MAG: 85(B)
MEN:131(A)
DEX: 38(F)
スキル:耐闇属性(S)、神聖魔法(C)、剣技(F)』
……ん? グレイス=ベネットって名前に、無謀なまでの正義感。VIT型のステータスと、神聖魔法が使える……って、ゲーム後半で強力な壁役となる聖騎士のグレイスじゃないか!
グレイスが仲間になってからは、モンスターをグレイスに引きつけてもらい、その間に各個撃破したり、耐久力の高いグレイスごと範囲魔法でモンスターの群れを吹き飛ばしたり出来る。
要はモンスターが群れで登場するようになる後半からは、とても役に立つ仲間なのだが、そのグレイスが新米の頃……しかも聖騎士となる前に会う事が出来るとは。
とはいえ、魔王が居ないので、一緒に冒険をする事もないだろうが。
しかし、そんな事を考えているうちに、グレイスが何かに気付いたらしく、
「あ! あっちにゴブリンの気配がするわっ! 行きましょうっ!」
走り出そうとする。
「待った!」
「嫌よ! 貴方もパパみたいに、女の子が冒険者になるのを反対するんでしょ? 助けてくれた事には感謝するけれど、それとこれとは……」
「そうじゃないっ! というか前っ!」
「え!? ……た、助けてぇー」
さっき助けたばかりの穴へ、自ら落ちて行き、再び縁に捕まっているグレイスを引っ張り上げる事となった。
……知らなかったが、どうやら騎士になる前のグレイスはポンコツのようだ。
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