第19話 板挟み
「ウィルー! この魔法を使う時のコツを教えてー!」
「ウィルさん。お洗濯は、こんな感じで大丈夫でしょうか」
今まで子供らしく元気よく遊んでいて、魔法の修行なんて一度もしていなかったアリスが突然魔法の練習を始めた。
その一方で、公爵令嬢のグレイスが、今まで一度もやった事がないであろう洗濯に挑戦している。
二人とも、それぞれ自分を磨こうとする事は良い。
だけど、どうして二人とも俺に意見を求めてくるのだろうか。
アリスは、まだ分からなくもない。一応、俺が魔法の師匠という設定だからな。
ただ俺自身は、魔法名を口にするだけで魔法が使えてしまうので、コツも何もないんだけどな。
「アリス……そうだな。今使おうとしているのは土の精霊魔法だから、慣れるまでは実際に土を触りながらやってみると良いだろう」
「そっかー。わかったー! ウィル、ありがとー!」
すまんアリス。今のは口からの出まかせだ。
魔法の無い世界から来た俺には、魔法の使い方のコツなんて分からんよ。
「あー、グレイス。洗濯物を干す時は、シワを伸ばすっていうか……いや、分からないよな。ちょっと貸してくれ」
「お願いします」
「こうして、軽く振りさばいて生地を伸ばしてから干すと良いよ」
「……こんな感じですか?」
「そこは、もう少し……そうそう。軽く叩いたりしても良いかな。あと洗濯物と洗濯物の間隔ももう少し広げようか」
公爵令嬢にこんな事をやらせて大丈夫なのだろうかと、若干心配になるけれど、本人がやると言っているのだから、きっと大丈夫だろう。
それに、剣を振るよりかは、こっちの方が良い気もするし……って、あれ? 魔法の練習をしているハズのアリスが、ジト目で俺を見てくる。
一体、どうしたのだろうか。
「どうしたんだ、アリス。何か上手くいかないのか?」
「……べっつにー。何でも無いもん」
「いや、そうは思えなかったから聞いているんだが」
「……ふーんだ。ウィルは、そっちの女の人みたいなのが好きなんでしょ!? ずっと付きっきりで教えてあげればいーじゃない」
「おいおい、アリス。本当にどうしたんだ?」
何故だ!? グレイスには悪いが、俺としては公爵令嬢と魔王化の可能性があるアリスであれば、当然アリスを優先する……というか、しているつもりだ。
アリスが強いショックを受けたら魔王になってしまって、この世界が急変してしまう訳だし、極力優先しなければならない。
もしかして、俺の魔法の教え方が悪かったとかか?
でも、本当に魔法の使い方なんて分からないんだってば。
不機嫌そうなアリスと、さっきまではニコニコしていたのに、今は頬を膨らませているグレイス。
どうして二人とも機嫌が悪くなってしまったのかと考えていると、
「ウィルさん……ちょっと」
突然ジェシカに呼ばれた。
「ジェシカ、どうかしたのか?」
「どうかしたのか……って、それはこっちの台詞ですよー。ウィルさん、グレイスさんが美人なのは分かりますけど、もう少しアリスにも構ってあげてくださいな」
「え!? いや、俺はむしろアリスに気を掛けているつもりなんだが」
「そうは見えませんでしたよ? アリスには、ちょっと口頭でアドバイスしただけなのに、グレイスさんには自らやってみせて、途中手を握って説明していたじゃないですかー」
「いや、あれは実際に自分でやってもらった方が感覚がつかめるだろうと思ったからなんだが」
「でしたら、同じ事をアリスにもしてあげてくださいな。十二歳の女の子って、色々と敏感で、気難しい年頃なんですよ」
いや、そう言われてもさ。
洗濯なんて、日本で何度もやっていたから分かるけど、魔法は本当に分からないんだってば。
「じゃあ、よろしくお願いしますねっ」
思わず頭を抱えてしまいそうになった所で、ジェシカがウインクして去って行った。
で、出来ればこの状況を助けて欲しかったのだが、援軍は居ないらしい。
とりあえず、グレイスの機嫌は後回しにして、とにかくアリスだ。
魔王化は絶対に避ける!
そのためには、ジェシカのアドバイス通りやるしかない。
一先ず、何事も無かったかのように堂々と二人の許へ戻ると、そのままアリスの手を取る。
「よし、アリス。今度は俺と一緒にやってみようか」
「え? ウィル? あ、あの人は良いの?」
「大丈夫だ。さっきコツは教えてきた。アリスの魔法の方が、じっくり教えるべきだと思ったから、先に済ませてきたんだよ。さぁ、これからマンツーマンで、みっちりやるぞ」
「はーいっ!」
アリスの手を握りながら一緒に魔法を使っていると、アリスがどんどん笑顔になっていく。
一方で、アリスからは見えないが、俺からは見えるグレイスの顔がどんどん険しくなっていくんだが。
……ちょっと待って。
何これ。俺、辛過ぎない!?
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