第6話 初めての戦闘
「デバッグコマンド……視界確保。設定、オン」
「神聖魔法――プロテクション」
デバッグコマンドを使って夜でも視界が見えるようにし、念のためにレベル10まで上げた防御魔法を掛けて教会の入口に向かうと、雨の中に五人の男の姿があった。
アイテムインベントリの中にある懐中時計は、午後七時を示している。
普段なら夕食を終えていて、本来ならアリスのパーティが始まるくらいの時間だ。
「……やれ」
一番後ろに居る、おそらく盗賊の頭だと思われる奴が指示を出し、前の四人が教会の扉を開けようとして、
「――ッ!? ……ぐはっ!」
その姿が一瞬で消えると、苦しそうな声が聞こえてきた。
ふっふっふ。アリスの誕生日パーティが始まる前に、俺が仕掛けた落とし穴へ四人が見事に落ちたようだ。
狙い通りに罠が決まると痛快だな。
「なっ!? 何が起こった!?」
「そこまでだ。抵抗しなければ、命は助けてやるから投降しろ」
一方で、突然部下たちの姿が消えたからか、一人残った盗賊が驚きの声をあげた所で、追い打ちを掛けるようにして声を掛けてみた。
出来れば、これで投降してくれるのが一番ありがたいのだが、
「その声……そうか。ここだったのか。元英雄ウィルが居る教会ってのは」
盗賊が静かに腰を落とす。
しかし、声だけでウィルの事が分かるだなんて、元英雄は随分と有名人らしい。
だったら、降伏してくれとも思うのだが、こっそりベルトに挿している短剣へ手を伸ばしている辺り、戦う気満々のようだ。
一応デバッグコマンドでステータスを見てみると、目の前の男はレベル8で能力も人並み。
スキルも戦闘寄りではなく盗賊寄りなので、ウィルのステータスの高さでごり押しすれば、戦闘が素人の俺でも何とかなるだろう。
流石に一対五だと、どうしようも無かったが、一対一なら勝てるはずだ!
……とはいえ、初めての戦闘になるので、アリスのプレゼントを選んでいた時に生成しまくった、防御効果のあるアクセサリをアイテムインベントリから取り出し、片っ端から装備していく。
ただ剣と盾は、勇者専用装備みたいに使えないと困るので、無難に中盤の定番装備、真銀の剣と盾を作って装備しておいた。
明るい場所で見られたら、物凄く趣味の悪い成り金野郎みたいになっているだろうが、そこは見た目よりも安全第一だ。
「へっ……国を救った悪魔殺しの英雄様には感謝してるが、それはそれ、これはこれだ。アンタ、悪魔を倒した時の呪いで死に掛けているだろ? そんな死に損ないに、やられるかよっ!」
え、呪いで死にかけていたの?
……いや、おそらく、そういう設定って事か。
ウィルのVITを極端に少なくして、瀕死のダメージを負わせ、アリスを魔王に覚醒するためか。
だが、アイツの作ったシナリオ通りにさせてたまるかっ!
手にした剣と盾を構えると、盗賊が短剣を振りかぶって迫ってくる。
ウィルのステータスが高いからか、それともゲームの世界だからか、短剣を持った相手を前にしても恐怖を感じない。
それどころか、動きがゆっくりに見えて、絶対に勝てると思えてしまう。
「死にさらせぇっ!」
「ふんっ!」
相手の短剣を盾で防ぐと、すぐさま手にした剣で、相手の短剣を狙って弾き飛ばす。
そのまま動きを止める事無く、刃を相手の首筋に突き付け、
「動くな」
出来た!
よく漫画やアニメで見る奴だ。
我ながら上出来だと思っていると、庭の方から、
「ウィル……さん?」
ジェシカの声が届いた。
その声に反応して俺が一瞬目を離した隙に、盗賊が逃げ出そうとしたので、
「精霊魔法――ディグ!」
その足元に直径二メートル、深さ三メートル程の穴を掘る。
「――クッ! ふざけやがってっ!」
落ちた盗賊が何か言っているが、全て無視してジェシカの元へと向かうと、
「驚かせて、すまない。怪我は無いか?」
「ウィルさん! わ、私は大丈夫ですっ! それより、さっきの人は?」
「あぁ、盗賊みたいだ。全部で五人居るから、何か縛るものは無いか?」
「それなら……私、急いで騎士様を呼んできますっ!」
「あ、ジェシカっ!」
慌ててジェシカが走り出してしまった。
既に雨は止めているが、それでも真っ暗な中を女の子が一人で出掛けるのはどうかと思い、その後ろ姿を追いかけようとして……俺は足を止める。
「そこに居るのは誰だっ! 出てこいっ!」
「おや。気付かれてしまいました。なかなか鋭いですね」
ジェシカが出て行った教会の門のすぐ傍に、ひっそりと佇んでいた銀髪の男が姿を現す。
と言っても、俺がデバッグコマンドを使って、向こうの姿がハッキリ見えているとは思っていないかもしれないが……って、ちょっと待て!
「どうして、お前がこんな所に居るんだ!?」
隠れていたのはレイモンという名の魔王の部下で、七魔将と呼ばれるゲーム後半に出てくるボスの内の一体だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます