第17話 依頼達成

「……はふ。おはよう。ウィル」

「……あぁ、おはようグレイス」


 翌朝。

 グレイスが目を覚まし、何事も無かったかのように毛布から出る。

 まぁ事案になるような事もなく、ただ同じ毛布で仮眠を取っただけなので、実際何も無かった訳だが。


「そっちの水で顔を洗うといい。あと、朝食はパンしかないが、我慢してくれ」

「ありがと。というか、朝食まであるの!? ウィルは本当に凄く準備が良いのね。私も見習わなくっちゃ」


 まぁ実際の所、準備も何もなくて、デバッグコマンドで作り出しただけなんだけどな。

 作り出したパンを、新たに作り出した綺麗な短剣でスライスし、レタスみたいな野菜と干し肉を乗せて塩コショウを振りかけただけの、なんちゃってサンドイッチなのだが、


「凄い! 美味しいっ!」

「いや、ただのパンだぞ? 普段と違う状況だから、美味しく感じているだけじゃないか?」

「……だからなのね。うん、美味しいわっ!」


 グレイスは随分と気に入ったらしい。

 でも、いつも職場で食べているコンビニおにぎりも、ピクニックとかで山の上で食べたら凄く美味しく感じるだろ?

 そういう状態になっているだけだろうな。

 グレイスは公爵令嬢だし、こんな洞窟の前でオッサンと食べる朝食なんて初めてだろうし。


「さて、しっかり休んで食事も済ませたし、街へ帰るか」

「この毛布とかは、どうするの?」

「あぁ、俺が持つよ」


 大きな袋を作り出すと、そこへ毛布などを収納するふりをして、アイテムインベントリへ。

 いやー、こういうのって本当便利だよな。

 重い物とか、かさばる物とかを持たなくて良いし。

 それから二人で街を目指して歩き、何事も無く街へと到着する。

 モンスターなども一切現れず、退屈過ぎるからか、グレイスが異様に話しかけてくるくらい平穏な道のりだった。


「グレイス。申し訳ないんだが、家へ帰る前に、冒険者ギルドにだけ寄らせてくれないか? 依頼の報告をしなければならないんだ」

「もちろん大丈夫よ。ウィルの行く所へ着いて行くわ」


 了承を得たので、グレイスを連れて冒険者ギルドへ行くと、


「いらっしゃいま……ウィルさんっ! それにグレイスさんっ!」

「な、何だとっ!? グレイス……グレイスッ!」


 昨日教会へ来た冒険者ギルドの職員のお姉さんと、身なりの良いオッサンがこっちに向かって走ってくる!


「おぉぉ……グレイス。無事だったか。本当に良かった」

「お父様。心配をお掛けしてしまい、申し訳ありません」

「……ん? あ、あぁ。何にせよ、無事だったんだな」


 あー、なるほど。グレイスの父親……つまり貴族の偉い人か。

 まぁ娘の事が心配になるよな。

 とりあえず、親子水入らずの状態にしてやろうか。


「すみません。では、俺はギルドの手続きがあるので」

「あぁ、御苦労であった。報酬などは、既にギルドへ払ってある。娘の事は、恩に着る」

「いえ、グレイスお嬢様の為に、当然の事をしたまでです」


 貴族と話す時の礼儀や作法なんて知らないで、それらしい事を言ってその場を去り、奥の受付カウンターで職員さんと報酬を受け取る。

 流石は貴族だ。十枚もの金貨――約百万円相当を貰ってしまった。

 それから冒険者ランクがどうこうと言われたが、興味が無いので断り、教会へ帰ろうと席を立ったのだが……何故かグレイスとお父さんがまだギルドの入口に残っている。

 何やらお父さんが怒っているが、俺には関係ないので脇を通って出て行こうとすると、


「ウィル! ギルドの手続きは終わったのよね。じゃあ、次の冒険へ行きましょう!」


 一体何を考えているのか、グレイスがお父さんの目の前で俺に抱きついて来た。


「ど……どういう事か説明してもらえるのだろうな?」


 あの、グレイスさん。お父さんが、めちゃくちゃ俺を睨んでるんだけど。

 というか、俺も説明を聞きたいんだが。


「お父様。ウィルさんは洞窟で何度も私を助けてくれたのですが、戦闘はもちろん、冒険者としても行動は超一流。その上、剣を振るってモンスターと戦う私を一人の少女として扱ってくれるのです。そのため、これ以上は無い師だと思い、行動を共にしようと思ったのです」

「そ、それは、一人で高難度のダンジョンへ行くような者だ。一流であろう。だが、所詮は冒険者。グレイスと行動を共にする資格があるとは思えん」


 えーっと、俺が報酬の手続きをしている間に、何があったのかを教えて欲しいんだが。

 とりあえず、グレイスが俺と冒険に行きたいって言って、それをお父さんが止めてる感じか?

 まぁ仮に俺が親だとしても、娘が見ず知らずの男と一緒に冒険へ行くなんて行ったら止めるだろうな。

 だが、何でも良いけど、俺を巻き込むのは勘弁してもらえないだろうか。

 そんな事を考えていると、


「お待ちください。ベネット公爵様。グレイス様を救助されたその方は、悪魔殺しの英雄ウィル=サンチェス様です。教会と孤児院を運営されている、立派な方なのです」


 どこからともなく冒険者ギルドのお姉さんが現れ、余計な事を言う。

 今はその情報って要らないよな? だって俺、関係ないんだけど。


「むぅ。この者が……いや、この青年が、あの悪魔殺しの英雄だったのか。なるほど。それで、グレイスの言葉使いがこんなにも女らしく……」

「お、お父様っ! 何を仰っているんですか! わ、私は普段から、このような話し方ですっ!」

「ウィル殿。娘を……大切な私の娘を、よろしく頼みます」


 え? ちょ、ちょっと待って。マジでどういう話になってんの!?

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