第9話 所持金無限増殖
「あの、本当によろしいのですか?」
「もちろん。とりあえず、子供たちの衣類を増やすだろ。それから食料だな。少しずつで良いから量を増やすとか、質を上げるとか出来ないかな?」
昨日知った、孤児院の子供たちが着る服が二着しかなく、その服さえもボロボロだったり、サイズが合っていなかったりするので、何とかしてあげたい。
それと、食事もパンや野菜のスープだけではなく、何かしらのたんぱく質が欲しい。
……個人的には調味料が欲しいので、それくらいは後で買った事にして生成しておこうか。
「では、早速布を買いに行きましょう! 裁縫は得意ではないですが、私、頑張りますから!」
って、ジェシカが自ら縫うのか。
ジェシカは器用さのステータスが低いから、ちょっと怖い気がする。
「待ってくれ。服は俺が子供たちを連れて既製品を買ってくるから、ジェシカは食材を頼む」
「なるほど。既製品という事は、中古の服という事ですね。一人一人採寸して生地から作るより、早くて安いですもんね。では、すみませんがお願いいたしますね」
そう言って、ジェシカが五枚の金貨――五十万円相当を渡してきた。
いやいや、いくら子供たち全員の分と言っても、リサイクルショップの服なんだろ? 一枚でも十分だと思うが……いや、この際だから、他にも気になっていた事があるから、残りのお金をそっちに使った事にしよう。
……実質、所持金は無限なのにもどかしいな。
それからアリスに街を案内してもらいながら、子供たちを連れて中古服の店へ。
値段を気にせず、全員上下二セットずつ好きに選んで良いと告げると、女の子たちが我先にと嬉しそうに物色し始めた。
「ウィルさん……貴方が国の英雄だという事は知っていますし、孤児院で子供たちの面倒を見ている事も知っています。同じ街に住む者として非常に感謝していますし、尊敬もしていますが、その……お金は大丈夫なのでしょうか? 申し訳ないのですが、こちらも商売なので」
「はっはっは。それなら心配するな。昨晩、教会に盗賊団がやってきて返り討にしたんだが、実はその中に賞金首がいてな」
「なんと! 流石は悪魔殺しのウィルさんですねっ! そういう事なら了解しました! これだけの人数で買ってくださるなら、割引もしますんで、好きなだけ見ていってください!」
店内ではしゃぎまわる子供たちを見て、店主が困惑していたが、一先ず丸く収める事が出来た。
後は、子供たちが服を選び終えるのを待つだけなのだが、
「ウィルさん。えらびおわったー!」
「早いな。もう良いのか?」
「うん! ねぇ、先に戻っていても良い? 退屈なんだけど」
男の子たちは服にさほど興味がないらしく、サイズが合う物を適当に選び終えていた。
一方で、
「ねぇ、ウィルーッ! こっちの青いスカートと、黒いスカート……どっちが似合うかなー?」
「うぅ……このおようふくもカワイイ。けど、こっちもカワイイ。えらべないよー!」
「うぃるー! おきがえー!」
女の子は大変だなっ!
アリスは適当に言って変な事になっても困るので、ファッションセンス皆無の俺なりに考えた結果、青いスカートを推す。
他の女の子たちには、迷っていれば適当に片方を選び、エミリーを始めとする、一人で着替えられない女の子と一緒に試着室へ入り、その着替えを手伝う。
男の子たちが店の入口に固まり、女の子の服選びをただひたすら待つという、とにかく退屈な時間を過ごした結果、ようやく支払いを済ませる事が出来た。
……俺もエミリーたちを着替えさせる以外、特にする事がなかったが。
「ウィル……ありがとっ!」
「いや、良いんだよ。それより、本当はもうちょっと良い暮らしをさせてあげたいんだけどな」
「ううん。だって、身寄りのない私たちをこうして育ててくれているんだもん。それだけで、十分にありがたいよ」
アリスから礼を言われ、改めて魔王ではない事に安堵し、子供たちと教会へと戻る。
食材を買い出しに行っていたジェシカも戻っていたので、子供たちをジェシカに任せると、ふと思いついた事があり、街の人たちに道を聞きながらマジックショップへ。
「……ウィルさん。その規模の物だと、金貨二十枚くらいになっちゃいますよ?」
「大丈夫だ。現金で今払おう。昨日、教会を襲った盗賊団を返り討にして得た賞金を、全てこれにつぎ込むよ」
「そ、それほどまでに孤児たちの事を……ウィルさん、流石ですっ! 最高の仕事をしてみせますよっ!」
デバッグコマンドで金貨を生み出し、教会を狙うと返り討にされるという噂を街に広げつつ、設備を整える。
一石二鳥な作戦だと思いながら、暫く街で買い物をした翌日、
「御注文のマジックアイテムをお届に参りましたー!」
「ご依頼いただいた壁の修繕に参りました」
「昨日ご購入いただいた品物でーす!」
……ちょっと、やり過ぎてしまったかもしれない。
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