第2章 オッサンは何が何でもゲームシナリオを捻じ曲げる

第8話 お金を出すチャンス

 七魔将レイモンとの戦いから一夜明け、教会の一室、孤児院の食堂として使っている部屋へ行くと、


「ウィルー! おっはよーっ!」


 魔王の力を秘めたアリスが、元気よく挨拶してきた。

 その近くには、勇者となるはずだったリアムも居て、皆で質素な朝食を食べている。

 よしっ! やった! 俺は間違いなくアリスの魔王化を防いだんだ!

 アイツの作ったシナリオ通りにはならず、俺は平和な世界で過ごすんだっ!


「おはよう、アリス。そして、おはよう皆っ!」

「ん? どうしたの? 何だか、今日のウィルはテンション高めだねー」

「はっはっは。俺はいつもこんな感じだよ。気にするな」

「そ、そう? まぁ別に良いけどね」


 アリスが不思議そうに俺の顔を覗きこんできたが、言葉通り気にした様子もなく、再びパンを食べ始めた。

 俺も硬くて薄いパンを食べていると、


「ウィルさん。すみません、ちょっと宜しいですか」


 ジェシカが部屋の入口から手招きしてきた。


「ジェシカ、どうしたんだ?」

「あの、昨日の盗賊団の件で、ウィルさんに駐在所へ来て欲しいと、兵士の方がお見えになられてます」

「あ、そうなんですね。じゃあ、急いで食事を済ませて行きますね」


 宣言通り急いでパンを食べ始めると、


「あれ? そんなに急いで、どこかへ行くの?」

「あぁ、ちょっとね。けど、すぐに帰ってくると思うよ」

「そっかー! じゃあ、今日は日課のお勉強しなくても良いよねー!」


 アリスが嬉しそうに声をあげる。

 まぁまだ十二歳になったばかりだし、日本で言うと小学生だろ? 勉強よりも遊びたいよな。

 そんな事を考えていると、


「ダメだよ、アリス。勉強はちゃんとしないと」

「えぇー! リアムも一緒に遊ぼうよー」

「ダーメ。僕だって日課の剣の修業をするから、アリスもちゃんと魔法の勉強を頑張って」


 リアムがアリスをたしなめる。

 あー、勉強ってそういう勉強なのか。

 元々は、アリスは魔王になるし、リアムは勇者となるはずだったけど、アリスが魔王にならなかったから、リアムも勇者にはならないはずだ。

 ……勇者になったリアムは、訪れる先々の国から支援を受けて金に困る事はなかったけれど、そうはならなくなってしまった。

 一先ずリアムは、このまま剣の訓練をしてもらって、冒険者とかになるのが良さそうだけど、問題はアリスだ。

 魔王にならなくなって、でも仲間が怪我を負ったり、死ぬ事もある冒険者になると、ショックで魔王化してしまう可能性もある。

 とりあえず、アリスの将来をどうするかが課題だな。

 ゲームのシナリオに沿っていれば発生しなかった問題について後で考える事にして、一先ず教会の入口で待っている兵士の所へ向かう事にした。


……


「失礼します。ウィリアム=サンチェスさんをお連れいたしました」


 兵士に案内してもらい、騎士の駐在所――日本でいう交番みたいな所か?――へやって来た。

 すると、青い鎧を身に纏った大柄な男が現れ、


「ウィリアムさん。昨晩は大変でしたな」

「えっと、失礼ながら……」

「おぉ、失礼。私は第三騎士隊の副隊長マーティンです。昨晩、盗賊を捕えた件について、報奨金が出ておりましてな」

「あぁ、そういう話ですか」

「えぇ。まず盗賊の下っ端ですが、こちらは一人につき銀貨一枚が進呈されます」


 銀貨一枚というと、日本円で一万円くらいだから、盗賊四人を捕まえて四万円……って、安くないか? 日本人の感覚だからか? いやでも、そもそも日本では泥棒を捕まえても報酬なんて無いか。感謝状を貰って終わり……に比べればマシなのかも。

 それにゲームの中で考えれば、モンスターを倒しても、せいぜい一体数百円にしかならないし、一回の戦闘として考えると高額か。


「続いて、盗賊の頭……こいつがCランクの賞金首でして、金貨二枚を進呈いたします」

「ありがとうございます」


 一度のボスバトルで約二十四万円相当だから、かなり割は良い方か。

 まぁ、実際は七魔将と戦っているので、それを含めると割に合わないが。

 一先ず受け取りのサインをして、雑談――盗賊団を単独で倒すなんて流石は元英雄だとか、孤児院を運営しているのは素晴らしいとか、国が戦争準備をしているらしいとか――を聞き流して教会へと戻ると、不安そうな表情を浮かべるジェシカに出迎えられた。


「おかえりなさい。あの、ウィルさん。先程の兵士さんは何の話だったんですか?」

「ジェシカ、ただいま。さっきのは、昨日の盗賊の話だよ。そこで、盗賊を倒したからって、報奨金ももらったんだ。これで、子供たちの服や食べ物を買いに行こう」


 そう言って、もらったお金を渡そうとして、一瞬思い留まる。

 ……良く考えたら、もらったお金をバカ正直にそのまま渡す必要は無いよな。


『デバッグコマンド……アイテム生成。対象、金貨』


 急いでデバッグコマンドで金貨を増やし、ジェシカに渡す。


「え!? えぇっ!? き、金貨が二十枚もっ!?」

「うん。何でも賞金首だったらしくてさ。沢山お金をもらったから、壊れた設備とかがあれば、修理していこう」

「ウィルさん……ありがとうございますっ!」


 いきなり大金を出すと怪しまれるので、こういう機会だからと増やしたお金を渡したら、喜ぶジェシカに抱きつかれてしまった。

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