第4話 天候操作
「さっきのジェシカの話からすると、明日は朝からピクニックに出掛ける。そして、夜にはアリスの誕生日パーティが行われ、そこへ盗賊団が乱入してくるので、対策を練るのに使える時間は、実質今日だけか」
確か、盗賊団は最低でも五人は居た気がする。
しかも、元とはいえども英雄で、VIT以外は全て一般人の二倍という、ふざけたステータスのウィルに重傷を負わせる程の強さだ。
俺が頑張って三人を相手にしたとしても、残りの二人が他の子供に危害を加えると、そのショックでアリスが魔王化してしまうかもしれない。
教会を捨ててどこかへ逃げるっていうのも唐突過ぎるし、もしも今のアリスがこの教会の事を大事に思っていたら、その大切な場所を捨てるという事にショックを受けてしまうかも。
俺やアリスはもちろん、ジェシカや他の子供たちも全員無傷で、教会も守りながら、このクソイベントをやり過ごすには、どうすれば良いだろうか。
「そうだ! デバッグコマンド……アイテム生成。対象、マシンガン……は流石に無理か」
複数を攻撃出来て、かつ攻撃力の高い武器を作ろうとしてみたけれど、ストレングス・クエストに存在しない物は生み出せないらしい。
それでなくとも、剣と魔法の世界だし、中世ヨーロッパをイメージした世界観なのだから、まぁ無理だよな。
だったらゲーム内で最強武器となっている光の剣を生み出してみるか?
けど、あれは勇者の――リアムの専用装備だったはずだが……とりあえず、やってみよう。
「デバッグコマンド……アイテム生成。対象、光の剣……って、重っ! やっぱり勇者にしか装備出来ない武器だからか!? こんなの絶対振れないっての!」
生み出した剣をアイテムインベントリから出した途端、床に落としてしまった。
最強武器は諦めて、一旦アイテムインベントリへと戻す。
「よく考えたら、いくら強い剣を使った所で、相手は五人以上居るんだ。剣ではダメだから……やっぱり魔法だな」
しかし、勇者が修得する魔法は全て把握しているけれど、一時的にパーティへ入って、すぐ抜ける、イベントキャラのウィルがどんな魔法を修得するかなんて覚えていない。
デバッグコマンドでステータス画面を表示し、スキル欄にある神聖魔法(S)を何と無しに触ってみると、
『神聖魔法(S)
ヒールLv6
キュアLv3
プロテクションLv2
……』
おそらく使用可能であろう神聖魔法と、そのレベルの一覧が表示された。
しかし、神聖魔法の才能はSなのに、剣がメインのキャラだからか、それぞれの魔法のレベルはあまり高くない。
その上、牧師だからか、使える魔法は回復魔法や防御魔法といったものばかりで、攻撃系の魔法は無さそうだ。
ならば……と、今度は精霊魔法:土(B)を触ってみる。
『精霊魔法:土(B)
アース・ウォールLv3
プロウLv2
ディグLv2
……』
つ、土の精霊魔法……使えねぇ。
土の壁を生み出す魔法に、土を耕す魔法、地面に穴を掘る魔法……って、完全に畑仕事用じゃないかっ!
おそらく、教会の小さな庭に畑を作り、作物を育てているという設定のためだけに与えられたスキルなのだろう。
確かウィルは、魔王の――アリスの魔法の師匠という設定もあったハズなんだけどな。
「……ん? これは……何だ?」
何か使える魔法が無いかとスキルの一覧を眺めていると、魔法のレベル表示の横に、ステータス画面と同じ様なボタンを見つけた。
これはもしや……やっぱり! ステータスと同じで、スキルレベルの合計値は変えられないけど、その合計値に納まる範囲であれば、スキルレベルを変更出来るらしい。
なので、役に立たない土の精霊魔法の各スキルレベルを全て1にして、神聖魔法にある回復魔法――ヒールを最高レベルの10にしたり出来るという事だ。
とはいえ、誰か一人がケガをした時点で、回復して助かろうが、血は流れる。
というか、盗賊を切っても血は出るし、もしも、敵の流血ですらアリスがショックを受ける……なんて事になったら、どうしようもない。
どうしたものかと考えていると、バタバタと大勢の人数の足音が聞こえてくる。
「ウィルーッ! 雨、降ってきたー!」
「せんたくものが、ぬれちゃうよー!」
「ウィル。はやく、はやくー!」
アリスを先頭に、小学校の低学年や幼稚園児くらいの子供たちが俺の部屋へなだれ込んできた。
……こんなに沢山の小さな子供たちを全員守り切れるのか?
若干不安になりながらも、子供たちに手を引かれて教会の庭へ。
パラパラと雨が降り始める様子を見て、ふと思う。
もしかして、これもデバッグコマンドで解決出来るんじゃないか?
『デバッグコマンド……天候操作。対象、アネイスの街。設定、晴れ』
洗濯物を取り込みながら、口に出さずにデバッグコマンドを使うと、
「あ、晴れてきた! 通り雨だったのかなー?」
「よかったー! あした、きるふくがぶじー!」
「はれた、はれたー!」
教会がある街の、天候を変える事が出来てしまった。
というか、明日着る服が無事……って、子供たちは今着ている服と、干している服の二着しかないんだな。
後で服を買いに……って、そんなギリギリ過ぎる生活をしているのに、いきなり金貨で買い物とかをしたら怪しまれるかもしれないので、銀貨とか銅貨も用意しておこう。
そして、この天候操作のおかげで、明日のクソイベントを乗り切る算段がついた。
もう少しだけ確認をして、明日に備え……
「ねぇウィル! しっかり休んだみたいだし、遊ぼーっ!」
「あーっ! アリスおねーちゃんだけ、ずるいー! ボクもーっ!」
「エミリーもっ! エミリーもーっ! あそんでー!」
小学生や幼稚園児くらいの子供たちに囲まれ、相手をする事になってしまった。
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