第32話 グレイスの相談

 馬車を降りると、すぐに夕食を済ませて宿へ。

 今回はちゃんと宿が開いていたし、部屋も押さえる事が出来たので、安堵しながら教会へ。


「ただいま」

「おかえり、ウィルー!」

「ウィル、おかえりー! やったー! きょうはウィルとおふろー!」


 アリスが抱きついて来たかと思ったら、エミリーたち幼女組がてとてと走り寄って来た。

 どうやら皆、夕食を済ませ、お風呂へ入る前という状態らしい。

 ちなみに、どうしてそんなに俺と一緒にお風呂へ入りたいのか聞いてみると、他の女の子たちと一緒に入っても、遊んでくれないのだとか。

 とはいえ、俺もエミリーたちが知らない日本の歌を歌ったり、なぞなぞを出したりしているだけなんだが、まぁ楽しんでくれているのなら、良しとしよう。

 エミリーたちをお風呂に入れ、久々にアリスも入ってきて、就寝。

 早めに宿が確保出来て早い時間に戻ってこれたからか、今日は普段の教会に近い生活が出来て良かった。


「……って、いやいや、良く無いってば。元々は、子供達と一緒に遊んで、一緒にご飯を食べていたんだ。残業が多過ぎて、いつの間にか本来の生活を失った社会人二年目みたいになってるぞ」


 ……このオーク討伐が終わったら、一度グレイスを連れて教会へ戻ろう。

 そろそろアリスの魔王化の事を忘れているかもしれないし、何より俺の心が休まらない。

 いや、異世界に来てまで、働き詰めみたいな生活にならなくても良いじゃないか。

 まぁ、働き詰めというより、二重生活が原因なんだけどさ。


 翌朝。小さな決意を胸に、一先ず最後の依頼という事にして、グレイスの元へ。


「ウィルさん……昨晩、どこかへ行っていませんでした?」

「えっ!? な、なんの事だ?」

「だって昨日、相談したい事があって、ウィルさんの部屋に来たのに、扉を開けてくれなかったですし」


 マジか!? 相談って何だ!? というか、昨日俺の部屋に来てたのか。

 これは想定してなかったから、何とか誤魔化さないと。


「すまない。昨日は疲れていて、早々に眠ってしまっていたんだ。えっと、相談なら今聞くが……」

「……また気が向いたら相談します……」


 こ、これはもしや、グレイスが拗ねた!?

 グレイスの事だから、とりあえずオークと戦わせれば機嫌が直るんじゃないだろうか。


「グレイス。一先ず、オーク討伐に行こうか。困っている人も居る訳だしさ」


 ご機嫌斜めなグレイスを連れ、オークが大量に現れる平原、通称オーク平原へとやって来た。

 どういう訳か――というか、俺がここにオークが出現するように設定したからなのだが――この平原には、とにかく大量にオークが湧く。

 まぁ湧き過ぎて、オークロードというオークの王が出現する事も稀にあるが、それは不運な事故だし、そうそう起こらないだろう。


「ウィルさん、ここ……凄いですね。そこかしこに、魔物の気配があります」

「あぁ、そうだろう……って、魔物の気配!? グレイス。魔物の気配が読めるのか!?」

「えぇ。何となくですけど。この前、ウィルさんがクイーンビーを倒した後くらいからでしょうか。まだハッキリとは分からないんですけど」


 ふむ。クイーンビーを倒してレベルが上がった事で、何かのスキルを修得したか、もしくはその前兆なのか。

 デバッグコマンドでステータスを確認した時は、特にスキルは増えて居なかったが……。

 改めてステータスを確認してみると、


『グレイス=ベネット 十六歳 女

 公爵令嬢 Lv15 冒険者:E


 ……


 スキル:耐闇属性(S)、神聖魔法(C)、剣技(F)』


 うん、やっぱり変化が無い。

 あ、待てよ。俺も神聖魔法や精霊魔法としか表示されないけど、各スキルに触れると、詳細が確認出来るよな。

 グレイスのスキルの中で、最も素質のある耐闇属性(S)に触れてみると、


『耐闇属性(S)

 パッシブ:ホーリー・シールドLv8

 パッシブ:ディバイン・プロテクトLv7

 パッシブ:デモンズ・サーチLv6

 ……』


 スキルレベル高っ!

 この辺りはグレイスの素質の高さというべきだろうか。

 ちなみに、ホーリー・シールドは闇属性の物理攻撃に対する防御で、ディバイン・プロテクトは闇属性の魔法攻撃に対する防御、デモンズ・サーチは悪魔を検知するスキルだ。

 それらが、全てパッシブと表示されているので、グレイスとしては一切意識する事なく、勝手に実行されている事になる。

 つまり、悪魔が近くに居ると、それとなく気付く状態なのだが、そのデモンズ・サーチのスキルがLv6に上がった事で、悪魔系以外の魔物も、おぼろげに検知出来るようになったのだろう。


「あ、もしかしてグレイスの相談って、突然モンスターの気配が読めるようになったから、困惑してるって事か?」

「え? は、はい。そうなんです。こんな事、今まで一度も無かったのに、どういう訳か、あっちに魔物が居るって分かっちゃうんです」

「なるほど。大丈夫だ。前にも言ったが、グレイスには光の力を扱う、聖騎士になる素質がある。ゴブリン・ロードやクイーンビーを倒した事で、その才能が少しずつ開花してきたんだよ」

「そ、そうなんですか?」

「あぁ。だから、臆することなく、その感覚を信じれば良いと思うよ。その力は、きっとグレイスの強力な武器になるからさ」


 正直、もっと前からデモンズ・サーチのスキルは持って居たのだろう。

 ところが、悪魔系のモンスターはゲーム終盤には大量に出てくるけど、序盤から中盤にかけては殆ど出ないから、今まで検知する事がなく、スキルの存在に気付いて居なかっただけなんだ。


「という訳で、グレイス。その魔物の居場所が何となく分かるスキルを使って、オークを倒しまくるぞ」

「はいっ!」


 相談したかった新たなスキルの不安を取り除いてあげたからか、いつもの様子に戻ったグレイスが、剣を手にオーク平原を駆け回りだした。

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