自分が作った世界(ゲーム)に転生したので、俺だけが使える裏コマンドで無双する

向原 行人

第1章 アラサープログラマーはゲームの世界へ転生する

第1話 目を覚ますと、目の前に金髪幼女

「デバッグコマンド……テレポート。設定、魔王城。実行っと」


 メニュー画面から開発専用コマンドを呼び出し、勇者一向をラスボスの元へと移動させる。


「次は、デバッグコマンド……アイテム生成。対象、光の剣。実行っと」


 続いて、試験項目票に書かれたアイテムを勇者たちに装備させると、


「最後に、デバッグコマンド……ステータス。対象、勇者。実行っと」


 同じく指定されたレベルを勇者とその仲間たちに設定していく。

 これで一先ず準備は完了だ。

 早速、勇者を操作して、ザ・魔王といった姿のラスボスと戦う。

 俺は勇者のみを操作し、仲間はAIが勝手に動かしてくれるのだが……行動が微妙だな。

 かなり上手くフォローしないと、すぐに死んでしまう。ここも手を入れないと拙い。

 勇者が回復魔法を一切使えないのに、仲間が回復魔法や防御魔法を使わず、ボスに効くはずのない即死魔法を連発する。

 回復キャラなんだから、回復してくれよっ! 支援だ! 攻撃は俺がするから支援してくれっ!

 だが、そもそもとして、魔王の通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃だし、ステータスが防御力に極振りされているから、最強装備を持っていても、勇者のレベルが低いとダメージを与えられないという鬼畜設定。

 その上、第一形態を倒した後、第二形態となった魔王が無双し、勇者が大ピンチになった所で、育ての親であり師匠であるイベントキャラが現れ、必殺技を教える……って、もっと早く教えとけよっ!

 それに、一人で魔王城に乗り込めるくらい強いんだから、その師匠が戦えよっ! 勇者とその仲間たちは、魔王の攻撃を数回受けただけで死ぬくらい弱いんだよっ!


「……マジで難易度設定がおかしいっての」


 クリア後の隠しボスならともかく、ラスボスを倒せる標準レベルが80って高過ぎるだろ。アイツ、RPGやった事ないのかよ。普通は40くらいじゃないのか?

 ちなみにアイツとは、企画とシナリオ、ゲームバランスの調整などを一人でこなす一方で、プログラムやデバッグは俺たちプログラマーチームに投げてくる、後輩で三歳年下の上司だ。

 十年近くゲーム業界に居る俺が、転職してきた後輩にあっさりと追い抜かれ、部下にされてしまったのだが、それはまぁ仕方が無い。

 人手不足だからと、一人で複数の業務をこなしているアイツは素直に凄いと思う。

 ただ、経験のないプログラムを俺たちに振るのは良いとしても、ゲームの難易度設定は無茶苦茶で、シナリオはクソだし、アイディアが固まっていないのか、何度も何度も仕様を変更してくる。

 そのくせ、


「おい、斉藤! 聞いてんのかっ!? お前の進捗はどーなってんだっ!」


 やたらと偉そうなので、やってられない。

 というか、スケジュールが押しているのは、お前が仕様変更しまくったからだろうが! そのシワ寄せがドンドン俺たちにやってきているんだよっ!

 アクションRPG『ストレングス・クエスト』――通称SQの納期が翌月に迫り、もう何日も家に帰れていない。

 デバッグ作業で不具合を見つけては修正し、また確認しては修正し……オープニングムービーなんて軽く三桁は見たし、このラスボスだって、戦うのは一体何回目となる事やら。


「斉藤……斉藤隆史っ! 発売日まで、もう時間がねーんだぞっ! 進捗を報告しろっ!」


 今も、アイツが偉そうに喚いている。

 斉藤って奴、相手してやれよ。うるさくて仕方が無いだろ!

 ……って、あれ? 斉藤隆史って俺の名前じゃないか。

 早く返事しないと、アイツはうるさいのに……あれ? 意識はあるのに、身体が動かな……い?


「おい! ふざけるのも大概にしろよ? お前の給与評価は、俺の気分一つでどうにでもなるんだぞ! 斉藤ッ!」


 ただでさえ少ない給料が今より少なくなったら、俺はもう生きて、いけな……


『まだだ。お前ならまだやれるっ! 今から俺が編み出した最強の技を授けよう……』


 薄れゆく意識の中で、師匠が勇者に必殺技を伝授するイベントムービーの声だけがエコーが掛かった感じで耳に残る。

 そして、


「進捗っ!」


 進捗報告をしなければ……と思いながら身体を起こすと、いつの間に眠ってしまったのか、俺はベッドの上だった。

 どうやら連日の徹夜により、会社でデバッグ作業中に倒れてしまったらしい。

 納期まで時間がないので、早くデバッグ作業を続けなければ。

 つい先程も、第一形態の魔王の動きに、アイツから指示されていた行動パターンと少し違う箇所がある事を発見してしまったしな。


「……しかし、それにしてもだ。ベッドの置いてある部屋なんて、会社にあったっけ?」


 ベッドから降りて周囲を見渡してみると、小さな窓があるだけで照明すらない、薄暗くてカビの臭いがする小さな部屋だった。

 俺が知らなかっただけで、倉庫か何かにベッドを置いて、仮眠室が作られていたのだろうか。

 とりあえず、ボロボロの壊れかけた扉を開けて部屋を出ると、大きな女性の姿が描かれたステンドグラスが目に映る。

 その下には十字架があって、ボロボロの椅子が並び……って、ここは教会か? どうして会社にこんな教会があるんだ!?

 だけど、どういう訳かこの教会には見覚えがある。

 今まで生きてきた中で、教会になんて一度も行った事がないのに、何故だ?

 訝しげに思いながら、見つけた大きな扉へ向かっていると、突然その扉が開き、二人の子供が現れた。


「あ、ウィルーッ! もう体調は平気なのーっ!?」

「へ……?」

「大丈夫だよね? だって、ほら。もう立ち上がってるもんっ!」


 ウィル? どこの外国人だ?

 後ろを見ても誰もいないが……どうして俺に向かって言うんだ?


「ウィルーッ! 元気になったんだよねっ! だったら、遊んでーっ!」


 気付けば、先程の子供の一人、小学生くらいの金髪少女が俺に抱きついていた。

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