第33話 ♂信じる少年
「七渡、勉強はどうなの?」
愛犬のハムを撫でていると、母親が勉強について聞いてきた。
「おかげさまで好調だと思う。絶対に都立の高校にも通うから」
母には塾の費用も出してもらっているからな。
なんとしても合格して親孝行したい。
「落ちて私立の学校に行くことになっても大丈夫よ。その時はしっかりとアルバイトしてもらうけどね」
プレッシャーを和らげてくれているのか、別に落ちても死ぬわけではないと安心させてくれる。
「この一年、遊ばずに頑張ってきたから、その成果はきっと出ると思う」
「そう。高校生になったらいっぱい楽しみなね」
今は我慢の時だ。
高校生になったら、その分楽しく過ごす。
「これ、先週私が福岡行った時に買ってきたやつ」
母親からお守りを二つ手渡される。
母親はこの前、同窓会があると言って福岡に戻っていた。
その時に買ってきてくれたみたいだな。
「これって……」
「そ、学問の神様で有名な太宰府天満宮のお守り」
「まじで助かる。これで実質、点数プラス10くらいだ」
学問の神様のお守りは御利益がありそうだな。
しかも東京でこのお守りを手に入れられる人はほとんどいないはず。
この時点でちょっと有利になったぞ。
「でも何で二つ?」
「廣瀬君にあげな。一緒の高校受けるんでしょ?」
「そうだね。ありがと」
俺はお守りを持って学校へと向かった。
▲
十二月になり、寒さが日本を襲っている。
吐いた息が真っ白になるくらい冷えている。
だが、俺には麗奈から貰ったマフラーや手袋があるので温かい。
教室に入ると一樹の姿を見つけたので、早速話しかける。
「おはよう」
「うっす。地葉はまだ来てねーぞ」
「そっか……って別に、学校来てすぐ会いたいわけじゃねーっての」
麗奈がいないと寂しい気持ちはある。
もう俺の学校生活に欠かせない人にはなっている。
「これ、母親がお守りだって。学問の神様のやつ」
「清美さんが!?」
母親のからのプレゼントと聞いて嬉しそうにする一樹。
「友達の母親を名前で呼ぶなよ」
「七渡はずっと一緒にいるからわかんねーかもしれないが、清美さんめっちゃ綺麗だぞ。七渡のお母さんとは呼べないっての」
この前も一樹は本屋で幼馴染みの母親に恋をするラノベを買っていた。
もう末期なのかもしれない。
「そんな母親からのお守りだ」
「……待った」
一樹は受け取ろうとしたが、手を止めた。
「どうした?」
「それ、いくつあるんだ?」
「俺の合わせて二つだよ」
「じゃあ俺は必要無い。お守りに守られなくても、余裕で合格できそうだしな」
意外にも受け取らなかった一樹。
「本当にそれを渡すべきなのは……わかるだろ?」
「うーん……自分か? 俺が二つ付けた方がいいのか?」
「ちげーよ! 地葉に渡せってことだよ! あんましふざけたこと言ってっと、清美さんにラブレター渡すぞ!」
「あぁ、なるほど」
一樹の言っていることが理解できた。
確かに麗奈が一番不安だからな。
だが、人の母親にラブレター渡すのはちょっと何を言っているのかわからない。
「でも、良いのか? 母親からのだぞ」
「惜しいが、俺が七渡から貰っても地葉に嫉妬されて怒られそうだしな」
噂をすれば、麗奈が教室に入ってきた。
「おはよー二人とも」
「おはよう」
麗奈は俺と目が合うと笑顔になる。
それを見た俺も笑顔になる。
「麗奈、これ持っててくれ」
「なになに」
俺はお守りを手渡す。
ギャルの麗奈にはお守りなんて地味で持っててらんないとか言われそうだな。
「お守り。福岡の学問の神様のやつ」
「まじで!? ありがとう」
予想に反して嬉しそうにする麗奈。
プレゼントならどんなものでも喜びそうだな。
「どうやって手に入れたの?」
「母親が福岡に行った時に買ってきてくれたんだ」
「七渡のお母様から!? 嬉し過ぎる!」
早速、鞄につけている麗奈。
気に入ってくれたみたいでなによりだ。
「さっそく付けたよ。これで偏差値二上がりそう」
「まるでゲームのアクセサリを装備したみたいだな。幸運度が二上がるとか、アビリティの装備枠が一増えるとか」
ヤバい、ゲームの話をしてたらゲームをやりたくなってきた。
受験終わったらテイルズシリーズやりまくろ。
「というか、お揃いだな」
俺は鞄につけたお守りを見せる。
麗奈も鞄につけたのでお揃いになった。
「えっ、うそ! 嫌じゃない?」
「嫌なわけないだろ」
「やったやった」
お揃いになったことを飛び跳ねながら喜ぶ麗奈。
その無邪気な姿は本当に可愛い。
「一生大事にするね。子供にも引き継がせて、末代まで使う」
「大袈裟だな」
「だってこれは家宝だもん」
冗談かと思ったら本気だったようだ。
物の大事にするのは良いことだが、そこまでされるとちょっと引いてしまう。
でも、もし麗奈が恋人にでもなったら彼氏である俺のことを大事にしてくれそうだなと思った――
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