第35話 ♂天国行きの少年


 年が明けた。


 新たな年が始まり、浮足立った気分になる。


 今年は中学卒業と高校入学がある変化の年だ。

 正直、どんな未来が待っているのか見当もつかないので少し不安にもなる。


【十五時に駅前集合ね】


 麗奈から俺と一樹宛てにメッセージが届く。


 今日は初詣に行くという約束をしてある。

 遊びではなく、神様に合格祈願をするという勉強の一環という理由で決まった。


 冬休みもどこかへ遊びに行くことはなかったので、ちょうどいい息抜きになりそうだな。


 スマホで画像フォルダを見ると、クリスマスに麗奈から送られてきた写真が出てきた。

 メリークリスマスという言葉と共に送られてきた、麗奈がケーキと一緒に写っている自撮り写真。


 麗奈の写真はお気に入りボタンを押しているので、お気に入りフォルダには麗奈の写真が並んでいる。

 どれも可愛くてちょっとエッチだ。


 麗奈は今までの女友達とは大きく異なっていて、自分に自信があるのか写真とかを平気で送ってくる。

 今はもう利用していないが、リンスタやツキッター等のSNSでも写真を載っけていたと語っていた。


 個人的には嬉しいのだが、あまり自分の写真を送ったりしない方がいいのではと心配にもなる。

 一樹には送っていないみたいなので、今は俺だけみたいだが……


 逆の立場で考えれば、俺が麗奈に自分の自撮り写真をいっぱい送りつけるようなもんだからな。

 麗奈は可愛いから成立するけど、俺だったらめっちゃウザいな。

 SNSでこいつキモいんだけどってスクショしたやり取りを晒されるレベルだ。


 俺は麗奈の写真の胸元をズームして胸の大きさを改めて確認してから家を出た。



     ▲



「あけおめことよろ~」


 一番先に集合場所で待っていた麗奈に新年の挨拶をされた。


「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「うんうん。よろしくね七渡」


 てっきり振袖でも着てくるのかと思っていたが、普通に私服のコート姿で来ていた。


「勉強の調子はどうだ?」

「絶好調だよ。もう日本史と英語は完璧かな」


 麗奈から頼もしい言葉が聞ける。


 二学期の期末テストでもクラスで六番目の好成績だった。

 俺が七番目だったのは内緒にしておいた。


 内申点も異様なほど高かった。

 きっと、不良がちょっと頑張ると褒められがちな現象が生じたのだろう。

 というか麗奈に関してはちょっとどころの頑張りではないからな。

 先生たちもつい嬉しくて高くつけちゃったのだろう。


「あろ~」


 一樹がやってきたが、あけましておめでとうございます今年もよろしくお願いしますを略し過ぎてあろ~になっている。

 あけおめことよろが略の限界だろ。


 合流した俺達は近所の大きな神社へ向かい、お参りの列に並ぶ。

 年明け早々ということもあり、長蛇の列ができていた。


「時間もかかりそうだし、ここはなぞなぞクイズの時間だな」

「映画コナンの博士かよ」


 急になぞなぞとか言い出した一樹。

 ちょっと嫌な予感がするな……


「幻のアトランティス大陸ってどこにあったんだろうな……」

「謎が壮大過ぎんだろ! 暇つぶしに解決できる謎じゃねーよ」


 俺達のくだらないやり取りを温かい目で見ていた麗奈。


「くだらないことばっかでごめん」

「あたし、七渡と廣瀬のくだらないやり取り好きだよ。七渡も楽しそうだし」


 まるで子供の遊びを見守る母親のような表情の麗奈。


「まだ時間がかかりそうだし、心理テストでもやろっか」

「おっ、イイネ麗奈。心理テストは面白そう」


 やはり女子がいると暇つぶしの幅が広がる。

 俺と一樹だけでは心理テストなんて発想には至らないからな。


「なんかレールの上をトロッコが走っててね」


 おっ、これは噂のトロッコ問題だな。

 一人を助けるか大勢を助けるかみたいな話だったはずだ。


「このまま進むとトロッコが自分の一番大好きな人を轢くことになっちゃうの」

「ふむふむ」

「でもあなたがレール沿いにあるレバーを引けば、トロッコは進む方向を変えて見ず知らずの子供たち十人が轢かれちゃうの」

「なんてこった」

「その時あなたはレバーを引くか引かないかって話」


 なんという酷い選択肢だ。

 どっちを選んでも救われないなんて……


 それにしても、麗奈の記憶が曖昧なのか想定していたトロッコ問題とはちょっと違ったな。


「俺は子供たちを救うかな」


 悩んでいる俺を見てか、一樹が先に答えを言ってしまう。


「子供たちを救うという判断をしたあなたは地獄に落ちるでしょう」

「心理テストだろ!? ただ酷評されるなんて、とんでもなく胸糞の悪い質問だな!」


 適当な結果を聞いて麗奈に吠えた一樹。


「俺はそうだな……自滅覚悟でレールの上に立ってトロッコを食い止めるかな。レール沿いにレバーがあるってことはレールに飛び込めるだろうし、運良く大木とかスコップとかの道具があれば、壊したり止められるかもしれない」

「ふっ、やすっちい自己犠牲とは七渡らしいな」


 俺の回答を聞いて俺らしいと呟く一樹。


「自分を犠牲にしてまでみんなを救いたいなんて……きっと七渡は天国に行けることでしょう」

「もはや心理テストじゃなくて地葉の感想じゃねーか」


 確かに一樹の言う通り、結果は麗奈の感想でしかない。

 その適当さも麗奈らしいが。


「そういう麗奈の回答はどーなんだ?」

「もちろん、大切な人を助けます。知らない人のことなんかどーでもいいしね」


 楽観的な意見を述べる麗奈。

 自己中心的な考え方とも言えるが、そういう人の方が幸せに生きられるって言うしな。


 みんなでくだらない話をしているといつの間にか先頭に立っており、無事に合格祈願をすることができた――

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