第34話 ♀クリスマスギャロル


 時間が経つのはあっという間だ。


 七渡と出会って既に半年以上が経過している。


 距離は少しずつだけど確実に縮まっていて、苦手だったお互いを受け入れるようになって、相手のことを理解できて、名前で呼び合うようになったりした。

 そして今では親友と紹介できるほど、仲は深まっている。


 七渡を好きになってからは、七渡にもあたしを好きになってもらいたいとか、恋人になりたいとか考えるようになったけど、今ではその気持ちも落ち着いてきて、傍にいられればそれでいいと思えるようになってきている。


 それは好きな気持ちが薄れたからとか、そういうものでは決してなくて、別に何か形にしなくても七渡の隣で笑ったり遊んだりできれば幸せを感じることができると理解できたからだ。


 無理やり形にしようとして、それがいびつですぐに壊れてしまっては意味がない。

 絆が十分に深まって、もう決して切れることのない関係に深まった時に、あたしの気持ちを伝えられればいい。


 それが高校生の時なのか、それよりもっと先の事なのかはわからない。

 七渡と一緒にのんびり過ごして、ゆっくりとタイミングを見極めれば良い。


「七渡、おはよー」


 教室に入ってきた七渡を出迎える。

 あたしがプレゼントしたマフラーと手袋を身に着けているのを見て、それだけで幸せな気持ちになってしまう。もふもふ。


「そうだ七渡、もうじきクリスマスだね」


 少し怖いけど、クリスマスの話題を出した。


「ああ。もうそんな時期か」

「……予定とかあるの?」


 これで予定があると言われてしまえば、ショックで死んじゃうかもしれない。

 でも、今の七渡に女の影は無い。

 たぶん大丈夫なはず。きっと。


 でもでも、七渡がSNSとかで女を引っかけてて、学校外で女と仲良くなってたらヤバい。

 いや、七渡は勉強に集中しているはずだもん。ないない。


「何も無いけど。去年も母親と二人で寂しく祝ってたし」


 七渡の言葉に安堵する。セーフ。

 1%の不安でも、心配事は尽きないからね。


「ぷぷぷ、寂しい男だね」

「馬鹿にすんなよ。そういう麗奈は予定あるのか?」

「無いよん。あたしもお母さんと二人で祝う感じかな」

「俺と一緒じゃねーか」


 思い返してみても、クリスマスに友達と遊んだことは無い。

 毎年家族で過ごしていた。

 七渡には言ってないけど、彼氏もできたことないしね……


「でも、麗奈はギャルだから予定あると思った。渋谷の街にサンタコスでくりだすとか」

「クリスマスなんていつも一人だったよ。特別な日に、わざわざしょうもない男と付き合ってらんないしね」


 やっぱりギャルって遊んでいる印象を持たれるのか……

 七渡と出会ってからは、メイクも少し薄くしてギャルっぽさは減らしているつもりなんだけどな。


「……でも、来年はみんなで楽しく祝いたいかな」


 あたしの言葉に七渡はそうだなと返してくれた。

 不確かな未来だけど、そうであってほしいと願うしかない。


「その時はサンタの衣装着てくれるか?」

「えっ、別にいいけど」


 珍しい七渡の要望。

 あまりあたしに我儘を言ってこないので、少し嬉しかった。


「でも、何で?」

「あ、あっと、そのー」


 顔を赤くして言葉に詰まる七渡。

 可愛いなぁ……まったく。


「麗奈可愛いから、きっと似合うと思って」

「ば、ばかっ! 何言ってんの!」


 平気で可愛いと言ってくる七渡。

 友達にそんなこと言うなんて、ほんとたらし野郎だ。


 でも、期待してくれるのは嬉しい。

 来年は気合入れてミニスカへそ出しサンタでプレゼントあげよ。


「あっ、一樹だ」


 廣瀬が教室に入ってきた。

 七渡は廣瀬を見て嬉しそうにする。む~

 相変わらずほんと仲良いな……


「一樹はクリスマスに予定あんの?」

「ねーよ。来年こそは、素敵なお姉さんと過ごすさ」

「一樹も年上好きじゃなければ、きっと彼女もいただろうに……」


 廣瀬も予定が無いみたいだ。

 廣瀬が恋人でも作ってくれたら、七渡も自分も恋人欲しいって気持ちになってくれるかもしれないな。


「みんなで集まったりしないのか?」


 廣瀬はあたし達に質問してくる。

 答えは七渡に任せよう。


「うーん、何か今まで遊ぶの我慢してたから、クリスマスだけ遊ぶってのもな。恋人でもいたら、ちゃんと祝ってたりもしただろうが」

「まぁ確かにクリスマスは友達と遊ぶってより、恋人と過ごす日だしな」


 七渡が遊ばないと言えば遊ばない。

 ちょっと寂しいけど、来年なんてきっとあっという間にやって来るはずだ。


「地葉はそれで大丈夫なのか?」


 あたしが七渡を好きだと知っているからか、わざわざ確認してきた廣瀬。

 相変わらず気を使ってくるけど、余計なお世話だ。


「大丈夫だよ。クリスマスすら勉強して、ライバルたちとの差を埋めるから」

「凄いやる気だな……でも、その努力は無駄にならないはずだ」


 努力は無駄にならないか……


 中二までは勉強とか意味無いとか時間の無駄でしかないと思っていた。

 確かに勉強しなくてもあたしはのうのうと生きていたのかもしれない。


 でも、今の居場所は勉強というか努力してなかったら手に入れられなかった。

 勉強して得られるのは知識だけじゃなかったんだね――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る