第36話 ♀病み期のギャル


 今日は七渡と初詣に来ている。


 長蛇の列を並んで合格祈願を済まし、みんなでおみくじを引くことになった。


「うげっ凶じゃん」


 三年ぶりに引いたおみくじだったけど、最悪の結果になっちゃった……


 願望。多くを望むことなかれ。

 うっせーな! わかってるよ!


 争事。悪戦苦闘だが、粘れば勝機あり。

 そうかいそうかい。粘りまくってやるし!


 待人。不都合の連続。

 何この不穏な言葉は……

 まじで嫌な感じ。


 学問。努力は報われるが、安心は禁物。

 おっ、これは良いかも。

 めっちゃ努力してるしね。


 恋愛。諦めたら、そこで試合終了ですよ。

 これどっかの漫画の名言じゃんかよ!?

 七渡との関係は大丈夫だよね?


 病気。心配することなかれ。

 はーい。心配しないで元気に生きます。


 出産。極めて安し。

 七渡との子供は生んでも大丈夫みたいだ……

 って何考えてるのあたし!?


 凶って書いてあったからビビったけど、全部が悪いわけじゃないみたいね。

 でもちょっと新年早々これはテンション下がる。


 まぁきっと去年は七渡と出会えたから大吉だったはずだ。

 それに七渡が傍にいる時点であたしは幸福だし、それ以上の幸せは必要無いので凶でも幸せだっつーの。


「七渡はどうだった?」

「大吉だったよ。二年連続の大吉だ。二年前は凶だったけど、良い波が来てるな」


 七渡のおみくじをもらって内容を確認する。


 願望。望み通りだが、望みは一つのみ。

 やっぱり大吉だからか、望み通りなんて凄いこと書かれてある。


 争事。約束された勝利の剣。

 今年の体育祭は七渡も活躍できそーじゃん。


 待人。来過ぎて困る。

 運が良すぎて困るってか!?

 凄い強運だな七渡は。


 学問。日頃の行いが左右する。

 七渡は優しいから大丈夫そうだな。

 これは安心だ。


 恋愛。運命の再会を果たす。

 何よこれ……

 あたしがいるんだから運命の再会なんて果たさなくていいし。

 まっ、たただの占いみたいなもんだし、気にしない気にしない。


 出産。極めて安し。

 やっぱり七渡と子供作って……

 って、あたしまだ中学生だっつーの。


 それにしても大吉だからか、良いことばかり書いてあんじゃん。

 羨ましい。


 廣瀬は中吉だったみたいだ。

 ねぇ何であたしだけ凶なの?


 おみくじタイムを終えたあたし達は早々に家へと帰った。

 神頼みもいいけど、結局は自分たちの努力が一番大事だしね。



     ▲



 受験日が刻々と迫っていく。

 まだ先だと思っていた試験が待ち構えている。


 今までは不安をそこまで感じていなかったけど、受験日が近づくに連れて不安や恐怖にストレスが大きくなっていく。


 だって、もし受験に落ちたら七渡と離れ離れになっちゃうんだよ?

 そんな未来を想像しちゃうと、震えが止まらなくなっちゃう。


 今までは実感が湧かなかったけど、着実に増していく恐怖は耐えがたいものだ。

 どれだけ勉強して安心しようとしても、その恐怖は離れていかない。


 新年を迎えてから、ちょっとメンタルがヤバい。

 きっと今まで辛いことから逃げてばかりだったから、挑戦に慣れていないんだ。


 いくら勉強をしたってメンタルは鍛えられない。

 経験がものをいう。


「七渡……」


 あたしは弱弱しい声で七渡の名前を呼んでいた……

 きっと冬休みで七渡にも会う日数が減っているから、こんなに落ち込むんだろう。

 

 七渡に会いたい。

 でも、図書館は年末年始なこともあり来週まで休館している。

 七渡に会える理由がないよ~


「ごめんね七渡」


 七渡は勉強に集中しているかもしれない。

 それでも、あたしは不安に耐えられなくてスマホで七渡へ電話をしてしまった。


 七渡には迷惑かけたくないけど、あたしが七渡を求める弱さに勝てなかった。


『もしもし、どうした?』


 電話に出てくれて通話が開始する。

 七渡の声が聞けただけで、少し元気をもらえた。


「何か不安になっちゃって」

『受験か?』

「うん。試験日がもう目の前に迫ってきてるから、落ちたらどうしようとか、みんなと離れ離れになっちゃうかもとか、そんなことばかり考えちゃう」

『麗奈は大丈夫だよ。正直、もう俺と同じレベルまで達しているし。麗奈が駄目だったら俺も駄目だよ』


 声が聞けるのは嬉しいけど、やっぱり直接聞きたい。

 七渡の顔が見たい。

 触れて安心したい。


「七渡……」


 あたしはすがるような声で七渡を呼んでしまう。

 七渡ならきっとあたしの欲しい言葉をくれると信じて……


『今から会うか? もう遅いなら明日でもいいし』


 やっぱり七渡は望む答えを言ってくれた。

 でも、それに少し胸が痛んだ。


 あたしは七渡の優しさを利用して、そう言ってくれるように誘導しちゃったから。


「今すぐ会いたい。ごめんね、こんな時間に……」

『相手が困ってんなら、いつでも助けに行くのが親友だろ?』


 あっ、ヤバい……

 七渡カッコよ過ぎて、一気に身体が熱くなっちゃった。


 もう好きすぎる。

 七渡大好き。愛してる。


「じゃあ、いつもの公園来れる?」

『うん。三十分後に集合な』

「ありがと……」


 通話を終了し、あたしはベッドに倒れ込んで口を開いた。


「大好きだよ七渡」


 通話を急いで切ったのは、あたしの気持ちがこぼれてしまいそうだったからだ。


 思いが飛び出してしまいそうなになるほど、七渡のことが愛おしくなっちゃった。

 危ない危ない。


 でも、勉強していたはずの七渡を呼び出してしまったのは、申し訳なさで胸が苦しくなってしまう。

 七渡に会ったら七渡が望むことを何でもしてあげよ。

 遠慮させずに望みを口にしてもらう。


 いやでもこんな真冬の夜中に全裸になれとか言われたら流石に断るかも。

 許せて上半身だけかな……


 そんなくだらない心配しても意味は無い。

 そもそも七渡はあたしにそんな変なこと望まないし、強がって我儘も言ってくれなそうだし。


 七渡にはいっぱい恩を貰ってるから、できるだけ望みを叶えてあげたい。

 それがどんなに醜い欲求でも、度の越えた我儘でもね。


 そんな考えに陥るほど、今のあたしは弱っていて七渡にすがっていた――

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