麗奈の宝物

Special.1 バレンタイン♀


 来月には受験が控えている。

 受験勉強で忙しいのに今日は女の子にとって大切な日だ。


 バレンタイン……

 今までどうでもいいと思ってたけど、七渡と出会ってからは特別な日になっちゃった。


 七渡には勉強を教えてもらって世話になってるから、チョコは絶対に渡したい。

 ちゃんとチョコも買ってある。後は渡すだけ。


 チョコを持っているのは恥ずかしいから、上着のポケットへ隠すようにしまった。


 七渡と近くの公園で待ち合わせている。

 すぐに終わるからって伝えてあるから、ただ渡すだけ。


「お~い」


「えっ!?」


 外から七渡の声が聞こえたので、窓から外を見ると七渡が家の前であたしを呼んでいた。


 慌てて部屋を出て一階へ降り、玄関の扉を開ける。


「どうしたの? 公園で待ち合わせるって話だったじゃん」


「早く会いたくて我慢できなくなったから、会いに来た」


「七渡……」


「部屋入っていいか?」


「えっ、うん。お母さんいないから大丈夫だけど」


 今日の七渡、何かガツガツしているというか、やたら積極的だ。

 というか、七渡があたしの部屋に入るとかヤバいって、物理的な準備とか心の準備とか何もできてないから!


「もしかして、今日がバレンタインだからチョコを貰いに来たとか?」


「いや、日本の少子高齢化社会についてディスカッションしようかと思って」


「真面目かっ!? チョコじゃないの!?」


「冗談だよ。誰にもチョコ貰えなくて吐きそうだったから、期待値の高そうな麗奈のとこ来た」


「やっぱりチョコ貰いに来たんだね」


 どうやらチョコが欲しくてどうしようもなくなっているみたいだ。

 だからきっと、いつもと違って七渡は積極的になってんだ。


「ちゃんとチョコ用意してるよ」


「ありがとう……でも、手には何も持ってなくないか?」


「もぅ、そんなに焦んないでよ」


「ご、ごめん、今年まだチョコ0個という状況が不安で吐きそうなんだ」


 何時にもなく、そわそわしている七渡。

 そんな七渡を見ていると、あたしもそわそわしちゃうって。


「チョコはあたしの身体のどこかにしまってあるから」


「は、早くくれって」


「そんなに欲しいなら、あたしの身体から探してみーよ」


 焦っている七渡をからかう。

 チョコはちゃんと感謝を述べてから渡したいし。


「わかった」


「えっ!?」


 七渡は部屋で立っているあたしの身体を問答無用で触り始めちゃう。


「ま、待ってよ」


「おい、動くなって。次動いたらもう絶交な」


「は、はいっ。ごめんなさい」


 あたしを脅しながら、服の中に手を入れてチョコを探す七渡。


「ちょっと七渡、そんなところにないよ」


「調べてみなきゃわからないだろ」


「ポケットにあるから」


「それは義理チョコで本命のチョコはもっと奥にあるかもしれない」


 あたしの言うことには聞く耳を持たず、胸をまさぐらてしまう。

 胸を覆うブラもその役割を果たせず、ずるずると落ちていく。


「このコリコリしてるのがチョコか? チョコボール的なやつなのか?」


「だめっ、違う! それ違うから!」


 七渡に敏感になっている場所を摘ままれてしまう。

 事の重大さをわかっていないのか、七渡は無邪気に弄ってくる。


「自分の目で見て確かめなきゃわかんねーだろ」


「駄目っ、引っ張らないで、それ取れないから!」


 左右同時に摘ままれて、引っ張られてしまう。

 身体がびくんびくんと動いて、立っているのが難しくなる。


「上にないなら下か」


「そっちは本当に駄目。七渡でも駄目なの」


 あたしの股に手を伸ばしてくる七渡。

 早くチョコを見つけてほしい。


「俺でも駄目なのか?」


 あたしを見つめながらお願いしてくる七渡。

 そんなこと言われちゃったら、断れないじゃんか。


「……駄目じゃないかも」


「じゃあ失礼します」


「ば、馬鹿ぁ~」


 もうどうにでもなれと思って、股を少し開いてしまう。


 七渡の指に未開の地を調査されてしまい、今までに出したことのない声が出てしまう。


 途中でもう立てなくなっちゃって、七渡に身体を預けた。

 そしてそのまま頭の中が真っ白になって――



 …………



 ……



「はっ」


 気づくとあたしはベッドで横になっていた。

 めっちゃ汗をかいていて、変な疲れがある。


「七渡ぉ……」


 七渡の名前を呼んでも返事はない。

 というか、ここはあたしの部屋だし、七渡がいるわけがない。


 でも、さっきまで七渡に好き放題やられていたはずじゃ……


 机の上にはチョコが置いてある。

 ポケットにしまっていたはずでは?


 …………


 ……


「夢かよ!?」


 どうやらあたしは夢を見ていたみたいだ。

 記憶がはっきりと残っているから、理解するのに時間がかかった。


 何か七渡がやけに積極的だったから、今思うと少し違和感あった。

 でも、あれは夢なのに何か身体がむずむずしてる。


 七渡と出会ってから、月に一回ぐらい七渡の夢を見るんだよなぁ……

 しかも高確率で七渡に悪戯されちゃう夢だし。


「ヤバいっ、時間ギリギリじゃん!」


 七渡と公園で待ち合わせている時間まであと三十分も無かった。

 慌てて準備をし、待ち合わせ場所の公園へ向かう。



     ▲



「ごめん、お待たせ」


 駆け足で公園へ入ると、既に七渡が待ってくれていた。


「俺も今来たとこ。それで、何の用事があるんだ?」


「バレンタインだからチョコを渡すに決まってんじゃん」


「そ、そうか、ありがとう」


「七渡には勉強教えてもらって、めっちゃお世話になってるし、渡さないわけにはいかないじゃん」


「別に、そんな気を使わなくていいのに」


 素直に好きだからって言いたいけど、今は受験が控えているから我慢我慢。


「チョコは? 手ぶらみたいだけど」


「ポケットにしまってある」


「そうか」


「取らないの?」


「……そんなことするわけないだろ」


 別に夢にあったような展開を期待していたわけじゃないけど、無駄に聞いてしまった。

 本当に期待してたわけじゃないかんね。


「馬鹿っ」


 七渡の手に無理やりチョコを持たせて、逃げるように帰る。

 もっと一緒にいたいけど、好きな気持ちが抑えきれなくなりそうだから。


 まぁ、来年のバレンタインは高校生にもなってるし、デートも込みでちゃんと愛情を込めて渡せるはず。


【チョコ本当にありがとう! これで俺も勉強を頑張れそう!】


 スマホを見ると、七渡からメッセージが届いていた。


「七渡……大好き」


 誰もいない帰り道で、我慢していた言葉を口にしてみた――

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あなたを諦めきれないギャルじゃダメですか? 桜目禅斗 @Sacrament

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