第6話 ♀変わりたいギャル
人は何度でも生まれ変わっていける。
あたしの尊敬する人がそんなようなことを言っていた。
その言葉に影響されて、あたしは変わることができた。
もう少し目を大きくできたらなと思い化粧を始めて、可愛いと思うモデルに近づきたいと思って髪を同じ色に染めてみたり、ダサい自分を変えたいと思って洋服を買い揃えてファッションを変えてみたり……
それで、あたしはなりたい自分になった。
生まれ変わったんだ。
でも、今生まれ変わりたいのは内面。
性格を変えたいとか、頭が良くなりたいとか。
外見は何度でも自由に生まれ変われたけど、内面は容易ではない。
きっと生き方そのものを変えないといけないんだ――
「地葉さん」
「はいっ」
授業中に考え事をしていたら、いつの間にか先生に指名されていた。やばば。
「この問題、わかりますか?」
黒板にはいくつか数式が書いてあるが、何がなんだかさっぱりわからないや。
「7000ぐらい?」
「違います」
苦し紛れに適当に答えたが、やっぱり当たらなかった。
「……わかりません」
「そーですか。じゃあ誰か、地葉さんの近くでわかる人」
あたしが答えらずにいると、斜め後ろに座っていた女性が手を挙げていた。
「3Xです」
「正解です。よくできましたね
あたしの答えとぜんぜん違うじゃん!?
しかも数学なのに英語出てきた!?
英数学っていう新しい教科できちゃった系?
数学は本当に意味がわからない。
真面目に生きようと考え方を変えて勉強をしようって気になったけど、先生の話を聞いても何一つ意味が理解ができなかった。
「流石だね夜明さん、私は今のわからなかったよ」
「学年トップに近い成績なだけあるね」
周りの生徒からも褒められている夜明とかいう女。
地味な見た目だけど、勉強は得意そうだ。
地味な見た目だけど、凄い人なんだな。
ここ数日は今までサボり続けていた勉強を始めた。
先生の話をちゃんと聞いて、黒板に書かれたことをノートに写し、放課後は無意味に街をふらつかず部屋でも勉強をしている。
でも、何も手応えはない。
何も身についている気がしない。
「今度勉強教えてよ夜明さん。夜明さんわかりやすく教えてくれるし」
後ろから生徒の話し声が聞こえてくる……
そうか、あたしも誰かに教えてもらえばいいのか!
そうだよ、一人でやろうとするから駄目なんだ。
勉強できる人にコツとか教えてもらえばいいんだ。
もっと早くに気づけば良かった~……
って、あたし友達いないじゃん!?
勉強ができないだけじゃなくて、コミュニケーション能力も皆無なんだった。
いや、でもこれは両方を同時に克服できるチャンスでもあるじゃん。
ピンチはチャンスだ。にやり。
▲
授業が終わり、休み時間になった。
あたしは勇気を振り絞り、夜明の元に向かった。
勉強を教えてと頼む。学力改善。
そして友達にもなる。コミュ力改善。
最高のプランであり、勇気出す価値がある。一石二鳥だ。
緊張するけど、ここが自分の人生の頑張り時だぞあたし!
「あ、あの、夜明?」
「ななな、何かな地葉さん」
あたしを見て怯えている様子の夜明。
恐くない、恐くないよ~
「あ、あたしにさ、その……べ、べん~」
「べん?」
「そう、ベンチプレスを」
「ベンチプレス?」
緊張して変なことを言ってしまったため、夜明の顔が引きつってしまっている。
ベンチプレスってなんだよあたし!
ついつい逃げて、この前ふと深夜に見た女の子が筋トレするアニメを思い出してしまった。
一緒に筋トレじゃなくて、一緒に勉強をしたいんだ。
「ベンチプレスじゃなくて、あたしに勉強を教えてほしいんだけど」
「えっ……」
言えた。ちゃんと言えた。
やればできるじゃんあたし。よしよし。
「あっ、その……」
簡単には承諾してくれない様子の夜明。
む~
迷っているなら押すしかないか。
「駄目なの?」
「ひぇっ」
恐がらせるつもりはなかったのだが、青ざめた表情になる夜明。
あたしってそんな鬼みたいな見た目してるっけ?
「ちょっと、夜明さんに何してんの?」
このクラスの学級委員である
これは不味い……客観的に見れば、あたしが夜明を責めているような状況じゃん。
「別に、ただ勉強を教えてと頼んでいるだけだけど」
「とてもそうには見えないけど。それに、不真面目なあなたがいったいどういう風の吹き回しかしら? 何か悪さをしようとしているようにしか思えないけど」
勝手な言い分にイライラするけど、ここで怒ってはさらに悪影響を及ぼすだけだ。
がまんがまん。
「あたしは真面目に言ってんの」
「別に夜明さんに頼まなくてもいいじゃない。あんたと一緒に勉強したってマイナスにしかならないでしょ? あたし達はあなたと違って真面目なの、そっち側の人はそっち側の人とつるんでてよ」
そう言いながら、夜明の手を取って去っていく矢野。
矢野の言い方に怒りが込み上げたが、一瞬でそれは悲しみへと変化した。
確かに今さら誰かの協力を得ようなんて虫が良すぎる話だ。
誰も味方してくれないのは自分が今まで周りに気を使ってこなかった代償だし、自分の人望のなさに呆れるしかない。
それに矢野が言った、あたしと勉強をしてもマイナスにしかならないという言葉がボディーブローのしょうにじわじわと効いてきている。
確かに、自分が得をしようとしているだけで、あたしには返せるものなんて何もない。
人に頼ろうとしたこと自体が間違いだったかも……
お手洗いに向かおうと廊下に出ると、夜明と矢野が話していた。
「助けてくれてありがとう矢野さん」
矢野に感謝している夜明。
おいおい、まるであたしが意地悪しようとしていたみたいになってるじゃんか!
ただ勉強を教えてもらおうとしただけなのにさ……
「あーあ。あたしも誰かに助けてもらいたいよ」
わざと周りに聞こえるように独り言を話したが、周りはあたしを見て見ぬふり。
まるで触らぬ神に祟りなしといった様子だ。
その後、トイレの個室で少し涙を流したのはあたしだけの秘密だ――
▲
このまま生きていてはいけないと思い、あたしは考え方を変えて生まれ変わった。
不真面目な生徒から真面目な生徒に変貌した。
このまま優等生ギャルになって、少しでも良い学校に進むんだ。
……しかし、それは格好だけで、実際には何も頭には入っていない。
授業内容は意味不明だし、勉強していても何がなんだかわからない。
今まで何もやってこなかったんだ、急に勉強ができるわけがない。
あたしは何もできない馬鹿な女の子。
その事実を突きつけられたのがショックで、病み期に突入していた。
父親がくれた大きな熊の人形を抱いてベッドに横たわり、意味もなくただ天井を見つめる。
惨めな自分に涙が出てくる。
後悔とか、不安とか、苛立ちに襲われて、身体が動かなくなってしまう。
「時を戻そう」
そんな言葉を口にしても、過ぎた時間は戻ってくれない。
人生はやり直せないんだ。
「もういいや、こんな人生」
自暴自棄になったあたしは、もう全てがどーでもよくなった――
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