第11話 ♂災難な少年
「おーっす」
一樹と合流し、学校へと向かう。
「朝から疲れた顔してるぞ七渡」
「昨夜、ギャルの地葉とのメッセージのやり取りに心を擦り減らしたんだ」
俺は大きなため息をつくと、前方に歩道を我が物顔して歩いている女子高生ギャル三人組が見えた。
あれは近所の青間高校の制服だな……
不良の生徒が多いという噂を聞いたことがあるぞ。
「ヤバい隠れないと」
俺は慌ててマンションの壁に張り付き、擬態して壁の一部となった。
「何やってんだ七渡?」
「ギャル集団が来てる! 一樹も早く隠れないとヤバいぞっ!」
「そんな大袈裟な」
呆れながら壁に張り付き隣で擬態する一樹。
なんだかんだノリは良いのでやってくれるようだ。
「何してんの~君たち」
しかし、俺達の擬態は虚しく、褐色ギャルの人に首根っこを掴まれてしまう。
終わった……捕食された。
「擬態です」
「何それまじウケんだけど、キャハハハ」
俺の回答を聞いて下品に笑っている褐色ギャル。
「てーか隣の背高い子、イケメンじゃん」
褐色ギャルと金髪ギャルが俺への興味を失くして一樹を取り囲んでいる。
ふぅ……助かったな。
まさかイケメンじゃなくて良かったと思える日が来るなんて。
「やっほ」
「ひぇっ!?」
何故かもう一人のギャルが俺の耳元で囁いてきた。
「あたしは君の方がタイプかな~可愛いし」
こんなところでイケメンのおこぼれ効果が発動しなくていいの!
「いやいや俺みたいな世間知らずの雑魚には何の魅力もありませんよ」
「じゃあ、お姉さんが色々教えてあげよっか?」
シャツを広げて胸元を見せてくるギャル。
なんなんだこのエロ広告漫画から出てきたような淫乱ギャルは……
これはいわゆる逆ナンというやつなのだろうか。
いや、世の中はそんなに甘くない。
きっと何か別の下心があるはずだ。
「連絡先を交換しよ? あと今、お姉さんお金に困ってて三千円貸してくんない?」
出ましたギャル特有の金銭要求!
絶対返してくれないから貸しちゃ駄目だぞ!
「すみません遅刻しちゃうんで!」
一樹は俺の手を引っ張ってダッシュする。
運動部の俺達なら逃げ足は速い。
「はぁはぁ……」
ギャル集団の姿が見えなくなったところで走るのを止めた。
「あぶねー、これだからギャルは。ほんと、いつでも絡んできてやがって恐ろしいぜ」
俺は何故かギャルによく絡まれる習性がある。
それだけギャルに狙われやすい顔立ちなのだろう。
これはもうギャルの呪いだな……
「あのな、この際言っておくぞ」
珍しく一樹が少し怒っている。
これは説教されそうな予感。
「七渡が過剰にギャルに反応するから、逆に目立って絡まれるんだぞ」
「な、なんだと……」
「お前の行為は逆にギャルを挑発させてしまっているんだ。普通の人はギャルに滅多に絡まれない。お祭りの時にお前のフランクフルト食われた時も、ティズニーの時にお前のチュロス食われた時も、お前の方から過剰に動いて絡まれたんだぞ」
今まで俺がギャルから異様に絡まれていたのは、俺が恐れすぎて逆に目立ってしまっていたからだというのか……
何という悪循環。
だから俺はギャルの負のスパイラルから抜け出せなかったわけだ。
「謎は全て解けた」
「そうだ。これからはギャルが来ても態度を変えるな」
「善処する」
一樹から的確なアドバイスをいただいてからは、街でギャルに絡まれることは少なくなった。
時には自分を客観的に見ることも必要なんだなと、ギャルから人生の教訓を学んだ……
▲
「天海君おはよー」
教室に入るとクラスメイトから声をかけられ、挨拶を交わす。
自分の席に鞄を置くと斜め前からこっち見ていた地葉と目が合った。
朝の一件でもうギャルとやり取りするのは疲れたので、今は無視してそっとしておいてもらおう。
だが、席に座り一息つくと、地葉が立ち上がってこっちに向かってきた。
そして、俺の前まで歩いてくる。
そのまま通り過ぎることを祈ったのだが、仁王立ちで立ち止まった。
恐過ぎんだろこいつ……
「何で無視すんのよ」
そして開口一発目から怒っている。
俺がいったい何をしたっていうんだぁああ!
「おはよう。今はちょっと疲れてる」
「べ、勉強を教えてくれるんでしょ?」
「そうだけど……」
顔を赤くしてもじもじとしている地葉。
見た目は恐いが、今朝のギャルとは少し反応が異なり可愛げがある。
「だったら友達じゃん。友達だったら、朝に挨拶とか交わすじゃん」
「お、おう……」
どうやら朝に何も声をかけなかったことに怒っているみたいだ。
友達なら挨拶を交わさなきゃ駄目とか意外と律義なやつだな。
「話しかけても怒ったりしないか?」
「うん。天海なら怒んない。むしろ嬉しい」
その言葉を聞いて安心する。
地葉はクラスメイトから話しかけられてもウザいとかキモいとか言ったり、睨んで無視するやつだからな。
「じゃあ後は昼休みね」
駆け足で自分の席へ戻っていく地葉。
その奇異な様子に、周りのクラスメイトも注目していた。
それにしても朝からギャル祭りのような日で体調が悪くなってしまった。
後で頭痛薬でも飲んでおこう。
「どうなんだ地葉とは?」
地葉が去った後にやってきた一樹。
「可もなく不可もなく」
一樹に近況を聞かれて、問題無く進んでいることを報告する。
地葉に勉強を教えることになったと報告した時は、一樹に軽く反対をされてしまったからな。
「面倒だから俺を巻き込むなよ」
「安心しろ、責任は俺だけが持つ」
「……結局、お前はどこまでもお人好しなんだな」
呆れた言葉を吐くが、表情はどこか嬉しそうな一樹。
「気が向いたらいつか俺にも紹介してくれ、協力者ではなく友達としてな」
「りょーかい。恐くておっかないやつかと思ったけど、意外と健気で悪くないやつだったぞ」
「そーか? 七渡にだけじゃないか?」
一樹は地葉の方に目を向ける。
机でスマホを弄っている地葉に、サッカー部で人気のある石川君が声をかけた。
「地葉さ、連絡先交換しようぜ。クラス会の時とかの連絡とかあるし、女子の誰も連絡先知らないみたいだからさ」
「あたしスマホ持ってない」
現在進行形でスマホを弄っているのに持ってないと石川君を突き放す地葉。
俺があんなこと言われたら泣いちゃう。
「スマホ持ってるじゃん」
「あ? ウザいんだけど」
地葉の一言を聞いた石川君は舌打ちをしてその場から去っていった。
さっき俺には怒らないと言っていたが、他の奴には以前と変わらない対応だった。
「な? おっかないだろ? 俺はあんなやつと今はまだ関われん」
一樹もあの態度を見てお手上げといった状態だ。
「でも七渡は凄いな。誰も知らないはずの地葉の連絡先を知っているし、唯一まともに会話もできる」
「たまたまだろ」
「どうだかな……きっとお前にしかできないことだと思うぞ」
一樹は何故か俺を過大評価する癖がある。
ちょっと嬉しいけど、背中がかゆくなるのでほどほどにしてもらいたい。
「今なんつったの?」
「え? お前にしかできないことだぞって」
「いいね。でも、もっとはっきり言って」
「お前みたいな馬鹿でアホなやつにしかできないことだぞ」
「余計な言葉付け足された!?」
一樹とふざけ合っている様子を何故か地葉が羨ましそうな目で見ていた。
▲
昼休みになり、いつもの場所へ向かうと地葉が先に待っていた。
「遅い遅い」
「早い早い」
遅いと言われたので早いと言い返す。
地葉は昼休みになるとあっという間にこの場所へ向かっていってしまったからな。
「ちゃんと動画見て勉強したか?」
「うん、日本史の動画見てた」
地葉には向上心があるのでサボったという報告は一度もない。
「時代とかもう全部言えるようになったか?」
「もちろん。縄文、弥生、古墳、飛鳥、奈良、平安、鎌倉……室町、安土桃山、江戸、明治、大正、昭和、平成、令和」
「凄いな」
「ま、まぁね」
褒めると照れくさそうにする地葉。
この前まで江戸しかわからなかった状態だったが、歴史の流れを理解してくれて安心した。
「1467年」
「応仁の乱!」
「それもわかるのか。やるじゃん」
当たり前のことを知っているだけだが、ここは過度に褒めておこう。
できない子は褒めて伸ばした方が良いとヤホー知恵袋にも書いてあったからな。
それにしても地葉の学びの上昇スピードは速い。
今までサボって何もしてこなかっただけで、勉強ができないのではなく勉強をしてこなかっただけみたいだな。
無理難題かと思っていたが、少し光が見えてきたな――
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