第39話 ♂決戦の少年


 遂にやってきた試験日……


 今までの努力が試される日であり、泣いて笑ってもこれが最後だ。


 もちろん、準備に抜かりはない。

 自信はあるし、不安もない。


 それだけ勉強をしてきたし、正直もうちょっと上のランクの高校すら合格できそうな自信すらある。


 駅前で麗奈と一樹と待ち合わせしているが、二十分前に着いてしまった俺が一番乗りだった。



「七渡……」


 背後から不安気な声が聞こえてきた。

 どうやら麗奈が来たようだな。


「おはよう麗奈」


 振り返るが、何故か麗奈の姿が見当たらない。

 可愛い黒髪の女子中学生はいるのだが、ギャルで目立つ麗奈を見つけられない。


「七渡?」

「え?」


 まさかの黒髪の女子中学生から名前を呼ばれる……


「え、えええ!?」


 なんと麗奈が黒髪になっていた。

 目の前にいた可愛い黒髪中学生が麗奈だった。


「どうしたんだよそれ?」

「試験日だから黒に戻したの。それに面接とかもあるし……」


 どうやら受験に備えるために金髪から黒髪にしたようだ。

 化粧も薄くなっており、清楚な優等生風の中学生になっている。


「こっちの姿も可愛いな」

「本当に!? なんか地味だし変な感じがして、あたしはちょっと嫌なんだけど」

「まぁギャル風の方が麗奈らしくて俺は好きだけど」

「だよね。受験終わったら即戻す」


 駒馬高校は校則が緩いために髪を染めても問題無いことで有名だ。

 だが、麗奈はそれでも金髪は派手過ぎると思ったのか、身なりを整てきたようだ。


 制服のスカートも短くないし、胸元のボタンもちゃんと閉まっている。

 違和感だらけだが、たまには麗奈のこんな姿を見るのもいいかもしれない。


「遂に、本番だね……」


 俺とは異なり自信が無いのか、不安な声を漏らす麗奈。


「大丈夫。誰よりも努力してきただろ?」

「そうなんだけど……うぁ~恐いよ~」

「落ち着けって」


 俺は取り乱している麗奈の両肩を掴む。


「お、落ち着きました」


 よしっ。俺の技が成功した。


 俺は本番前に麗奈が過度に緊張してしまうことを予想し、事前に麗奈が落ち着ける方法を身につけておいた。

 本番でも役にたったな。


 この先も麗奈が取り乱したら優しく両肩を掴んで解決だ。

 緊張する本番は、試験だけじゃないと思うしな……


「おいおい試験日だってのに、ナンパしてんなよ」


 一樹が俺たちの元へやって来たが、俺を見て青ざめている。


「ナンパって?」

「知らない女子の肩掴んでただろ?」

「あぁ……この子、麗奈だよ」

「だぁにいぃ!?」


 やはり一樹も俺と同様にビックリしている。

 驚いて、三メートルほど転がっていった。


 一樹はリアクションだけは無駄にいいからな。

 ノリが悪そうに見えて意外とはっちゃける癖がある。


「ギャルから清楚系になってやがる。これが噂の清楚ビッチってやつか」

「ビッチじゃないんだけど! ちょっとエッチなだけだし」


 ビッチという言葉を否定する麗奈。

 ちょっとエッチではあるようだ。


 まぁ俺にパンツ見せてくるぐらいだから、なかなかのエッチだろう。


「確かに、ちょっとエッチだよな」

「待って七渡! 何思い出してんの!?」


 麗奈が逆に俺の肩を掴んで揺さぶってくる。


「ほんと仲良いなお前ら」


 余裕な態度を見せる一樹。

 その表情に不安という文字はない。


「俺と麗奈はずっと一緒に勉強してきたからな」

「最初はどうなることかと思ったが、流石は七渡だな」


 俺も麗奈に勉強を教えることになってどうなることかと思ったが、結果として良い方向に進んだと思う。

 負担は確かに増えたが、それは最初だけで後半は頼もしい相方になっていた。


「じゃあ行くか」


 俺は一樹と麗奈に声をかける。


「そうだな」

「レッツゴー!」


 俺達は試験会場となっている駒馬高校へと向かった――



     ▲



 試験会場の教室へ入る。

 席は離れた位置だが麗奈とは同じ教室だった。


「はぁ~緊張する」

「俺も流石に緊張してきた。数学だけはどれだけやってもできなかったから心配だ」

「あたしは数学で答えわからなかったらとりあえず7って回答してるよ」

「何でだ?」

「何でって一番好きな数字だからだよ。七渡の七だし……って別に七渡の名前に入ってるからってわけじゃなくて、ラッキーセブン的なやつ!」


 顔を真っ赤にし、急に早口で話した麗奈。

 その可愛い姿を見て少しリラックスできた。


 机に座り、テスト用紙が配られるのを待つ。

 麗奈は斜め前の位置で俺が渡したお守りを握りしめている。


 きっと大丈夫。

 思い出せ、今までの勉強の日々を……


 頭に思い浮かんだのは麗奈のパンツだった。


「問題用紙を配ります」


 試験管の先生が問題用紙を配り始める。

 もう始まっちまうのか……


 試験が開始し、問題を集中して解いていった。


 猛勉強の成果が表れ、スムーズに問題を解いていくことができた。

 麗奈も問題が解けているのか、不安だった表情は消えて余裕のある表情になっていた。


 そしてそのまま全教科の試験が終了する。



 これはいける……

 数学ぜんぜんわからなかったけど、きっといける。



     ▲



「お疲れ~」


 麗奈は笑顔でお疲れと声をかけてくれる。


「その顔は大丈夫そうだな」

「うん。けっこうできた気がする」


 なんという頼もしい答えだ……

 弟子の成長に師匠は嬉しいよ。

 ぶっちゃけもう偏差値では抜かれてる気もする。


「俺も問題無さそうだ。七渡は?」


 涼し気な表情の一樹。

 これはみんなで合格できそうだ。


「これはいけるって感じだ。数学はぜんぜんわからなかったけど」

「「七渡……」」


 二人は声を揃えて、俺に心配そうな目を向ける。

 数学はわからない問題があったので、麗奈がテスト前に言っていたことを思い出して数字の7をとりあえず入れておいた。しかも三カ所。


「大丈夫。大丈夫だって、ははは……」


 俺は気まずいので二人から目を逸らした。


 その先には試験を終えて一人で帰る女子生徒の姿が目に入った。

 眼鏡姿のその女性はどこかで見たことある気がしたが、すぐにどこかへ去っていってしまった。


「まっ、試験も終わったことだし、みんなでパーっと食事しようよ」

「そうだぞ七渡。とりあえず問題用紙を見て、回答合わせしようぜ」


 強がっているのがバレまくっているのか、めっちゃ二人に気を使われている。


「そうだな、終わったものはもう仕方がない」


 その後、みんなでファミレスへ向かい回答合わせをしたが、奇跡的に数学で麗奈の運任せに頼って書いた7の回答の場所に一樹も7と回答していた。


 麗奈のおかげで合格へ一歩近づいた。

 まさに幸運の女神だな……

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