第40話 ♀決戦のギャル


 昨日、試験が終わって少し気は楽になったが、今日はまだ面接試験が控えている。


 先生と何度か面接練習をしたり、七渡やお母さんにも見てもらった。

 準備に抜かりはないが、試験よりも緊張しちゃってる。


 あたしは中三になるまで授業を聞かなかったり、サボったりしていたので、内申点が七渡や廣瀬と違って低い。

 中三になってからは真面目になって巻き返したけど、その点を見られてしまうかもしれないな。


 だからこそ、面接ではちゃんとした姿を見せないといけない。


「今日も頑張るか」

「だな。今日を乗り切れば長い戦いも終わりだ」


 七渡と廣瀬はリラックスした表情だ。

 二人とも運動部だったし、友達も多くてコミュニケーション能力が高い。


 反してあたしはコミュニケーション能力が低くて七渡以外には無愛想な人間だ。

 髪を黒に戻してイメージは良くしたが、中身は変わっていない。


「大丈夫かな……」


 あたしは我慢できずに弱音を吐いちゃった。


「俺と練習した時は問題なかったぞ」

「それは相手が七渡でリラックスできたからだし……」


 やはり七渡と高校の先生である面接官との空気感は違う。

 相手が意地悪な質問をしてくるかもしれない。


「面接っていうのは二つのやり方がある。一つは器用に都合良く嘘をつくか、二つはありのままの自分をさらけ出すかだ」


 珍しく廣瀬があたしにアドバイスをくれる。


「俺は器用に都合良く嘘をつく。ボランティアに行ったことがなくても行った体で話す。嘘で自分を塗り固めてその場に都合の良い回答を選ぶ」


 廣瀬は自分のことを他人に話したがらない。

 七渡には何でも言うようだが、あたしにはあまり話さないのでまだ関係性は浅いのだろう。


 だから、面接官にも話さないでその分、嘘を話すということなのだろうか……


「地葉は七渡と同じで不器用そうだから、二つ目のありのままの自分をさらけ出すしかない。正直に答えれば良い印象を持たれる。変に取り繕うことはせずに思ったことを話せばいいさ」

「ようするに、廣瀬は嘘つきってこと?」

「ああ、そうだ。面接は嘘つき大会だからな。だからこそ正直者は正直者で好印象になると思う」

「……最低ね。でも、アドバイスはありがとね」

「地葉が感謝するとは珍しいな」


 廣瀬のおかげで、ただ自分のことを言えばいいだけなのだと開き直ることができた。


「じゃあ行こっか。なんだかやれる気がしてきたし」


 あたしは二人を見ると、笑顔を向けてくれた。


「よし、もう安心だな」

「いつもの地葉だな」


 どうやらあたしは気持ちが表情に出やすいみたいだ――



     ▲



 面接の時間になった。


 身だしなみは完璧に整っており、背筋を伸ばして椅子に座った。


 自己紹介をして、長所や短所を答えたりする。

 はっきりと喋ることを心がけ、言葉遣いに気をつける。


「志望動機を教えてください」

「まず初めに、駒馬高校を知ったきっかけは両親が出会った場所が駒馬高校だと聞いた時です。両親は駒馬高校で良い思い出をたくさん作ることができたと口を揃えて言いました。私はその話を聞いて、私も駒馬高校に通って良い思い出をたくさん作りたいなと強く思いました」


 何度も練習した言葉。

 これは素直なあたしの気持ちだし、すらすらと理由を言える。


「中学校生活で頑張ったことは何ですか?」

「勉強です。正直、私は中学三年生になるまで、勉強が嫌いでテストの点数も散々な結果でした。そんな情けない私を改心させてくれたのは父でした。父は一年前から体調を崩して入院していて、去年の四月末に亡くなってしまいました」


 この話はお父さんのこと思い出して辛くなっちゃうと思ったから練習でも別の内容にして言わないようにしていたけど、やっぱり正直に話そう。


「父と最後に話した時に、個性はそのまま大切にしてていい、だけど勉強は真面目に取り組んでお母さんを安心させてほしいと言われました」


 あの言葉が、このままじゃ嫌だ、変わりたいともがいていたあたしの背中を押してくれたんだ。


 お父さんはあたしに常に自由に生きろと言ってくれて、言葉通り自由にギャルになっても、それがあたしの個性だと褒めてくれた。


 しかも学校にも芸能活動って理由を押し通して、ギャルの派手な姿で学校へ通うこと認めさせてくれた。


 そんな大好きなお父さんにあたしは何もしてあげられなかった。

 だからこそお父さんの最後の言葉を守って勉強を真面目に取り組んで、進学校である駒馬高校に合格してお母さんを安心させたかった。


「私は変わりたいと思いました。いつまでも駄目な自分のままでいたくない。天国にいるお父さんに心配かけたくない。そう思って私は必死に勉強を始めて、駒馬高校へ合格できるように毎日努力を重ねてきました」


 人は変われる。

 それは容姿だけじゃなくて、性格も周囲の環境だって変えられる。


「もちろん、それは一人の力ではなく勉強を教えてくれた友達の大きな支えがあったからです。一人ではきっと心が折れていたかもしれません。本気の挑戦をしたことで、信頼しあえる友達もでき、家族や人の繋がりとの大切さにも気づくことができました」


 一年を振り返ると、やっぱり七渡の姿が思い浮かぶ。


 あたしの大切な人。

 そして、大好きな人。


「今振り返ってみても、やはり私は勉強を頑張ったなと胸を張って言えます」


 迷いなく自分の気持ちを言えた。

 自分をさらけ出して、ありのままに……


 面接が終了した時に、男性の面接官から素晴らしいですねと小さな拍手を貰えた。



     ▲



「ふぅー」


 みんなと合流して深い溜息をついた。


 二人は元気そうなので面接も問題無かったみたいだ。

 あんしんあんしん。


「麗奈、面接はどうだった?」

「ばっちしだよ」

「やっぱりな。信じてたよ」


 七渡はあたしができると信じてくれていたみたいだ。


「面接官は男だったか?」

「うん」

「「よっしゃー」」


 あたしの言葉を聞いて七渡と廣瀬がハイタッチをした。


「なになに?」

「男の面接官だったのは最高の結果だ。麗奈は可愛いから、絶対に面接官の男は満点くれるはずだよ。男ってのはそういう生き物だ。こんな可愛い子に入ってもらいて~ってさ」

「なるほど。確かに素晴らしいとか言われちゃったし。って、何で男の方が有利って教えてくれなかったの!」


 言われてみれば、面接官の男はやけに温かい目で見てくれていた。


「そんなこと言って面接官が女だったら慌てちゃうだろ? だからあえて教えなかったんだ」

「もぅ……」


 どうやら好条件は揃っていたみたいだ。

 テストの出来も悪くなかったし、これならきっと合格しているはず。


 後は合格発表の日を待つだけだ……


「これでようやく全部終わったね」

「ああ。後はもう結果を待つだけだ」


 合格の欄にあたしの受験番号を確認するまでは、浮かれた気持ちにはなれそうにない。

 はらはらドキドキ。


 早く合格発表の日がこないかな……


 もうこの重圧から解放されて、楽になりたいよ〜

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