第41話 ♂恩師の少年
今日は合格発表日。
麗奈と一樹の三人で駒馬高校へ向かい、合格者の番号を確認しに行く。
「お願いお願いお願いお願いお願い」
俺が渡したお守りを握りながら、ひたすら祈っている麗奈。
「みんな合格しているといいな」
相変わらず余裕の態度を見せる一樹。
もうどうあがいても結果は変わらないので、俺は落ち着いている。
早く結果を見て、次のステップに進みたい気持ちでいっぱいだ。
駒馬高校へ着くと既に集まっていた同じ受験生たちから歓声や悲鳴が聞こえてきた。
「うわぁああああ! 何で俺の受験番号が無いんだよぉおお!」
最悪な結果を見て叫んでいる受験生。
俺もあの生徒のようになる可能性はある。
「ど゛う゛し゛て゛だ゛よ゛ぉ゛お゛!゛」
目の前で崩れ落ち、見ず知らずの俺に理由を聞いてくる受験生。
申し訳ないが、何も言えません。
「やった! 受かったよ瀧君! そっちは?」
「あー……俺は駄目みたい」
喜んでいる女性と落ち込んでいる男性。
カップルで受験したのだろうか……
「そっか……」
「本当に申し訳ない。どっちかが落ちたら、合格辞退して私立に通うって話だったし」
「いや、私は辞退しないで駒馬に通うよ」
「えっ、でも」
「だって瀧君、受験前もスマホゲームばっかやってたじゃん。勉強やらなくていいの?って言っても、今はイベント中だからノルマ達成しないととかほざいてたじゃない」
「それはそれ、約束は約束だろ?」
「うっさい! そっちが勉強しないのが悪いんじゃん! もう別れよ……私は駒馬で楽しい学校生活送るから」
「……ぴえん。出会い系のアプリでもダウンロードしよ」
目の前で破局してしまったカップル。
俺達にも絶望が待っているかもしれないので楽観視はできない。
「よし、俺達も行くか」
俺の言葉を聞いた麗奈と一樹は黙って頷き、受験番号表を確認しに行く。
並べられた番号が何百もある。
これだけ番号があると俺の番号もありそうに思えてくるが……
「あっ、お前の」
「待ていぃい!」
何かを言いかけた一樹を止める。
もう何か察しちゃったけど、空気読めよ!
「あった! 俺の番号あった!」
一樹の視線の先を確認すると、俺の番号が書いてあった。
喜びよりも安堵感が凄い。
頑張って良かったぁ……
「俺もあったぜ」
当然の結果だったのか、少し嬉しそうにしているだけで淡々と結果を報告する一樹。
「あ、あの……」
落ち込んでいる表情で俺達の元にやってくる麗奈。
まさかな……
「ちゃんと確認したか?」
「うん。念のため全部見た」
今にも泣き出しそうな顔をしている。
……どうやら結果は報われなかったのかもしれない。
「ごめん、もう止まらない」
涙をこぼす麗奈。
初めて泣いている姿を見たな。
人前では絶対に泣かなそうな麗奈が涙を流すなんて、やはりショックな結果だっただろう。
「まじか……」
かける言葉が見つからない。
何でこうなるんだよ……
「まぁ、その、なんだ、人生ってのは」
「合格したよぉ~うえ~ん」
いや合格したんかい!?
嬉し涙の方だったんかい!
「七渡ぉ……」
ふらふらしながら抱き着いてくる麗奈。
この場にいる誰よりも合格を喜んでいるみたいだ。
よしよしと麗奈の背中を撫でるが、当たっている胸の感触が気持ち良くてちょっと腰を引いてしまう。
「本当にありがとう。七渡のおかげだよ〜」
「いや麗奈の頑張りだよ」
「頑張れたのも七渡のおかげ。これから一生、あたしの人生を懸けて恩返ししていくからね。うわーん七渡〜」
「そんな大袈裟な……」
感極まって我を忘れているのか、人前で俺に抱き着きまくっている麗奈。
「高校生活楽しもうね」
「そうだな……でも、ちょっと人前で抱き着かれるの恥ずかしいかな」
「あっ」
冷静になったのか、顔を真っ赤にして俺からささーっと離れていった麗奈。
俺は仕事をしているであろう母親に合格したとスマホでメッセージを送る。
一樹は電話で報告しているようだ。
「麗奈は両親に報告しなくていいのか?」
「お母さんには報告したよ」
「お父さんは?」
「あー……ごめん、言ってなかったけど実はあたしのお父さん四月に亡くなってて」
「そうなのか!?」
麗奈から衝撃的な事実を伝えられる。
そういえば四月に麗奈が一週間ぐらい休んでいたことがあったな。
サボっていたのかたと思っていたが、父親の葬式や通夜で休んでいたのだろう。
「お父さんのためにも、どうしても駒馬高校に合格したかったの。だから、駄目なあたしでも勉強できるようになりたくて、七渡にすがって勉強を教えてもらってた」
「そっか……お父さんもきっと喜んでいると思うよ」
「うん。これでお父さんに良い報告ができるよ。ホントにホントにホントにありがとう」
不真面目から真面目になりたいだけでは、あそこまでの努力はできなかったはずだ。
麗奈の努力の源は父親の存在が影響していたみたいだな。
そりゃここまで頑張れるわけだ。
「だからね、本当にありがとう。大袈裟なんかじゃなくて七渡はあたしにとって、かけがえのない人なんだよ」
真っ直ぐに俺を見て、感謝を伝えてくる麗奈。
「七渡のおかげであたしは変われた。今のあたしがあるのは七渡のおかげ。だから、あたしは七渡に一生感謝する。七渡の本気のお願いは、なんだって聞いてあげるよ」
両手を軽く広げて話す麗奈。
目の前にいる麗奈はまるで全てを受け入れてくれるような、そんな優しさと温もりで満ち溢れている。
「じゃあ、これからも俺とずっと仲良くしてくれないか?」
「うん。ずっと仲良くするよ」
麗奈とは今後も仲良くしたい。
これっきりの関係なんて嫌だからな。
「高校に入って、めっちゃイケイケのイケメン集団の方に行ったりしないか?」
「しないよ。ずっと七渡の傍にいる。七渡が退学したって、七渡が捕まったてね」
「俺はそんな悪いことしねーよ」
「知ってるよ、七渡が誰よりも優しい人だって。だからずっと一緒だね」
「……そうだね」
麗奈はただのクラスメイト……
そう呼び合えたのは昔の話だ。
今はお互いにとって大切な親友。
一緒に試練を乗り越えた相棒だ。
高校生になったら、俺達はどんな日々を過ごしていくのだろうか――
考えてみても上手く想像はできない。
きっとそれは今までに味わったことのない楽しい日々だからだろう。
「もう終わったか恥ずかしいやり取りは? ちょっと見てられなかったぞ」
「今良い雰囲気だったから! 空気読めや!」
茶々を入れてきた一樹に襲いかかると、麗奈がそれを見て笑っていた。
高校でもこんな風に笑い合いながら楽しめればいいな――
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