最終話 ♀悪友のギャル
受験が終わり、美容室で髪の毛を染めた。
今までは明るい金髪だったけど、少し抑えて明るめの茶髪にした。
あまり派手過ぎると、一緒いる七渡達も悪目立ちしちゃうしね。
ようやく違和感のあった黒髪から解放されて、少し気分が高揚する。
さらに、これから七渡とも会えるしね……
▲
「おっす」
待ち合わせ場所の駅前へ向かうと、既に七渡が待っていた。
もうほんと好き。
「本当に一緒に来てくれるの?」
今日は父のお墓参りにも付き合ってくれる七渡。
一緒に行こうかと言われて本当に嬉しかった。
「ああ。むしろ一緒に行っていいのか?」
「七渡なら大丈夫。他の奴はお父さんに会わせられないけどね」
あたしの領域に踏み込めるのは、お母さんと七渡だけ。
きっとこれからも、増えはしないだろう。
お父さんのお墓の前に辿り着き、手を合わせる。
隣で立っている七渡も手を合わせてくれている。
お父さん……
隣に立っている男はあたしの彼氏です。
なんちゃって。
「じゃーん、お父さんと同じ駒馬高校に合格したよ」
あたしは駒馬高校への合格証書を見せてお父さんに自慢した。
「麗奈のお父さん、俺達の先輩なのか」
「そうだよ。お母さんも一緒」
「だから駒馬高校へこだわっていたわけか」
きっとお父さんも天国でビックリしているだろうな……
生きていてくれれば、きっといっぱい褒めてくれてたんだろうけど。
「本当に凄いよ麗奈は。最初は英語の小文字のbとdの違いもわからなかったのに」
「それは言わなくていいから!」
そっか……
今は七渡があたしを褒めてくれる。
お父さんはちゃんと見守ってくれてるだろうから、それであたしは幸せなんだ。
「七渡はあたしを助けてくれた恩人で、勉強を教えてくれた師匠で、大切な親友なの」
「大絶賛だな」
「褒めるところしかないからね。ちょっぴり変態だけど」
「それは言わなくていい」
さっきは七渡に英語のくだりで余計なことを言われたので、余計なことを言い返してやった。
「よかったな、良い報告ができて」
「うん。それもこれもぜーんぶ七渡のおかげだよ」
自然と七渡の背中に触れた。
今までは我慢してたけど、これはからもう我慢しなくてもいいよね――
▲
今日は卒業式だ。
長かった中学校生活がようやく終わる。
七渡と遊びたい気持ちをずっと我慢していたから最後の一年はすっごく長く感じた。
体育館での卒業式はだるい。
パイプ椅子も固くてイライラする。
生徒の名前が呼ばれてもほとんど知らない生徒だから、誰だよあんたらって感じ。
高校生になったら一匹狼みたいな態度は止めて、もっと話せる知り合いでも作りたいなとは思うけどね。
「天海七渡」
「はい」
七渡が呼ばれて卒業証書を受け取っている。
ほんとカッコイイ。
あの背中大好きだなぁ……
高校生になったら七渡と付き合えるかな?
手を繋いだり、キスしたり、家でイチャイチャしたり……
そんな未来が待っていてもぜんぜん不思議じゃないよね?
駄目だ……想像すると顔がにやけちゃう。
「地葉麗奈」
「はいっ」
卒業証書を受け取り、席に戻る。
周りの女子生徒たちが泣いているのを見て、少し物悲しい気持ちになる。
高校生活ではいっぱい思い出を作って、あたしも感極まって学校の一員として泣けるようになりたいな。
「廣瀬一樹」
「はい」
廣瀬が呼ばれて卒業証書を受け取っている。
七渡の親友の良い奴だけど、いまいち何考えているのかわからない男だ。
高校生活であいつの全貌が明らかになればいいんだけど。
卒業式も終盤になり、みんなで卒業の定番曲を歌う。
ほとんど中三の思い出しかないから、頭に浮かぶのはほとんど七渡だ。
今までみんなで歌う歌の時は口パクで歌ってるフリをしてやり過ごしていたけど、今日はちゃんと歌った。
この芝坂中には七渡と出会わせてもらったという大きな感謝があるからね……
卒業式は終わり、体育館から退場して開放感を得る。
「んあーやっと終わった」
「おいおい、もっと感慨深さとかないのか」
あたしが他の生徒と違ってスッキリとしているからか、七渡からツッコまれた。
七渡にツッコまれるのは好き。
友達みたいなやり取りだから、仲の良さを実感できる。
これからもいっぱい七渡にツッコんでもらいたいな。
「あたしこういう式とか学校行事に意味を見出せない人だからさ」
「相変わらずだな」
「だって長ったらしくてめっちゃ時間無駄にしてない? 始業式とかやる価値わからんし、学年集会とか先生意味わかんないことしか言わないし」
無駄に集まって何の価値もない話を聞く学校の集会系はほとんどサボってた。
「何かを成し遂げた凄い人やスポーツ選手とかの話だったら興味を持って聞くけど、何も成し遂げていないであろう校長とか先生の偉そうな話を聞いても説得力無いし時間の無駄」
「……麗奈っぽいな」
「何それ馬鹿にしてんの?」
「違うよ。暴論なんだけど何かちょっと納得できるところがさ」
ヤバい、つい熱くなって自分勝手なこと言ってた……
性格悪いって思われちゃったかなぁ?
「嫌いになった?」
「いいや。むしろ嬉しい」
「嬉しい?」
「勉強ができるように真面目になっちゃったのかと思ったけど、根は何も変わっていない。麗奈は麗奈なんだなと思って。それが嬉しいんだよ」
「七渡……」
あたしを否定しないで、ありのままのあたしを理解して受け入れてくれる七渡。
なんかお父さんに似てるな。
お父さんもちゃんとあたしの話聞いてくれて、頭ごなしに否定しないで、あたしの考えを理解してくれてた。
「ギャルじゃない麗奈は麗奈じゃないからな。それと同じだ」
「何よそれ。まぁ七渡が望むならいつまでもギャル風ではいてあげるけど」
「いつまでもか……麗奈がギャルママとかになったら痺れるな」
あたしがお母さんになっている未来を妄想しているのか、顔を赤くしている七渡。
「ウェイ、地葉さん卒業おめでとう」
「卒業してもこのクラスのみんなで会おうぜい」
クラスメイトの男子二人に卒業を祝われた。
とりあえずまた会おうねとは返しといたけど、申し訳ないが七渡以外に興味がなくてあんたらの名前すら知らんかった。
七渡達と仲良くなったことでクラスメイトからも話しかけられるようにもなった。
中三になってようやくだったので、時すでに遅しな感じだったけど……
高校では女友達とか作って恋愛相談とかしてみたいかも。
そういうのちょっと憧れるし。
「あっ、お母さんだ」
お母さんを見つけたのでこっちに手招く。
「本物のギャルママじゃねーか……」
あたしのお母さんを見て驚愕している七渡。
気合を入れているのか、お母さんはいつもより派手な化粧をしている。
「おーい、クラスのみんなで写真撮るって」
七渡にお母さんを紹介していると、あたし達の元に廣瀬がやってきた。
「って、めっちゃ美人で綺麗な人いる!?」
珍しく廣瀬が真っ赤な顔を見せている。
どうやらあたしのお母さんに見惚れていたようだ。
そういえば七渡が廣瀬は熟女好きだって言ってたな……あたしのお母さんも狙われてる!?
「三人で写真撮ってもらおうよ」
あたしはお母さんに七渡と廣瀬と三人でいる写真をスマホで撮ってもらった。
その写真はあたしの宝物となった――
▲
「あぁ~楽しかった」
夜のクラス会打ち上げが終わり、七渡と廣瀬と一緒に帰る。
四月の時の最初のクラス会に誘われなかったのは今でも覚えている。
クラスの集団と合流しそうになって慌てて隠れた嫌な思い出だ。
でも、最後のクラス会は誘われた。
結局クラス会でも七渡と廣瀬とほぼ一緒にいたけど、知り合いの人とは少し話せた。
なんという成長。凄いぞあたし。
これなら高校の新しいクラスでもみんなと仲良くできるかな……
なんだか青春をしているって感じがして、心が凄く充実した。
そしてこれも全部、七渡のおかげなんだよね。
「楽しかったな。でも、みんなと一緒なのが今日で最後だと思うと寂しいよ」
七渡はあたしと違って友達が多い。
その理由は明白であり、七渡は誰にでも優しくて誠実な人だからだ。
あたしだけに優しいわけじゃない。
だから女子からの好感度は高いし、みんなからも信頼されている。
きっと高校生になっても七渡は変わらないはずだ。
変な女が寄ってこないように初日から警戒しないとね。
「あたし達はずっと一緒だよ」
「ああ。無理かもしれないけど、大学もな」
「無理じゃないよ。あたしは七渡と一緒の大学目指すもん」
あたしは七渡と同じ道を歩みたい。
特にやりたいことも見つかってないし、あたしの将来の夢は七渡の奥さんになることだから。
学部は違っても同じ大学には通いたい。
その後は……家族になっちゃったりして。
「おいおい、また一緒に勉強タイムか?」
「嫌なの?」
「嫌じゃないよ。あんなに楽しく勉強できたのは初めてだ」
「七渡……」
あたしも同じ気持ちだ。
七渡との勉強は辛かったというよりも、楽しかった思い出となっている。
「ありがと」
あたしは好きという感情が抑えられなくなって、七渡の腕に抱き着いた。
「お、おい、恥ずかしいよ……」
「あたしだって恥ずかしいよ!」
七渡に触れている。
七渡の腕にあたしの胸が当たってる。
それだけであたしはもう幸せ過ぎて胸がいっぱい。
「ごめん、今日だけは許してね」
「うん、わかった」
七渡に出会えて本当に良かったな。
やっぱり七渡はあたしの運命の人だ。
どんなことが起きても、どんな強敵が現れても、七渡だけは渡さない。
あたしは七渡とずっと一緒に生きていくんだ。
その夢をあたしは諦めない。
何が起きても諦めきれない。
絶対にね――
―― 完 ――
【あなたを諦めきれないギャルじゃダメですか?】桜目禅斗
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