第22話 ♀自己中なギャル


 ふぅーーー


 あたしは大きく深呼吸をした。


 最近、頭の中が大混乱していて心は穏やかじゃない。

 天海のことを好きとはっきり認識してしまってからは、冷静を欠いちゃっている。

 今は勉強に集中しないといけないし、恋に浮かれている場合じゃない。


 全てが終わったら天海との恋を始めればいい。

 今はまだその時じゃないんだ。


「もふもふ」


 天海からプレゼントされたブランケットに顔を埋める。ぬくぬく。

 これだけであたしの疲れは吹き飛んで幸せな気持ちになれる。


 好きな人からのプレゼントがこんなに嬉しいものだなんて知らなかったな……


「にゃへへ」


 嬉し過ぎて変な声が出てしまう。


 いきなりブランケットとかセーターとかプレゼントしてきて、天海もあたしに気があったりすのかな? しちゃうのかな?


 いやだから浮かれてる場合じゃないんだって!

 今は勉強! ちゃんとやらないと天海にもがっかりされちゃう!

 やるぞ、うぉおおお!



     ▲



 学校へ着くが天海の姿はないので、がっかりしちゃう。

 天海に会いたいからいつもより早く来たのに……意味ないじゃんか。


「もう登校かよ、不良ギャルの見た目なわりに優等生だな」


 廣瀬が教室に入ってきた。

 男とは関りたくないけど、天海の友達だから仕方なく話すか。


「別に、早く準備できたから早く来ただけだし」

「普通は早く起きてもギリギリまで家にいたいもんだぞ。もしかして、天海に早く会いたいとか思ってたんじゃないか?」

「ん、んな、のー、ううう、んなわけあるか!」


 何故か言い当てられてしまいめっちゃ焦る。

 こいつエスパーか何かなの?


「動揺し過ぎだろ」

「ぜんぜん違うから! 誤解しないで!」

「天海にはぜんぜん会いたくないってか?」

「んなわけなくなくもないよりないでしょ!」

「どっちなんだよ」


 取り乱しているあたしを見てニヤニヤとしている廣瀬。

 くそ~ムカつく!


「それにしても暑苦しいな」


 廣瀬はあたしの姿を見て苦言を呈している。


 その理由は天海からプレゼントされたセーターに違いない。

 袖を巻いているとはいえ、暑いのに無理やり着ているからだろう。


「天海からプレゼントされたの」

「まじかあいつが……珍しいな」


 廣瀬が珍しいと感じるってことは、きっと天海はあまりプレゼントとかを渡さないタイプなんだ。

 それなのに貰えるあたしって、どんだけ好かれてんだよコラ!

 そんなの嬉し過ぎんじゃんかコラ!


「でも何で今の時期にセーターなんだ? あいつアホだろ」

「本人はカーディガンを買いたかったって言ってて、何かの手違いがあったみたい。あたしはセーターの方が冬でも着れるから嬉しいけど」


 間違いでもあたしのためという事実が嬉しい。

 このセーターは冬になっても、高校生になっても、ずっと着続けよう。


「あと、次あたしの前で天海のことアホとか悪く言ったらキレるから」


 天海の友達の廣瀬とはいえ、自分の好きな人を悪く言われるのは許せない。


「どんだけ好きなんだよ……」


 あたしを見てドン引きしている廣瀬。

 しかもあたしが天海が好きだと決めつけている。


「好きじゃないし! 何で好きってことになんの!?」


 嘘です。めっちゃ好きです。

 好き×7万くらい好きです。

 勉強以外は天海のことしか考えていません。


「顔を真っ赤にして嬉しそうにしてたら誰だってわかるだろ。それにもっと前から知ってたぞ、天海の前だけ地葉の態度は違うしな」

「そ、そんなことないから。勘違いもいい加減にして」

「わかった。そういうことにしとく」


 廣瀬は納得してくれる。

 自分以外の人にあたしが天海が好きだとバレるわけにはいかない。


「安心しろ。天海には地葉が好きみたいだぞとは伝えないから」

「良かった……気が利くじゃん。今はお互いに勉強に集中したいからさ」

「やっぱり好きなんじゃん」

「しまった!?」


 つい安心して、廣瀬の言葉に乗せられてしまった。

 なんという策士だ……

 ほんと、腹立つわねコイツ。


「まっ、俺はなんとなくそうなるだろうと予想してたよ。あいつも地葉と同じクラスになってから変に執着してたし、そういう運命だったんだろうな」


 廣瀬に運命と言われてときめいてしまう。

 

 ……やっぱり、あたしと天海が出会うのは運命だったんだ。

 絶対にそう、この運命は大切にしなきゃ。


「でも、道は険しいと思うぞ。俺はあいつがどんなやつか知っているからな」


 その時の廣瀬の言葉は、今のあたしにはまだ理解できなかった――



「そういえば、期末テストの成績はどうだったんだ?」

「国語57点、数学60点、英語71点、日本史88点 理科78点だった」

「は? 普通にできてんじゃん」


 去年の夏の期末の成績は国語24点、数学6点、英語4点、日本史4点 理科12点だった。

 今思うとアホ過ぎて大反省だ。


「そりゃ、死ぬほど勉強してるし」


 時間を無駄にしないように、できる時間は全て勉強に費やしているもんね。


「誰しもが勉強をやろうと思ってできるわけじゃない。素直に凄いと思うぞ」

「色んな先生にも答案返却の時に頑張ったねって褒められたよ」

「不良が頑張るとちょっとしたことで褒められがちだが、みんなも同様に頑張ってる。浮かれ過ぎるなよ」

「んなことわかってるっつーの」


 どんなに褒められても駒馬高校への受験に合格できなければ意味は無い。

 そうなれば天海とも離れ離れになっちゃうし、努力は報われずに無価値になってしまう。


「これからも死ぬ気でやるだけよ」

「……頼もしいな。今までは七渡と地葉と同じ高校に通っているヴィジョンが見えなかったが、今では少し見えてるぞ。逆に七渡が薄れてきているが」

「何で七渡が薄れてきてるのよ」

「あいつの期末テストの結果、微妙だったからな」

「は?」


 天海はあたしに期末テストも良い結果だったと言っていた。

 でも、廣瀬は結果が微妙だったと言っている。


 天海はあたしが負担になっていると思わせないために、あえて自分の成績が良い結果だったと見栄をは張ってくれたのかもしれない。

 天海の馬鹿……

 大好きだけど馬鹿。ばかばか。


 あたしも一人でできることはなるべく一人でやるようにしないと。

 天海への負担を少し減らして、天海だけの時間も用意してあげなきゃ。


 もっと気を使ってあげるべきだったな……

 自分のことばっか考えてた。


「うわ~ん天海ごめん、嫌いにならないで~」

「急に泣きわめくなよ」

「だって天海が~」


 あたしのばかばかばか。

 もっと天海のことも考えてあげないと。

 天海のこと好きすぎて浮かれ過ぎてた。


「俺がどうしたんだ?」

「天海っ!」


 天海が教室へ入ってきたので、慌てて駆け寄った。


「ごめんね天海」

「何がだ?」

「自分のことばっか考えてて、天海の時間とか気にしてなかった」

「……んなことは気にすんなよ。俺は問題無くやれてる」


 あたしの前では弱音を一切吐かない天海。

 そんなところも好きだけど、も~


「とにかく、自分でやれる時は一人でやるようにするね」

「お、おう。それで大丈夫なら、それでいいけど」


 天海とできるだけ長く一緒にいたいけど、それで天海に負担をかけてしまうのは本末転倒だ。


「本当にありがとう。この恩は一生忘れないから」

「そんな大袈裟な。一緒に頑張ろうぜ」

「うんっ」


 天海が拳を軽くあげたので、あたしの拳をくっつけた。ぺしっ。

 何これ、親友っぽくて好き。


 今はまだ天海にしてあげられることは少ない。

 でも、未来にはあたしがしてあげられることはいっぱいあるはずだ。


 一緒に駒馬高校に進学して、高校生活で天海に尽くしまくって恩を返すんだ――

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