第16話 ♀味方のギャル
最近は学校が少し楽しく思えるようになってきたかな……
給食の時間が終了する前に、天海が先生に呼ばれて教室を出て行ってしまった。
早く話したかったのに……しょぼん。
あたしは昼休みに天海といつもの場所で落ち合うつもりだったが、天海の呼び出しがいつまで続くかわからない。
先生もいなくなってしまったので困っちゃったな。
唯一、詳細を知っていそうなのは天海と常に一緒にいる廣瀬とかいう男だ。
天海がいないからか自分の机で静かに勉強をしている廣瀬。
天海以外の男に話しかけるのは嫌だけど、あいつに聞くしかないか……
「ちょ、ちょっと」
人に話しかけるのは緊張する。
特に男子は嫌いなので苦手だ。
天海のおかげで多少は慣れた気がしたけど、あいつが特別なだけでやはり苦手なのは治っていない。
廣瀬との距離も十分にとってしまっている。
「おわっ」
あたしの顔を見て、顔をひきつらせている廣瀬。
そんなにあたしに話しかけられるのが嫌かコラ。
「ち、地葉か……どうしたんだ?」
「あんたの友達がさ」
「
「は?」
誰だよ吉澤って!
天海のことって気づけよ!
「あ、天海……」
何故か天海のいないところで天海と口に出すのが恥ずかしい。
理由は自分でもわからない。
なんでだろう……
「七渡のことか?」
「そ、そうよ、普通わかるでしょ!」
やばっ、何故か無意味にキレてしまった。
天海の友達には嫌われないようにしないといけないのに……
「七渡がどうかしたのか?」
「どこ行ったの?」
「あーあいつなら説教されてるよ」
「は? 何でよ?」
天海が説教されるほどのことをする人とは思えない。
優しい善人のイメージだし、むしろ褒められることの方が多そうだ。
「昨日、久しぶりに学校に来た男子がいたんだ。天海はその男子が教室に馴染めるように積極的に声をかけていたんだけど、それを見た先生達は嫌がらせと受け取ったらしい。天海がその男子を面白がって話しかけているってな」
「何それ! 天海が優しいだけで何も悪くないじゃん!」
「俺も天海をフォローしたが先生達は聞く耳持たずだ。先生達は余計なことはしないでほしいという考えなんだろうな」
「ざけんなし、殴り込みに行く」
「止めろ。天海も軽く受け流すって言ってたし、事をこれ以上大きくするな」
意味わかんない。まったく納得できない。
何故、良い事をした人が怒られなきゃいけないのか……
「意味わかんないんだけど」
「世の中ってのは理不尽なんだ。学校では先生が絶対だから、自分が正しくても先生が駄目と言ったら駄目になる。それが社会ってやつさ」
「ウザっ」
あたしは理不尽という言葉が嫌いだ。
本当に嫌い。
「地葉は七渡のことどう思っているんだ?」
「ふぇ!? べ、別に、その……なんともその」
急な廣瀬の質問にあたしは慌ててしまう。
どうしよどうしよ、上手く言葉が見つかんない。
「そうか。あいつは良い奴だから、よろしく頼む」
何も言わずに誤魔化したのに、何故かわかりきった顔をしている廣瀬。
やっぱり男は嫌い。
こいつが天海の友達じゃなかったら関わりたくもない。
「あいつはギャルが苦手らしい。対応が失礼でも、あまり気を悪くしないでくれ。あいつに悪気はない」
やはり天海は自他共に認めるギャル苦手らしい。
あれ? でも、出会った時に天海は助けてくれたよね……
ギャルが苦手なのにわざわざ助けてくれたとか、あいつどんだけ優しいの?
あたしだったらクラスメイトの男子が絡まれていても絶対に見捨てるって……
「顔が赤いぞ?」
「いやいや、何でもない。何でもないって!」
何故か天海のことを考えていたら身体が温かくなった。意味わからん。
頭の中で天海のことを振り払おうとしても、ぜんぜん消えてくれないし。
これは何? 呪いか何か?
その後、五分ほど教室で待っていると天海が戻ってきた。
「あれ、珍しい組み合わせだな」
天海はあたしと廣瀬を見て、少し嬉しそうにしている。
あたしも天海が戻ってきてくれて嬉しい。
「あんたが呼び出されてたから廣瀬に事情を聞いてたの」
「そーかい。俺の親友さんは余計なこと言ってなかったか?」
「別に。終始澄ましててちょっとムカついただけ」
なるほど、廣瀬は友達じゃなくて親友だったってことね。
廣瀬へ友達は? って聞いて天海を最初に言わなかった理由がわかった。
「七渡、説教タイムはどうだった?」
「先生五人に囲まれて四方八方から注意されたよ」
やはり天海は説教されたみたいだ。
まじで意味わかんない。
しかも天海も廣瀬も納得しているというか、正しいことを諦めちゃっているのが何か嫌な感じだ。
「あたしは天海が正しいと思う。先生が間違っている」
「おっ、そう言ってくれると嬉しいよ」
「文句言いに行っていい? まじで先生共ムカつくんだけど」
「気にすんなよ。後一年もしない内に卒業して会わなくなるんだから」
天海は開き直っているようだが、あたしは許せない。
先生ってやつは何で生徒のことを理解しようとしないで、とにかく説教ばかりするのだろうか。
みんなはその理不尽を受け入れても、あたしは許さない。根に持つタイプ。
「もームカつくムカつく。何で優しい天海が怒られなきゃいけないの!」
「地葉が俺の代わりに怒ってくれるだけでスッキリするよ」
「天海は正しい。天海が正義。あたしはずっと天海の味方でいる」
天海に理不尽を与えるのなら、あたしがその分、天海にいっぱい優しくしてあげよう。
天海が報われないのなら、あたしが報わせてあげるんだ。
「まっ、良いことや正しいことをしていれば味方は増えていくさ。お前に集う俺や地葉みたいにな」
廣瀬の言葉は納得できる。
あたしも天海の優しさに救われたしね。
きっと廣瀬もあたしと同じように、天海に助けられたことがあるのだろう。
良いこと言うじゃんか……
天海の親友なだけあるわね。
「でも、いいなー親友って。あたしもそういう関係の人、人生で一度でもいいから欲しい」
正直、天海と廣瀬のような関係は羨ましい。ズルいズルい。
信頼し合っているし、何でも言い合える仲ってやつだ。
「地葉も作ればいいだろ」
「あたしに友達なんていないもん」
「じゃあ、数少ない友達の俺が親友候補だな。頑張れ」
もー天海ったら、何でこう、いつもいつも嬉しい言葉をかけてくれるんだろう。
そんなこと言われたら、頭の中が天海でいっぱいになっちゃうじゃんか馬鹿っ!
「……頑張る。あたし頑張るからっ」
「お、おう。気合入ってんな」
天海ともっと仲良くなりたい。
天海ともっと深い関係になりたい。
これからもずっと傍にいたい。
だから勉強頑張って、天海と一緒の高校に通うんだ――
「今日からさらに一時間勉強する時間増やそ」
「気合入ってんな。あまり無理はするなよ」
「今無理しないで、いつ無理すんのよ」
天海との未来を迎えるために、あたしは本気出すぞ!
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