第20話 ♀抑えきれないギャル
今日も放課後に天海と図書室で勉強会の日だ。
天海から用事があるから先に図書室へ行っといてと言われた。
しかし、あたしは天海がクラスメイトの夜明と一緒に廊下を出て行ったのを見て、図書室へは行かずに二人の後をこっそりと追っている。
夜明は毎日ではないが、天海と話をしているところを何度か見ている。
そんな事情もあって、あたしは少しもやもやしている。
天海があたし以外の女と話すのはイライラする。
でも、それは身勝手な感情なので口にしないで抑えないといけない。
「天海君と地葉さんって付き合ってるの?」
人通りのない廊下で夜明が天海に話しかけた。
「えっ、何で?」
「最近、二人でいるところよく見るから」
「別に付き合ってないけど……」
天海の言葉を聞いて何故か少しがっかりしちゃう。しょぼん。
別に付き合ってないし、あたしにとって天海は勉強を教えてくれる友達なんだけどさ……
「じゃあ何で一緒にいるの?」
「地葉に勉強を教えてって頼まれて、それで」
「……あたしも地葉さんに勉強を教えてって頼まれたことある」
余計なこと言うなって夜明め。
それじゃああたしがまるで、夜明が駄目だったから天海に頼み込んだみたいになるじゃんか。
「でも、からかい半分で頼み込んできたから断ったの」
いやガチだったから!
委員長が介入してきて突き放されたんだっつーの!
「地葉は本気だった思うけどな」
流石は天海。
あたしのことちゃんと理解してくれてる。
えらいえらい。
「そうかな……天海君にも教えるだけ教えてもらって感謝とかしてないんじゃない?」
ふざけんなコラ!
天海にはめっちゃ感謝してるっつーの!
これから人生賭けて感謝ラッシュしていくつもりだっつーの!
「それに、地葉さんの良くない噂とか聞くからさ。天海君のことが本当に心配だから言っているんだよ」
あいつなんなのよも~!
今から出ていって文句言ってやりたいけど、盗み聞きしてましたとは言えないし。
ぐぬぬ……
「地葉は、見た目は校則全無視したちょっとヤバい人だけど、そんな危ない人じゃないぞ」
あたし天海にヤバい人だと思われてる……
しかもフォローが弱いって。
「……これからも勉強を教えていくの?」
「そのつもりだし、そういう約束だから」
天海の言葉を聞いてホッと胸を撫でおろす。
あんな奴にそそのかされてやっぱり止めるなんて言われたら、ショックで倒れるところだった。
「地葉さんに勉強を教えても天海君の負担にしかならないよ。天海君、駒馬高校目指してるんでしょ? そんな余裕はないと思うし、自分も行けなくなっちゃうかもしれないよ?」
しつこいなあの女~、早く天海を解放してよ!
でも、夜明の言う通り、天海に負担をかけているのは確かだな……
「天海君が優しいから地葉さんのお願いを引き受けたのは理解できる。でも、勉強というのは日々の積み重ねであって、サボり続けてきた地葉さんが今から受験頑張ろうなんて無理だよ。それに、他の人たちだって同じように勉強を頑張るんだし。天海君が背負う必要無いよ」
きっと夜明はあたしのことが嫌いなんだろうな……
天海にネガティブキャンペーンをして、あたしを天海から引き離したいんだ。
流石にこのまま悪く言われるのも酷なので、姿を現す準備をしよう。
「どうなるかは、やってみなきゃわかんねーよ。他の人が勉強してるんだったら、その倍勉強すればいい。今までサボってたなら、三倍勉強すればいい。スタートが遅れたからって逆転できないわけじゃない」
天海……
やばっ、ちょっと泣きそうになったんだけど。
なんなんのあいつ、良い奴過ぎない?
「スポーツだって勝てるわけない相手に勝てたりする。死ぬ気で努力すれば1パーセントの可能性すらつかめるんだ。俺は負けず嫌いだしな」
ちょっと待って、本気でヤバい。
この気持ちはダメだって……
薄々気づいてたけど、もう抑えきれない。
あの言葉が頭の中に溢れてきている。
見て見ぬふりができなくなってる。
ヤバいヤバいヤバい!
ダメなの……あの言葉は今はまだダメ!
「そっか……」
「夜明さんが俺のこと真剣に考えてくれて、止めた方が良いって言ってくれる気持ちは嬉しいけど、もう俺は覚悟決めちゃってるから」
好き――
好き好き好き好き好き。
あたしは天海のことが好き。
好きという気持ちが止まらない。
今までは言葉にしないようにしてたけど、もう無理。
天海の性格とか言動とか対応とか顔とか全部好き。
あーあ……抑えきれずに全部出ちゃった。
「天海君、趣味悪いね。カッコイイこと言ってるけど、地葉さんが可愛いからとかエッチだから勉強教えてるだけでしょ? 下心丸出しで気持ち悪いよ」
「えっ」
自分の思い通りにならなかったからか、急に態度を変えた夜明。
その言葉に天海はショックを受けている。
あたしの天海に何言ってくれてんのよ、まじで許せない。
天海が攻められたら、あたしが絶対に味方になって守る。
そう決めてるから――
「ちょっとそこの性悪女さん、さっきからうっさいんだけど」
「地葉さん、何でここに!?」
「黙って聞いてりゃ勝手なこと言いやがって」
あたしは夜明を睨むと、真っ青な顔で怯え始める。
「おい地葉っ、あまり夜明さんに怒らないでくれ」
「…………」
夜明にさらにがつんと言ってやりたかったけど、天海に怒らないでくれと言われたら止めるしかない。
「もう天海に関わんないで。天海のこと悪く言ってる噂でも聞いたら、その時はわかってるよね?」
「ごめんなさいっ」
泣きそうな表情を見せながら去っていった夜明。しっし。
別にあたしのこと悪く言う分にはかまわないけど、あたしのせいで天海を悪く言うのは絶対に許容できない。
「地葉……聞いてたのか?」
「ごめん、気になって」
天海と目が合ってしまい、胸の鼓動が止まらなくなってしまう。ドキドキ。
もう心の中で好きと明確に言葉にしてしまったから、後戻りできない。
天海が好きな気持ちは、あたしの中では隠せない。
「でも、ありがとね。天海の言葉であたしもさらにやる気出たよ。周りの奴らぎゃふんと言わせるぐらい頑張るからさ」
「……信じてるぞ」
「うん。任せてよね」
「今までの地葉の態度を見て、真剣なのも伝わっている。きっと大丈夫だよ」
天海はあたしを安心させるように笑顔を見せてくれる。
その天海の笑顔があたしは大好き。
キュンとしちゃう。
好き好き好き好き好き。
頭の中で好きが爆発している。
もうまともに顔が見れない。
「ごめん、今日は色々あったからもう帰るね」
あたしは頭の中が整理できなくなってしまい、この場から逃げ出そうとする。
「待った」
そんなあたしの腕を掴む天海。
逃がしてはくれないみたいだ。
願うことなら、ずっと掴んでいてほしい。
このまま一生傍にいたいから。
「今日も一緒に頑張るぞ」
天海はいつもあたしに頑張ろうと言って鼓舞してくれる。
天海が言葉をかけてくれるだけで、あたしは幸せになってしまう。
「が、頑張ります」
「何で敬語なんだよ」
「すみません……」
ヤバい……
天海のこと好きすぎて上手く話せなくなっちゃった――
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